第9話 食料危機

「よし!こんなもんか!」


 そう言って、媒体用の素材探しを切り上げたノア。

 流石に全部確認して取捨選択している場合ではないので、整理整頓はもう少し余裕ができてからだ。


「意外にあったな、そこそこ使える素材。」


 ノアの後ろでいくつかの袋に突っ込まれているのはいつ買ったのか分からない謎の装備、竜を筆頭に上位の魔物の素材、妖精達から分けてもらった鱗粉やドワーフの鍛えた鉱物類、マンドラゴラなどエルフ産の植物素材など、とりあえず触媒にできそうな素材たちである。


 雑な目算になってしまうが、だいたい帰還のための魔術に必要な魔力分の2,3割程度はあっただろうか?


 素材が揃ったならば、生産設備も必要だろう。

 ということで、何もない広間の横に小部屋(5000魔力)を設置してそこに置く事にした。


「んで、あとはこの小部屋にさっき見つけた『試作型魔導具制作台』と『ミミックボックス(小)』を設置して…と。あとはこいつに素材をしまうだけだな。魔石も一緒にしまうか。」


 そう言って、ノアは素材を取りに広間に戻った。



 ________________


 迷宮の説明を読んでるときに見つけていた、『試作型魔導具制作台(-10000魔力)』と『ミミックボックス(小)(-15000魔力)』。

 今の懐事情的にはなかなか高い買い物ではあったがそれもそのはず。

 これらの設備自体が魔導具であり、特にミミックボックス(小)は容量こそ決まっているものの、開けたり手を入れたりせずともアイテムを取り出せるのである。


 ポイッ

 パクッ!


 さらに、ミミックボックスは『魔導具制作台』シリーズを始めとした他の設備に効果を統合出来る、非常に優秀な設備だ。

 つまりこのアイテムボックスを何らかの設備にくっつけると、そこそこの容量の永久保管可能な倉庫と、そこから念じるだけでアイテムを取り出せる機能が付いてくるのだ。


 ポイッポイッ

 パパクンッ


 だから、アイテムを入れるときに牙の生えた蓋が「バクンッ‼」みたいな感じで勢い良く閉じたり、たまに変な半透明の物体が箱の周りを飛び回ってたり、影で出来た手がアイテムを手渡してきたりしても、そんなの些細な問題だろう。


 ポイポイ!…終わりと見せかけてもう一個!

 バクッバク!…⁉バクンッ!


「便利だなーこれ。でもこれ魔物のミミックと大差ないな。ほんとに家具か?魔物じゃない?」


 設置するときの説明文にも、『これはただの箱。とても安全!Byマッドなお姉さん』しか書いてないし、怪しさ満点である。

 いつか指ごと逝かれんじゃないかと若干不安なノアである。


 まとめてポーイッ!

 !!?…ガシッ!ポイッ!バタン!

 ァッ!?ドワアーーッ!


 ところで先程からノアは一体何しているのか?

 ミミックで遊んでいるのである。素材を投げて。

 最初はしっかり丁寧に仕舞っていたのだが、間違えて落とした素材をミミックが影の手で拾ったのを見てから、ミミックに素材を投げて遊びだしたのだ。


 ある程度までは頑張ってくれていたのだが、悪ノリが過ぎて残りの素材…人一人分くらいの塊を投げつけたら、影の手に投げ返されて蓋を閉められてしまった。

 そして、素材に潰される今の図である。


「イテテテ…流石にふざけ過ぎたか。良かった、爆発物とか混じってなくて。イテッ!分かった、悪かったって!」


 ガラガラと素材の山を崩しながら起き上がり、頬を掻きながらまた素材を一つ投げてみるノア。

 案の定というか何というか、さっきよりも勢い良く投げ返された。

 このままへそを曲げられては堪らないと、慌てて謝りながらそ~っと素材を渡すノアであった。



 __________


「ふぃ〜、えらい目にあったな。まじであれで魔導具は無理があるだろ。魔物だろ魔物。」


 ようやく機嫌を直してもらえたノア。

 あれからかれこれ30分程は格闘していただろうか。

 最後の方は機嫌が治ったのか何なのか、1、2個ずつなら投げても受け取ってくれるようになった。

 そして素材をしまい終わり、元の広間に戻ってきた訳だが…


「あいつのこと見てたら、なんか腹減ってきたな…なんかあるか?朝食べてないしガッツリ行きたいんだが…」


 ミミックのアイテムをしまう様子をずっと見ていたら自分の腹が減ってしまったのだ。

 とりあえずダンジョンメニューを覗いて見るが…


「…はっ!?高すぎだろ!…いちじゅうひゃくせん…マン!?」


 食料のベージの必要魔力の数字の0が1個、下手すれば2個多いのだ。

 魔物用の餌はそんなこと無いが、人類種などが食べる食材の値段が天井知らずなのだ。

 料理一個で部屋が出来るレベルで魔力持ってかれているのだから、驚くのも無理はないだろう。


「えっ待って?俺これ、手持ちの飯なくなったら貧乏コース?」


 誰もいない空間で、そんなノアの声が虚しく響くのだった。

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