36日目

 幼少期から、私は感情がなかった。親の温かさも、学校の冷たさも、私には無関係なものに過ぎなかった。別にそれが苦しかったら、私は今、ここにはいない。友が私に向けて、苦し紛れに放った言葉に、何の感情も抱かず、管理されていない「曖昧」が、私の口から放たれる。しょうもない人生と蔑まれても、何ら影響はなかった。私は、世間一般の「幸せ」に摑まろうともせず、ただ、何気なく小説を読み、何気なく歌を聞く。この世の中が、誰中心で動こうと、関係ないように。

 いつからだろうか、私はパソコンに向かい、小説を書いている。誰かの救いの手になりたいとか、そんなことは考えていなかった。


 考えて「いなかった」


今はどうだ、自分を見失って、誰かを救うために小説を書いている。「違う、私の書きたいものはそうじゃない」と、ワタシに向けて放つ言葉は、届いていない時が付く。


 違う、そうじゃない。助けて、助けて助けて。そんな物語を書くために、私は居ない。

 

 違う違う違う、こんなワタシ、私じゃない


 ありふれた物語に染まるつもりはない。救うことは、とっくの昔に捨てただろう。そうだ、なんで私が「救えない小説」を書き始めたのか、それは、救えなかったからである。ワタシを、救えなかった過去。その過去は、今も私を捕まえている。

 今、救うことのできる小説を書こうとすれば、きっと誰かを救うことはできるだろう。でも、私の書きたい小説は、そこにはない。


 私はこれからも書く。「救う」ための、「救えない」小説を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る