第4話

2日後、ママが家を出ている間に俺は書斎で本を見つけた。その本は踏み台に乗ってギリギリ届くところにある。キノコ図鑑という本だ。

俺はあのキノコがほんとうにマッシュルームなのか知りたかった。幸い日本語ではないのに字は読めたのでペラペラとめくっていく。カラーイラスト付きでそんなに分厚くもないのでマッシュルームはすぐに見つかった。

俺は眉をしかめた。マッシュルームのページに載っているイラストはごくごく普通のキノコ、マッシュルームだったから。


じゃあ俺が食べさせられていたあのマッシュルームはなんだったのかというと、シビレ毒キノコというものだった。

このページだけやけにぐちゃぐちゃにされていて、引き伸ばすのに苦労をした。


【シビレ毒キノコ】

独特の食感が特徴。

食べるとピリピリと刺すような痛みを感じる。毒の成分により、常に頭がぼんやりとし、正常な判断ができなくなる。

家畜や魔物にしつけをすり込む時に使用されることが多い。

与える量を間違えると死ぬので注意が必要。


「毒・・・・・・」


説明文を読んだ俺は固まってしまった。

普通のキノコではないと思っていたが、まさか毒キノコだとは。

嫌な汗が背中をうっすらとつたっていく。逃げなければ。ここからなんとしても逃げなければ。


俺はママが外に出て行ったタイミングで家から脱走することにした。

玄関は三重にロックされている&手が届かないので窓から外に出た。地面に着地するとき、脚が折れるかもと思いひやっとしてしまう。


家の外にははだ色の石畳の道があり、道なりに家がぽつぽつと立っていてなんだか寂しい村だと辺りを見渡した。人通りも少ない。やはり俺がガリガリすぎるからなのかすれ違う人たちにはギョッとした目で振り返られた。


食べ物を探しながら彷徨っていると「ぼうや!!」とママの声が後ろから聞こえた。振り向くと凄まじい形相でこちらに走って来ていて、その両手にはあのどぎついマッシュルームが握られていた。

俺は掠れた悲鳴をあげ逃げる。しかし、弱った子供の足では早く走れない。ママにすぐに捉えられてしまった。


「ぼうや!ノーエン!!

外には出てはダメでしょう?外は危険がたくさんあるのよ?!」

「ママ、お腹が空いたんだよ。だからなにか食べたくて____」

「何を言っているの、ぼうや。あなたにはこのマッシュルームがあるでしょう?」


ママは無理やり俺の口を開けてマッシュルームをねじ込もうとする。俺は必死に抵抗した。


「ママやめて!嫌だ!・・・やめろ!!」

「やめません!

ノーエンあなたには黙っていたけどこのマッシュルームにはママの魔法がかかっていて、食べるとすごく元気になれるのよ?!食べなさい!!」


俺は抵抗をやめた。

ママは安心したかのようにため息を着くと無理やり捩じ込もうとする手をゆるめた。


その瞬間を俺は逃さなかった。

精一杯のパンチをママの鼻めがけてお見舞いさせママの手から離れる。


気づいたら周りに何人かが集まってきていて、そういえばここは外だったことを思い出す。

ママは穏やかで優しくていい子なノーエンに殴られたショックで呆然とこちらを見ていた。鼻を折ってやる勢いで殴ったつもりだったが、鼻血すら出ていない。

くそ、こんなとき俺の体だったら・・・とやるせなさが込み上げてきた。



走って走ってひたすら逃げて、気づけば森に入っていた。当然知らない森なのでどう進んでいけばいいのかは分からないがとにかく前に走っている。何度も後ろを振り返ってあの女が追ってきていないか確認して2時間ほど進んだときにようやく木の幹に腰をおろした。


「・・・」


もう立ち上がれそうにないくらい疲れている。どうして俺がこんな目に合わなければいけないのか、どうしたら元に戻れるのか、元のノーエンはどこに行ったのか、てか食べ物を食べたい・・・ぐるぐると考えていると、ふっと視界の端に映るものに気づいた。


「コケキノコだ・・・」


それは木の周りにある湿った岩に生えるという、薄桃色の小さなキノコの一種だった。たまたまキノコ図鑑で見たので覚えていた。あれは食べられるキノコだ。

俺はふらつきながら近づき岩に倒れ込むようにして齧り付いた。

久しぶりのまともな食べ物に俺は感動して、泣きそうになる。毒のないキノコってこんなに美味しくてありがたいんだ・・・。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


突然の背後からの叫び声に体が硬直した。まさかあのクソ女か?!








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死に抗いの入れ替わり 棺羊 @milkcarnival

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