魔王と勇者製造計画の寵児と魔王
勇者製造計画。
都市リベリオは、数十年に一度、未曾有の魔族災害に遭う。その発生源である魔王を討つ勇者――それを、人為的に作り出す計画。
魔王の発生に対し、勇者もまた連鎖的に生まれ出でる。よってこの計画は無意味だとされる。実際アングラなものなのだが、どこの馬の骨とも知らぬ魔術使いよりは人造勇者の方が信じられる(利用しやすい)とする出資者も多い。
……以上が、ジョー・キャッスルよりもたらされた、ピンク髪の手がかりである。
「製術機関! それは好都合ッ」
電話口で魔王みたいな声の男がそう答え、続けて要件を並べたメールが返された。
外付けできる術式によってアクターを
◆◆◆
「はじめまして――ボルス・ラースと申します」
(ラスボスです……!)
(ラスボスだ……)
ピンク髪の少女を伴ってクアンタム製術機関を訪れたのは、何らかの魔術で生み出した靄により姿を眩ませた男だった。それがさながらまだ全貌を明かさない、シルエット状態のラスボスのようで、ジュラとレィルはある種の興奮を覚える。
「こんな格好で失礼。どこに魔王の手先が潜んでいるともわからぬもので……」
「あ、気にしなくていいよ! 先生の趣味だから」
「コラッ」
ケラケラと笑うピンク髪。
「しかし……ペチャパイスキーくん、だったね? キミもコチラ側なのかい?」
相変わらずダンボールのマスクで素顔を隠しているジュラ。ボルスからねっとりとした同族意識を向けられ、レィルに助けを求める。
「こちらのペチャパイスキーも、趣味でこのような格好をしています。ふふ、何かと気が合いますね、ボルス氏」
「⁉︎」
ダシにされた。
「いい縁だ。縁はいい。話が円く収まるからな」
「先生、ホラ、お話だよお話」
ジト目でボルスを見上げたユイが催促する。
「あぁ、すまないね。改めてレィル嬢、話を聞かせてくれないか?」
「はい。まず我々、クラン“クアンタヌ”は、中級以上の興行に参加するために必須なメンバーの三人目として、そちらの……えっと……」
「この子かい?」
「えぇ、はい……その子の力を借りたいと考えております」
「この子である必要は?」
「ありません。しかし、先日その子とショッピングモールでお会いし、その実力と人柄から、その子が欲しくなりました。以上、ご検討のほど宜しくお願いします」
「……なるほど、簡潔だな」
深く考え込むボルス。その仕草があまりにも堂に入っていて、ジュラとレィルは努めて興奮を押し殺す。
「きみは、どうしたい?」
「ボクは別に、なんでもいいよ」
「キミは?」
「俺は……そうだな、目を引く容姿と尖った性能は興行映えすると思う。勇者製造機関の勇者候補……という認識でいいのか? ……そのバックボーンも、当然興行を盛り上げる要素になると思う」
「その認識で構わないよ。それで、……キミ個人としてはどうなんだ?」
「目を引く容姿と尖った性能は興行映えすると思う。勇者製造機関の勇者候補というバックボーンも、当然興行を盛り上げる要素になると思う」
「…………」
信じられない、という風に、ボルスはジュラを指しレィルに視線で尋ねる。レィルは自慢げに微笑んで答えた。
「……とんでもないのに声をかけられちゃったな……」
ボルスは、日頃より異質であることを心掛けてきた。その方が勇者を造る上で説得力を生むと考えているからだ。
それがどうだ。目の前に座る変なアクターは公私なく興行のことを考えており、そのオーナーはそんな彼を肯定している。三人目を探しているということは、もう一人のアクターもきっと変なヤツに違いないだろう――。
魔王、魔族災害という混沌の前でこそ、勇者はその輝きを放つ。濁流の中にあって、屹然とそこに在る秩序。それこそが勇者には不可欠なのだ。
ボルスは背中を突き破らんばかりの期待を抑え込む。
とんでもない好奇。願ってもない好機。
この子は、ユイは、リベリオの最高傑作は――
「任せよう。君たちに、このユイ・ラボグロゥンを。
最後に確認したい。“クアンタヌ”はなぜ、そうまで中級に上がりたいのだ?」
「復讐のためです」
レィルが、澄み切った目と声で返した。
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