37日目

 快楽を求めるのが人間なら、私は何者になるのだろう。感情の有無は、過去に捨ててしまったように、私の色が、溶けてしまうように。黒で塗りつぶされた感情も、理想を描くためのはずだった万年筆は、ただ私を塗りつぶす獣になった。獣に喰われた私の人格は、赤いインクを万年筆に与えることも無く、快楽も、後悔も、失っていった。

 私は、塗りつぶされた原稿用紙を見る。何を書きたかったのか、どれが私なのか、分からないほどに、塗りつぶされている。

 誰かの同情は、いつしか黒インクとなり、私の安心は、後にワタシの後悔になる。生まれ変わるのなら、色鮮やかな色鉛筆にでもなろうか、ガラスペンになろうか。逃避行を探して、今日も塗りつぶす。

 時間は無慈悲に、現実を突きつける。私の口からは、居場所を無くした唾液が垂れ下がり、気持ちの悪い温もりを与える。黒インクに塗りつぶされた原稿用紙に垂れ、僅かな鮮やかさを、その一点に帯びさせる。月明かりが、暗がりを照らすように、万年筆は、少しばかりの光を帯びる。

 「この万年筆が、私の救いだ」

誰に言い聞かせるわけでもないその言葉は、黒塗りの原稿用紙に溶けていった。

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