第41話 猫の影と迫る運命

 「今までのあらすじ」

 鈴木愛衣(あい)は大学生で、科学技術が発達した惑星(アース星)に住んでいた。愛衣の心(魂)は、大統領の計画で邪魔者を排除するために他の宇宙の惑星(地球)の川原知人(かずひと)という名前の胎児の中に送りこまれた。愛衣は今、川原知人として生活している。愛衣は昔の記憶は覚えていなくて、最初から川原として生まれたと思っている。川原は現在、大学院で哲学の研究をしている。啓太は川原の友人である。

 

 「第41話 猫の影と迫る運命」

 カフェでの私と啓太の会話はまだ続いていた。啓太はコーヒーカップを手に持ったまま、窓の外を眺めながら話を進めていた。「仮に猫になったら哲学なんて考える必要もないよな。ただ寝て、食べて、遊んでいれば良い。人間の悩みなんて全部忘れられるんじゃないか」啓太は何か大学院に行って精神的にだいぶ疲れているているのかもしれない。高校までの啓太なら絶対に言わなそうな事をさっきからずっと言っている。彼の声はどこか遠くを向いているようで、私はその言葉にひっかかりを感じた。確かに、猫の生活はシンプルで自由そうだ。でも、なぜかその考えが私の中で不穏な響きを帯びて聞こえてきた。「でもさ、啓太。猫だって生きるのに必死な瞬間がたぶんあるよ・・・」私は猫の事なんてろくに知らないのに適当な事を言った。

「野良猫なら餌を探すのも大変だし、何か敵が来たときに威嚇したりしないといけないし、病気になっても自分でどうにかしないといけない。人間みたいに病院に行けるわけじゃないし・・」私はしゃべりながら、猫が必死になりそうな事をその場で考えながらしゃべった。私は少し現実的な視点を持ち込んでみた。啓太は一瞬黙ってから「まあ、そうだな」と冷静になってこたえた。「さすが、哲学をやっているだけあるね。しっかり深く考えているね」啓太は素直に言った。

 その時、カフェの窓から風が吹き込んできた。窓の外では曇り空が広がりはじめて重たい空気が漂っているように感じた。私は、ふと自分の胸に手をあてた。先ほどの違和感がまた戻ってきた。それは、まるで私が「川原知人」として生きる以前の何かが私に警告を発しているかのようだった。でもその違和感が具体的に何なのか、どうしてそう感じるのか、まるで掴めなかった。


 「どうした?顔色が悪いぞ」啓太が心配そうに言った。

 「大丈夫だよ」私は慌てて笑顔を作り、ごまかした。

 突然、啓太のスマホに電話がかかってきた。「悪い。ちょっと席を外すね」啓太はそう言って、立ちあがり席を外した。彼がいなくなった瞬間、妙に静かになった。急にこの世界に1人だけ取り残されたような気分になり、孤独を感じた。私はコーヒーを一口飲んで落ち着こうとしてコーヒーを飲んだが、心の中のざわつきは収まらなかった。その時、窓の外で小さくて黒いものが動くのが見えた気がした。窓の外をしっかり見ると、そこには小さい黒い猫がこちらをじっと見ていた。その猫は、まるで、私に何かを訴えているように感じた。次の瞬間、猫はどこかへ行ってしまったのだった。

(続く)

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