第8話 今後

「これは…帰れそうにないか?無理して帰ってもなぁ…」


 迷宮管理の説明書と、今の状況を鑑みてノアがとりあえず出した結論は、『一旦迷宮ココをどうにかしよう』だ。

 実はなんとなくではあるが、莫大な量の魔力を使って転移魔法と召喚魔法の応用でどうにかすれば、ノアの居た世界に帰ることはできそうな感じがするのだ。

 だが、仮に帰ったとて、という話である。

 もしも誰もいなくなったこの迷宮が第三者に踏破され、コアを破壊されようものなら即死なのだ。

 謎の誘拐事件に巻き込まれて、帰ってきたと思ったら今度は謎の変死事件の被害者。

 絶対に勘弁してもらいたい。

 いつ爆発するかすらわからない時限爆弾なぞ抱えてのんびりと生きていけるほど楽観的な性格ではないのだ。 

 であれば、帰るにしても可能な限り防御を固めてから。できることならば、このコアをどうにかできてからが望ましい。



 ある程度今後の方針が固まれば、千々と乱れていた思考も落ち着いてくる。

 この迷宮を強化するなり何なりするにしても、恐らく数日程度でどうにかなるようなものではない。

 であれば、迷宮を強化しつつ、帰還のための魔法陣と、その発動に必要な膨大な魔力を貯めていけばいい。


 そこまで考えて、とある問題に気がついたノアは愕然とする。

「あれ…?そもそも魔力貯める媒体…無くないか?」


 ノアが帰るのに必要な魔力は、ノアの持つ魔力の数十倍。

 当然、そんな莫大な魔力がノア一人には収まる訳がないので、何らかの保存容器のようなものが必要なのである。

 一般的には、魔物から取れる魔石や、魔力の保存を目的に作られた魔導具を媒体として魔術で魔力を封じ込める。


 だが、使い方次第では大陸すら不毛の地に変え得る程大量の魔力を蓄えるには、その辺りで拾える魔石や魔導具では容量不足だ。

 数え切れないほど大量の媒体が必要になってしまい、そうなると魔力を込める術を何度も発動しないといけなくなってしまう。

 魔力を込める術は一度に一つの媒体しか魔力を込められず、発動する為に結構な量の魔力を使う術のため、魔力的にも時間的にも非常に効率が悪くなってしまうのだ。


 だがその量の魔力を貯めるなら、湯水のように貴重素材を使うか、真龍クラスの化物でも狩らなければ実用に耐える媒体は得られないだろう。

 勿体無いが優秀な媒体を得られるまでは、そこそこの容量の媒体で数を揃えるのも視野かもしれない。


「そういえばアイテムボックスの中に触媒にできそうなやつ入ってないか?」


 と、唐突に閃くノア。

 アイテムボックスとは超絶便利魔法の一角で、名前の通り物を別次元の空間に時間を止めたまま収納できる魔法である。

 空間内の時間が止まっている所為なのか、生きている動植物は収納できないという制限があるが収穫された野菜や種、魔物の死体なんかは入ったりするから些細な問題である。

 そんなアイテムボックスに手を突っ込んで中身を物色するノア。

 すると頭の中に今アイテムボックスに入ってくるものが浮かんでくる。

 ノアの魔力に裏打ちされた広大なアイテムボックスは、鉱石やよくわからない装備や本、食べ物に雑多な魔物素材となかなかのカオス具合を呈していた。


「これは後で整理しないとだめだな…ピコハンとかハリセンとか、ページのないハリボテの本とかスライムの割れたコアとかなんで取っといてんだよ、過去の俺。」


 そう言いながらもこれでもない、これじゃだめと媒体になり得る魔石や素材の分別を始めるノアであった。






 ※ノアがアイテムボックスに手を突っ込んでいる描写がありますが、入れられるのは手や足など、体の一部だけです。

 もしも全身入れた上で魔法を閉じようとすると、ものすごい勢いではじき出されます。

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