第39話 「知られざる選択」
「今までのあらすじ」
鈴木愛衣(あい)は大学生で、科学技術が発達した惑星(アース星)に住んでいた。愛衣の心(魂)は、大統領の計画で邪魔者を排除するために他の宇宙の惑星(地球)の川原知人(かずひと)という名前の胎児の中に送りこまれた。愛衣は今、川原知人として生活している。愛衣は昔の記憶は覚えていなくて、最初から川原として生まれたと思っている。川原は現在、大学院へ通っている。
「第39話 知られざる選択」
啓太と私、2人には似合わないお洒落なカフェで会話してからしばらく経ち、私は自宅で資料の整理をしていた。窓の外は薄曇りで少し肌寒い風が吹いている。大学院に4月に入り、それから8カ月経過して季節は秋から冬になろうとしていた。 啓太は大学院で「生物の寿命と環境適応」という内容の研究をしているらしい。啓太のパソコンを1度見せてもらった事があるのだが、パソコン画面にはアルダブラゾウガメやシロナガスクジラのデータが並んでいた。それを見て私は啓太が言った「不老不死」という言葉が頭をよぎった。もし本当にそんな技術が実現したら、人間はどうなるんだろう。私は少し考え込んでしまった。
その時、スマホが振動して現実に戻された。啓太からのLINEでメッセージが送られてきた。「この後、空いてる?またカフェかどこかで話したいことがあるんだけど」。私は日曜日で特に予定もなかったので「OK」とスタンプで返信し、出掛ける準備をした。啓太が自分から連絡してきて何を話したいのか、かなり興味があった。
一方、場所は変わりアース星の執務室では緊迫した空気が漂っていた。
大統領は大きな立派な椅子に座り、目の前に移るデータをじっと見つめていた。
画面には「転生実験・フェーズ3」の文字と、いくつかのグラフが表示されていた。主席補佐官はその横に立ち、緊張した面持ちで大統領の次の言葉を待っていた。
「犬か猫か・・。どちらにするかは、いまだに決めかねているが、重要なのは対象の適応性だ。川原知人のケースは今のところは成功しているようだが、次は動物への転生だ。さすがに慎重に進めていく必要がありそうだ」大統領が真面目な顔をして低い声で言った。補佐官はマジで動物への転生をする気なのだと、あらためて思い、息をのんだ。 補佐官は一瞬言葉に詰まったが思っていることを正直に伝えた。
「確かに今のところ川原は安定しています。しかし、動物の転生になるとリスクが大きすぎるのではないですか?意識の統合や記憶の維持がうまくいかない可能性があります」
大統領は目を細めて補佐官を見た。「動物への転生で記憶の維持の必要はないだろ。むしろ、ないほうが良い。アース星の技術は既に人間の魂を別の肉体に移す事に成功している。次は種を超えた転生だ。それが我々の最終目標に近付く一歩になる」
補佐官は内心で反発しつつ、言葉を飲み込んだ。大統領の言う「最終目標」が何なのかまだ完全には理解できていなかった。ただ、それがアース星の未来に関わる壮大な計画である事は間違いなかった。
(続く)
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