Ⅺ.予定外の朝帰り②


陽生は事前の連絡なしに、律騎の家のインターホンのチャイムを押した。


「はる」


陽生が連絡せずに訪ねてくるのが珍しいからだろう。

律騎は驚いた顔で陽生を出迎え、「入れよ」と促した。


「いや。今日はここで」


ドアは閉めたが、玄関で靴も脱がない状態だから、律騎は訝しみ、しかし、すぐに「急いでんのか?」と受け入れたようだった。


「これ、お土産」


「お土産?」


律騎は陽生から紙袋を受け取り、中を覗くので、中身はお菓子だと伝える。


「あー、そういや昨日めぐと旅行してきたんだったか?」


「そうそう」


1週間ほど前に旅行の話をしたのだが、覚えていたらしい。

陽生とめぐみがコンビニのバイトに入れないので、律騎が代わりに入ってくれもした。


「あ、でも、結局泊まってきた」


「は?」


「電車が遅れてたから、急きょ泊まってきた」


「へぇ」


興味なさそうにまた袋の中を覗くが、それがまたわざとらしかった。



「……なぁ」


「ん?」


「はるもそうなのか?」


「何が?」


「ずっと一緒にいたいと思って付き合ってるわけじゃ、ないのか?」


めぐみから話を聞いていてよかった。


ただ、めぐみから聞いた印象とは違う。

日を置いて苛立ちは収まっているようで、あくまでも素朴な疑問という感じだった。


もしかしたら、めぐみではなく、陽生に対してだからという違いもあるのかもしれない。


「一緒にいたいと思うのはホントだよ」


別に刺激が欲しいわけじゃない。

めぐみといると落ち着くのだ。


「好ましく思っている者同士、付き合うのは変なことじゃないだろ?」


律騎は何か言いたそうに口を薄く開いたので、言葉を待ったが、紡がれることなく閉じられた。


律騎は色々と考えているようだ。

きっと、泊まったと聞いて、否が応でも、あることないことに想像を膨らましているに違いない。


存分に悩めばいい。


陽生は律騎に背を向けてから、不敵な笑みをこぼした。




律騎はその足でめぐみの家を訪ねる。


「出かける準備はできた?」


「うん」


「コンビニまで送るよ」


「いいって。帰らなきゃでしょ?」


「わざわざ一緒に帰ってくれてありがとね」


めぐみは朗らかに微笑む。

両頬のえくぼが綺麗に現れた。


律騎は、めぐみの家の最寄り駅でめぐみと一緒に降りて、めぐみを家まで送ったのだ。めぐみはすぐにバイトだから、自分が律騎にお土産を渡すと理由をつけて、だ。


昨夜はあんなに取り乱していたというのに、めぐみはすでに元通りである。

昨夜がいかに特別な時間だったのかがよく分かる。


反応を面白がってしまったのは反省だったが、いい仕事をしたように思う。


付き合うことになってから、寝て後悔しないかとめぐみに訊いたくせに、多分、後悔するのが怖かったのは、陽生の方だったのだ。


めぐみと付き合うことを提案したのは、何かが変わればと思ってだった。思惑通り、確かに変わってきている。


最初は気軽に自分の家に泊まっていくかと訊いてきためぐみが、同じ部屋に泊まることを意識して動揺していたのだ。


これからどこにどういうふうに着地するだろう。


律騎は微笑んで、めぐみの頭をぽんぽんと撫でた。

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