十三話
目が覚めて、私は昨日の事を思い返す。
そのまま私は、着替えを始める。
彼女の、柊の様子はどうだろうか? 少し心配だった。
いつもより早く起き、そのまま『特定特殊装備保管庫』に向かう。
そのまま血液をアタッシュケースに入れ、制服の状態を確認。
ホールで、彼女が来るのを待つ。
「どう? 体調、バカは風邪を引かないって言うけど病気は心の病じゃないわ。悪い様子なら、今日の探索は私一人でするけど……」
「だ、大丈夫ですよ伊勢さん。心配しなくても大丈夫です、ほらこんな感じで元気ですし……」
現れた人影に、私は声を掛ける。
柊だ、柊 真琴が来た。
思った以上に元気そうで、私は安心しながらアタッシュケースを渡した。
今回の作戦だけを考えれば結構な量の血液だ、だがお荷物一人抱えて戦う事を考えれば十分な量の血液だろう。
この地域は失踪事件の数が少ない、多くても10は超えないだろう。
「なら良かった、と言うわけでコレを持っておきなさい。説明は車の中で行うわ、いい?」
「はい!!」
「ヨシ!! いい返事ね」
元気な返事に私は少しだけ笑ってしまった、そのまま車に向かって歩き出す。
行動は早い方がいい、時間を与えれば被害は拡大していく。
市民を守るためにも、やはり時間は早い方がいい。
車に乗り込む、そして改めてこの車の非合理性に呆れた。
態々自らクラートである事を名乗りながら戦地に赴くなど、鴨がネギを背負っているようなものだ。
バカバカしい、変なところで生真面目だからこの国は被害件数も多い。
人を救うためなら、ある程度の道理は捨てなければならなだろう。
「到着しました、速やかに退車し武装の展開を済ませてください」
「言われなくても分かってるわよ」
思考が空回りする、今日はいい予感がしない。
私は少し不機嫌になりながら、車を降りる。
周囲を見れば昨日の商店街、その外れであり多少暴れても迷惑は掛からないだろう。
スキルヴィングを展開し、地下に潜る。
中は暗い、ライトを照らした柊を止め私は冷静に周囲を見渡す。
重々しい空気に、仄かに嫌な空気が混じっている。
間違いなく、ここに魔徒が存在する。
確信と共に、槍を振る態勢にする。
暗い、ソレに水が溜まっている。
槍の能力を展開しても、ここでは決定打にならないだろう。
確信めいた感情を抱き、そのまま周囲の様子を見る。
しばらく歩けば血痕を発見した、私はソレを調査しようと屈み。
そして音を耳にする、水の中から音が聞こえる。
立ち上がって、そのまま槍を振り抜いた。
「幸運ね、相手は一体。油断しなきゃ、楽勝よ」
勝てる、確信と共にスキルヴィングの特殊能力を発動させた。
スキルヴィングには特殊能力がある、私は物理型の特殊能力である『
槍、厳密に言えば西洋風の薙刀であるグレイブ。
その力を装填し、発揮させた。
雷と共に、熱が発生し魔徒の腕を切り裂く。
鮮血と共に、腕が水路に落ちた。
同時に、槍の炎が消える。
消耗が激しいようだ、下水道という環境も原因の一つだろうが。
「強いわね? 何人食い殺したのよ!?」
おそらく、それ以上に個体が強い。
一人二人を殺した程度の強さじゃない、十人か。
もしくは、それ以上か。
視界の端で柊が銃を構えたのを見た、だが血液が十分に装填されていない。
アレでは戦力にならないだろう、パニックを起こしている様子を見ても間違いなく。
私は諦め、そのまま足を踏み出した。
同時に、魔徒が急速に動く。
私の反応速度は遅くない、だがその反応速度を超える勢いで迫ってきたのだ。
追撃を行おうとした姿勢を、急に防御に転換するのは不可能。
脇を縫い、迫った魔徒は柊を殴り飛ばした。
「巫山戯んじゃないわよ、魔徒風情がッ!!」
巫山戯るな、そう叫んだ途端に私の体は動いていた。
