ランニングマシン集会所にて

「改めまして! ユイ・ラボグロゥン、人造勇者です! 趣味は人助け! よろしくね」

「マスクド・ペチャパイスキーだ。よろしく」

「ギソード・ルーツだ」


 各種手続きがあるというので、レィルは外出中。

 誰ともなく三人はジムに集まり、自己紹介を始めた。


「人造勇者ってのは?」

 ユイを挟む格好で、ランニングマシン三台が稼働している。

「よくわかんない」


「女の子……だよな? 戦えるのか?」

「強いよ!」


「…………」

「ギソード、ほかに聞くことはないのか?」

「難しくないか? あとこういうのオレだけに押し付けるのよくないぞ」

「その方が上手くいくからな。頼りにしてるぞ」

「そういうのもよくない」

「……二人は仲良しさんだね?」

「あぁ、そうだな」

「……そう、なのか。そうか、そうだな」


「…………」

「…………」

「…………」


 ……。


「……このメンバーだとオレしか喋んねぇのな」

「必要なことは話すぞ」

「ボクはまだ緊張してるからね」


「走りながらだからじゃねぇか? 誰だよ、提案したの」

「俺だ。こうしないと、俺たちは話し合いの場を持たないだろう」

「結構ちゃんと気遣いできるんだな……逆に怖くなってきた」


 ……。


「いいペースじゃん、ユイ」

「でしょ。これでも基礎はちゃんとしてるんだよ」

「なににせよ第一に走り込みだ。爪先から髪の先、心拍数や汗まで、満遍なく意識して走ることで、魔力置換アストラル体の精度を高めることができる」

「ペチャパイスキーは学者さんだね」

「おう。興行で気になることがあったらペチャパイスキーに聞こうな、ユイ。人間辞めて空いた枠にそういうの入れてるタイプだ」

「ふふん」

 得意げに鼻を鳴らすジュラ。


「……興行って、なに?」

「あ、まずい」

「興行か? 知らなかったのか。……二人とも、少しペースを落とそう」

「長くなるのか……?」

「一時間もあればいい」

「……まぁ、いいところか……」


 ……。


「つまり、アクターというのは本来、数百年に一度の魔族災害の対策である魔術使いの維持・管理、訓練を行いつつ、強大な力を娯楽に向けることで市民の理解を得るためのシステムなんだ。だからこそ俺たちアクターは規律正しく、正々堂々、観客のために戦わなければならない。

 他にも都市の外を開拓する冒険というのも魔術使いの責務だが、これはアクターとはまた異なる管轄だ。アクターが駆り出される例はあまりないが、よほどのときはこれもまた興行の一環でやることもある。……らしい。

 以上だ」


「ふ、ふっ、ふっ……おぉ、ほぼ一時間……」

「ふっ……ふっ…………四十秒、足りないよ」


「感覚が鈍ったか……? そうだな……ある程度名が売れてくると、講演や取材、商品のイメージキャラクターを任せられるようになる。いまのうちに自分のスタンスを決めておくといい。これでジャスト、だな?」


「あァーッ、終わったっ……」

「はっ、はァーっ……。ボク、殺されるかと思った…………」

 ランニング終了。クールダウンのため少し歩くのだが、ギソードとユイはいまにも倒れ込みそうだ。


「ホントに一時間喋りやがって……」

「……、なるほど。こういうとき、『息の一つでも切らせ』って言えばいいんだよね?」

「そうだそうだ。ユイの言う通りだぞ」

「よく喋る。元気があるのはいいことだ」


 観葉植物を四角く囲うベンチへ移動。

 クーラーから謎の発光をする2Lペットボトルを三本取り出すジュラ。それを二人に配る。


「えっ、ナニコレ」

「一気に飲み干すことをオススメするぜ」

「? いただきます。ごく、ん、ンンン⁉︎」

 悶絶するも、ユイは何とか飲み下す。

「⁉︎⁉︎⁉︎ 」

 まだ一口しか減っていない発光ドリンクを前に、信じがたいものを見るようにするユイ。それを尻目に、ジュラはスポーツドリンクのように飲み干し、ギソードもまた何とか完飲。男ギソード、先に立つものとしてユイに無言のエールを送る。


「! ! !    ‼︎」

「おおー!」

 コンプリート。


「マッッッズ! ボクこれイジメられてる⁉︎ もしかしなくてもイジメ⁉︎ 先生ェー! 助けてよー! レィルー!」


「…………」


「うわ、うわうわうわ……! ボクも光ったりしないよね⁉︎」

「そうだよ。ペチャパイスキー、なんでコレ光ってんだよ!」


「……元気になるドリンクだ。オレが作った。害はない」


 ジュラの言う通りなのか、危機に瀕しアドレナリンが分泌され疲れを忘れたのか、ともかくギソードとユイは大騒ぎだ。

 あまりの拒否反応に、ジュラはダンボール越しに悄気る。


「作ったって……あの謎の光は⁉︎」

「あ、でも元気にはなってるな。早くないか? 効能、早すぎやしないか⁉︎」

「俺は別に……こんなの無くてもいいんだが……二人にはあった方がいいと思って……」

「作ってくれたわけだ! マズ……美味しくないティンクルドリンクを!」

「飲んで大丈夫なやつだったのか? なぁ。それだけ教えてくれよ……」


「……せっかく、チームになったわけだし…………同じものを飲もうと思って……」

「出力がヘンだよ!」

「ダメだ……人間アピール心掛けろって言うとこうなっちまう……悲しい興行モンスターだ……」


「……そう、だな…………」


「あっ⁉︎ えっと、違うんだよペチャパイスキー! 確かにイジメかと思うくらいマズかったけど、効果と、なにより気持ちが嬉しいよ!」

「そうだペチャパイスキー! 誰もお前のことは責めても貶してもいない! ただ謎の不味いドリンクに不味いと言っただけだ!」


「…………そうか……」


「ほんと、悪かったよめちゃくちゃ言って」

「ごめんなさい」

「……少し拗ねる」

 そう呟いて、重い雰囲気をまとったジュラは、再びランニングマシンに戻った。


「……拗ねるって言ってから拗ねるの、マシンっぽいよなやっぱ」

「ギソード!」

 ギソードの頭を空きボトルで引っ叩くユイ。


「まぁでも、ペチャパイスキーも人間かもしれないってわかってよかったよ」

「それはそうだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る