第43話 猫に転生したのは誰?

 「今までのあらすじ」

 鈴木愛衣(あい)(女性)は大学生で、科学技術が発達した惑星(アース星)に住んでいた。愛衣の心(魂)は、大統領の計画で邪魔者を排除するために他の宇宙の惑星(地球)の川原知人(かずひと)(男性)という名前の胎児の中に送りこまれた。大統領の次の計画は川原の友人、啓太を猫に転生させる事である。

 愛衣は今、川原知人として生活している。愛衣は昔の記憶は覚えていなくて、最初から川原として生まれたと思っている。川原は現在、大学院で哲学の研究をしている。

 

 「第43話 猫に転生したのは誰?」 

私は啓太との電話を切った後に、リビングのソファに腰を下ろして深く息をついた。スマホの画面にはまだ通話終了の表示が残っていて、啓太の謝罪が頭の中で反響していた。少し笑いものになった気分だけど、啓太が無事で良かったという安堵感の方が強かった。それにしても猫に本当に転生しちゃったなんて想像をしてしまった自分がちょっとおかしくて、一人で小さく笑ってしまった。

 外からはまた猫の鳴き声が聞こえてきた。私は立ち上がり、また玄関を開けてみた。そこにはさっきと同じ小さい黒い猫がいた。たぶん、さっきと同じ猫だろう。猫はまたこちらをじっと見ている。街灯の光に照らされた猫の瞳は知的な光を帯びているように見えた。私は、一瞬、息をのんだ。まさか、本当に啓太なのか。と一瞬、思ったが啓太とはさっき電話で話したばかりだ。そんなわけはないはず。でも、なぜか私にはこの猫がただの猫だとは思えなかった。猫は必死にこちらに何か伝えようとしているように感じたが、それが何かは分からなかった。啓太ではなくても他の誰かかもしれない。それも自分がよく知っている人物・・。啓太にまたこの話をしようかと思ったが、さっき同じような事を話したばかりだしやめた。


 次の日、私は大学院の研究室に行き、哲学の研究をした。

 夕方になり一通り、作業を終えて教授と少し話をした。

 もし、意識が別の存在に移るとしたら、その人はどうやって自分を証明するのだろうか。もし、言葉の通じない猫になったらどうやって「私だ」と伝えることができるのだろうか。そういう話を教授と真面目にした。こういう話も気軽にできるのはこの教授の良い所だ。教授と話したが結局、結論はでなかった。でも、こういう話をできる相手がいなかったので、教授と話をした事でだいぶすっきりした。


 家に帰る途中にまた小さい黒い猫に会った。今日は私の帰りをずっと待っていたようだった。私はしゃがみこみ、そっと手を伸ばして、「君は誰なんだ?」ときいてみた。猫は「にゃあ」と鳴いて私の手を軽く触れた。その仕草が妙に人間っぽくて私はゾクッとした。


 私は駄目もとで「もし君が誰か人間の生まれ変わりなら、誰なのか。そして私にな何の用なのか教えてくれよ」そう言った。猫は返事をしなかった。

その時、背後から声をかけられ私はびっくりした。

 「知人、何しているの?」私が少しびっくりして後ろを振り向くと啓太がいた。

 「啓太だ。どうしてここに?」猫はやっぱり啓太ではないようだ。その事に私は少しほっとして、私は啓太の返事を待った。

 「いや、知人が猫に転生とか、おかしな事を真剣に言ってたから少し心配になって知人の家に行こうとしていたんだ。

 その時、猫は再び「にゃあ」と鳴き、小さな手帳のような物を口にくわえて、こちらに近付いてきたのだった。

(続く)

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