女性の、私が結構気に入ってる女の、柊の体に傷を付けようなんて巫山戯るなと言う話だ。
万死に値する、故に即刻殺す。
もとより、魔徒などと言う獣風情を生かす価値などない。
雷のように、と言うよりは雷の速度で切り掛かっている以上適切な言葉ではない。
音速よりも早く、人の認識の埒外の速度に耐えられる生命は珍しく。
当然、そこらの雑魚が耐えられるわけもない。
「……、ダメね。予想以上に強いわ、しかもこの強さならコロニーも作ってるわね? 参った」
困った、困り果てたと言い換えてもいいかもしれない。
私は息を吐き、眉間に皺を寄せて首を振る。
強さが異常過ぎる、恐ろしいほどの強さだ。
私一人ならば十分に戦い抜けるだろうが、柊までは守りきれない。
ならばここで撤退させるべきだ、ソレが私の判断だった。
彼女の腕を切って下がらせるべきだ、ソレが私の判断だった。
無論怪我をさせる必要はない、だが表面的な怪我もなく戦闘続行可能なのに弱いからなどと言う理由で撤退させれば後で問題になってしまう。
私が汚名を切る分には構わない、だが彼女の評価が下がりスキルヴィングの所持を認められなくなれば出会う時間が減る。
ソレは困る、困ってしまう。
「戦闘続行を不可能と見做すわ、このままだと死体が二つになりかねない……。本来なら褒められるべきじゃないんだけど……、少し痛いわよ?」
彼女は文句を言わなかった、と言うより脳内で起こった出来事を処理仕切れていない様子だ。
だが、ここから退くべきだと私が告げていることは理解できたらしい。
泣きそうな目で私を見ながら、スキルヴィングを取って戦う意志を見せようとしている。
「シナリオはこう、戦闘中に怪我をしてあんたは一時撤退。いい? まっすぐ帰るのよ、バカでも来た道ぐらい帰れるでしょ?」
だから、有無を言わさず返すべきだ。
私が言葉を告げれば、目の奥に安堵と焦りと羞恥が見える。
少しだけホッとして、私は笑った。
好きになれた人が私の言う事を聞いて、自分の命を守ろうと考えていること。
そしてその思考をしていることに、自分自身が恥じていること。
この二つが伺えたから、私は嬉しくなった。
逃げる彼女の後ろ姿を見ながら、私は安堵を覚え。
そのまま、再度闇の中へと視線を向けようとして。
「初めまして、国際特務対魔徒機関『
老紳士が、そこに立っているのを見た。
はっきりと言葉を喋っている、全身から冷や汗が垂れる。
恐怖を覚える、狂気を感じて。
それだけじゃない、遺伝子に刻まれた虐げられる者の弱音を覚える。
吸血鬼だ、目の前の存在は吸血鬼だ。
思考を終えるまでは早かった、槍に炎を纏わせ一気に迫る。
先手必勝? いいや、違う。
彼女を逃すために、私は時間を稼ぐべきだ。
私が帰還しなければいつか小鳥遊が気づく、そうすればまだどうにか。
「少しばかりその身柄を確保させていただきましょう、私一人では『金将』を倒す自信がないでしょう」
戦闘にすら、なっていなかった。
槍が動かない、体が動かない。
全てが拘束されている、全身に硬糸が絡まりついている。
目の前の老紳士が、ソレによって拘束しているのだ。
「宣戦布告、正面戦争したいですのでありますから」
「目的をペラペラと!! そこまで私は弱く見えるのかしら?」
「いいえ、ただ私が圧倒的に強いだけです」
私は吸血鬼の、その目を睨みつける。
直後、私は恐怖を感じた。
怖い、怖い。
怖くて怖くて、恐怖で恐怖で。
恐ろしい、怖い。
助けてほしい、助けて。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」
そして思わず叫び、ソレからの記憶はない。
目が覚めれば、私は牢屋に囚われていた。
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