第56話『愛と誓いの大逆転ポジラー』

 景男たち『モルガーデン連合軍』は、王の玉座まで攻め挙げた。残すは王宮に立て籠もるダークス卿と皇太子レオと一騎で獅子奮迅ししふんじんの活躍を見せる”王の槍”トリスタンのみだ。


 取り巻くモルデール軍は、西からシリアス、南からタイドン父娘、北からは景男とアムのモルデール軍だ。


 もはや、栄耀栄華えいようえいがを誇ったヴァルガーデンの姿はない。


 モルデール連合軍は戦に付き物の略奪行為りゃくだつこういは一切ないが、人と人が戦う戦場だ傷つき倒れる者もいる。


 景男は、トリスタンの父親であるガーロンに、一人抵抗ていこうをつづける息子に槍を納めて降伏するように頼んだ。


「もう、ヴァルガーデンで戦っているのはトリスタンさん一人じゃないか、どうにかこうにか説得してくださいよ。そうじゃないと味方の被害ひがいが増えまくりです」


 ガーロンは、トリスタンの活躍かつやくが、さも嬉しそうに、「我が息子ながらトリスタンは見上げた男だ。今のあいつにはワシも敵わん。ここはどうだ、冒険者殿、いやポジラーとか申したな。最後の決戦だ。お前が直接戦ってこの戦の決着をつけてこい!」


 と、言い放った。


 このガーロンの言葉には、アムもシリアスも、タイドン父娘おやこも頷いた。


「マジでー!」


 アムは腰に差したハルデン家に伝わる伝説の剣を差し出した。


「ポジラー様、これを」


 アムが差し出した剣は、何の変哲へんてつもないただのはがねつるぎのようである。


 景男は、受け取って奮ってみたが、シリウスと戦った時のように小枝のように軽い。


「この剣は、始祖しそポジラー様が、モルデールを解放するときに使った伝説の剣ニートエッジと言います」


「ニートエッジ?」


「名前の由来はわかりませんが始祖ポジラー様はそう名付けたようにございます」


(ニートの刃って、オレにピッタリの剣の名前じゃないか、あはは……)


 それでも、景男は腹をくくって、皆に押し出される感じでトリスタンに向かって行った。


 トリスタンは、景男を見定めると、「お前が、我らヴァルガーデンの武威ぶいをことごとく逆転して見せたポジラーか」


 景男は、そう言われ困った顔をした。


「いや~、オレは何にもしてないんだけど、なんか運よくこうなっちゃった」


 トリスタンは鼻で笑って、「ふん、大陸最大の武威を誇るヴァルガーデンの力をただの強運だけで跳ね返しただと、笑わせる」といきなり、槍を振るってきた。


「ワーキングランスは、代々の”王の槍”から預かったヴァルガーデンの象徴。いくら、お前が強運でも私の槍は防ぎきれまい。おりゃおりゃおりゃー-!」


 トリスタンの槍は小枝のように軽いニートエッジじゃなければ防ぎきれないだろう。


 景男は、自分の体がまるでゲームのキャラクターのように巧みに動く。


 連続して刺突しとつするトリスタンの槍を、いなして、いなして、あべこべにニートエッジをトリスタンの籠手こてに打ち込んだ。


「ポジラー、お前の強運は伊達だてではないな、これならどうだ!」


 トリスタンは、ワーキングランスをまるでむちのように景男目掛けて振り下ろした。


 景男は、寸前すんぜんでトリスタンの重たい一撃をかわして、ニートエッジをトリスタンの喉元に差し止めた。


「トリスタンさん、チャックメートです」


「時代が変わったのかも知れぬな」


 トリスタンは、喉元に突きつけられた景男のニートエッジに破れワーキングランスを落とした。


 トリスタンの敗北を受け、ヴァルガーデンのダークス王とレオに味方する者はなくなった。


 玉座のダークスは、どっしりと座って動こうとしない。


 そこに、シリアスが進み出て、王の玉座に座るダークスの元へ進み出て膝をついた。


「父上、私に王冠をお譲りくださいませ!」


 と、迫った。


 レオは、性懲しょうこりもなく、「父上、なりませぬぞ、ヴァルガーデンの次なる王は私です」ダークスの膝にすがった。


 すると、マリーナがツカツカツカとレオの元に歩いて行き、頬を思い切り張り飛ばした。


「レオ、見苦しい真似はしますな。あなたはもう一度、オルカンの父上と一緒に心からきたえなおさねばなりませぬな」


 ここ、ここに居たって観念かんねんしたダークスは玉座から立ち上がり自分の頭にある王冠を脱いで、シリアスの頭に被せた。


「シリアス、お前が新しいヴァルガーデンの王だ」


 シリアスは、顔を上げダークスを見つめた。


尊敬そんけいする父上、シリアス・ストロンガーはこれよりヴァルガーデンの玉座に着きます」


 と、言って立ち上がった。


 ダークスは、シリアスの肩に右手を置いて、「ヴァルガーデンの新王よ後を任せたぞ!」と今は亡きサハラの最愛の妻の面影おもかげを重ねてほほ笑んだ。


 と、その時、黒い影が玉座の背後から忍び寄った。


 ブスリッ!


 ダークスが一瞬、油断みせたその時、背中にブラックが素早くナイフを突き立てた。


「ダークスよ。王が玉座を譲る時は死ぬ時だぜ。シリアス様、オレをもう一度騎士団長として取り立ててください!」


 そこに居る誰もが言葉を失った。


 ダークスが鮮血せんけつを流して前のめりに倒れた。


 シリアスは、問答無用もんどうむようにブラックを叩ききった。


「なぜ、オレがこんな目に……」


 ブラックが仰向けに倒れた。


 アムは、アリステロに、「すぐにダークス卿に復活の魔法を!」と命じた。


 アリステロは、静かに首を横に振った。


「ここで傷ついた多くの無辜の兵卒を生き返らす為に、復活の呪文は使います。王1人と引き換えに多くの者の命を犠牲にすることはできません」


「シリアス……マリーナ……ここへ」


 こと切れようとするダークスは、二人を側に読んで、二人の手を取り掴ませた。


「これからは、愛する者同士、お前たちの息子レオを真の王として育て直すのだ……」


 と、こと切れた。


 シリアスは、マリーナを見て、「父上が言ったことは真か?」


 マリーナは、静かに頷いた。


「はい、レオは私とシリアス様の息子にございます」


「父上は、それを知りながら今までこのようなことを隠して生きてこられたのか……なんと、哀れな……」


 シリアスは、そっとダークスの見開いてこと切れた目を閉じさせると立ち上がって宣言した。


「ダークス王は亡くなった、我等われらモルデール連合軍の勝利だ!」


 アムも景男も、オルカンも他の騎士団長たちもここに居るすべての者たちが「えい! えい! おー!」とこぶしを突き上げた。



 アムが、景男の横に奇てヒョイっと肩をぶつけた。景男は一瞬戸惑いながらも、アムの瞳の奥に宿る決意を感じ取った。アムはぽってりとした下唇したくちびるを突き出して、口を指さした。


 景男は緊張きんちょうの表情を浮かべながらもアムの両肩に優しく手を置き、目を閉じて唇を寄せた。


 ぶちゅ~!


 互いのぬくもりが交わり、二人は一瞬、永遠を感じた。


 しかし、その瞬間足元にワームホールが開いて景男は、「ちょっと待ったー!」と驚きの声をあげながら落ちていった。




〈了〉




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異世界で大逆転ポジラー 星川亮司 @ryoji_hoshikawa

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