化石



「どんどん進んでるわ」


 彼女はシャツの裾を捲り上げ、自分の腹のあたりを眺めた。そこは半透明の水晶のように変容し、光を受けてきらきらと輝いていた。

 彼女は体がゆっくりと石化してゆく病に侵されていた。


「どうしてこうなったんだと思う?」私は尋ねた。


 彼女はしばらく、黙って石化した肌を撫でていたが、やがて答えた。


「さあ……でも、使われなくなった心は、こわばっていくものだから」


 私が出会った時にはすでに彼女の身体は病に蝕まれており、なぜ彼女の心がこわばってしまったのか私は知らなかったし、彼女が私に語ることもなかった。


 人に聞いたところによると、かつて彼女は無名の詩人で、美しい作品をたくさん生み出していた。だがある時、著名な友人が彼女の作品を自分のものとして発表し、彼女は抗議したが誰もそれを信じなかった。彼女は詩を書くことをやめ、同じ頃に石化が始まったという。


「ぜんぶ石になったら、博物館に飾ってほしいわ」

「博物館? どうして?」


 彼女は読書灯を付けて自分に向けた。胴はすっかり結晶化し、かなり動きづらそうだが、光を浴びた彼女の身体は音がしそうなほどの煌めきをはなっていた。


「ね、こんなに綺麗なんだもの。見てもらった方が嬉しいわ」


 病は治りようもなく、緩やかに進行していった。



 いま彼女は、かねてからの希望通り自然博物館に展示されている。設置場所について、鉱物のコーナーや化石のコーナーなど学芸員の間で議論があったそうだが、彼女はエミューの剥製やイルカの骨と並んで飾られることになった。彫刻『ピエタ』のマリアのように腰をかけ、少し俯いた姿勢で、彼女は時を止めていた。


 友人の活動により彼女の作品は再評価され、盗まれた作品も彼女のものであると認められた。照明を受けてきらきらと輝く悲劇の詩人を見に、博物館にはたくさんの人が訪れている。

 こんな風になる前にみんなが彼女の言葉を聴いていればよかったのに、と私は思った。

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