第21話 その一方で
深夜。
この極東の島で流域面積が2番目に大きい河川の上流から中流にかけての境界線付近の河川敷に変わった一団が佇んでいた。
それは、2メートルを超えるようなロボットと、寸胴のような体躯をした、ラッパーのような格好をしたコミカルなロボットと、白髪の白衣の老齢の男と、小柄な少女の姿だった。
「いやぁ、まったくひどい目に遭った。とんだ旅行になってしまったよ」
老齢の白衣の男、もといハーヴェイ・ロウは髪をかき上げながら言った。
「いや、大体ご自身のせいでしょ博士。最初から隠れていればこんな事にならなかったでしょうに。と、いうか旅行て」
長躯のロボット、プロトは辺りを警戒しながら呆れたように博士に言った。
「まさか連中も利根川の川底を歩いて上流を目指していたとは思うまい」
「ハクレンとかガーとか日本で会うとか思ってみなかったぜ。誰だ捨てた奴は? 後、俺は水の中が苦手なんだ」
寸胴のようなロボット、ノイジーはまるで耳に詰まった水を出すような動きを見せていた。ただ、頭部の耳に位置する部位には穴すら空いていないのだけれども。
その様子を見て、どちらかとえばゲッター3みたいな形状で? と博士は言い、ブリキですからね、とプロトも答えた。
「しかし、珍しく静かだよね。いつもだったら"なんでアタシがこんな泥生臭いところ歩かなきゃならないのよ。髪に匂いつくでしょ?"とか噛みついて来るのにね」
博士は少女、ヒカリと呼んでいるロボットに向かって言った。フードを深く被り、俯いているためその表情は読み取れない。
「噛み付くのはカメだけで十分だぜ」
ノイジーはいつの間にか自身の腕に噛みついていた亀を引き剥がしながら言った。
「それにおセンチなのさウチのお嬢様は。あのしょっぱい冴えない小僧が…………」
瞬間、俯いていた彼女が思い切りノイジーを蹴り飛ばした。
「あら、空のドラム缶を蹴ったようないい音」
3回転しながら飛んでいくノイジーを見上げて博士がそんな事を言った。
「テメェ何すんだこのジャリアマ!? 前時代的な家電療法みたいなパワープレイはそこの木偶にやれや!」
「ちょっと、ブリキのガラクタに木偶扱いされるのは甚だ不愉快なんですが?」
ゴロゴロと河川敷を転がったノイジーは身体を起こし怒り、そんな騒がしいロボットに対してプロトは不快そうに言った。
「別に。ただ足が滑っただけ」
再び、顔を隠すように俯いて彼女は返した。
「足が滑ってあんな腰の入った中段蹴り噛ませられるか阿呆! あーやだ怖い。現代っ子はすぐに暴力に走る」
ノイジーは砂埃を叩きながら立ち上がった。
「しかし、君も珍しいね。いつもだったら気にしないのにね」
ハーヴェイが言った瞬間、再び回し蹴りをかますヒカリ。それを博士はサッとプロトの影に隠れてやり過ごした。
細長いプラスチック質の見た目をした金属の足が個気味のいい音を鳴らした。
「…………ちょっと、博士?」
解せない、と言った風にプロトは真顔の絵文字を表記させながらハーヴェイを見た。
「いやいや、私は凹むじゃ済まないからね」
怖い怖い、と彼はプロトの影から出てきた。
「しかしだね、こうして毎回突っかかれても困っちゃうし」
「そもそも突っかかれるような話をしてんのはそっちでしょうよ」
そう言ってヒカリは三人を指さした。
言われた三人は一斉に互いを見合い、円陣を組んだ。
「我々悪い?」
「いや、あっちだろ?」
「残念ですけど下世話なのは我々ですよ」
「アンダテメェ、いつも突っかかってんのに向こうの肩をもつのかよ!」
「そもそも私、良識のあるロボットを自称しております故」
キッタねー! とノイジーは言った。そうなるね、と博士は言った。
三人は円陣をとき、ハーヴェイがヒカリと向き合った。
「まぁ、今日のところは、」
「だいたい」
ヒカリからの指摘にハーヴェイは肩を竦めた。
「まぁ、大体我々が悪いとして、同じように突っかかられちゃっても困る訳。で、この際はっきりさせようと思うの?」
「何が?」
「君はどうしたいの?」
博士に言われて押し黙るヒカリ。しばらく沈黙が続いた後、一際深いため息をこぼした。
「わかってる。わかってます。どうせ住む世界違うんだし、向こうにしたってアタシと一緒にいたって碌な事になんないんだから」
そう言って空を仰ぐヒカリ。
「おや、大人な発言」
プロトが言った。
「アタシ、あなた達より大人なんですけど」
振り返ってヒカリが三人を指差す。なんか言ってら、とノイジーが言った瞬間石が彼に直撃した。
「…………これが大人の対応か?」
倒れ込んだノイジーが呟いた。
「だからいいの。大体あんなの路傍の石でしょ?」
そう言っていつの間にか持っていた石を投げてはとっていた。
「おや、踏ん切りがついた?」
「いや、ありゃどう見積っても石に躓いてんぜ?」
未練たらったら、そう言って起き上がったノイジーを再び石が襲った。
「青春ですねぇ」
プロトがボソッとこぼし、ヒカリに睨みつけられすぐさま視線をそらした。
「まぁ、なんだ。気分でも変えるためにラジオでも聞いたら?」
ハーヴェイは徐ろにポケットに手を突っ込むと中に入っていた物を投げ渡した。それをヒカリな受け取った。彼女の手の中にはウォークマンと有線のイヤホンが収まっていた。
「なんでこんな物持ってるのよ?」
「色々用意はしておくものだよ」
「必要ある?」
なんとなく、というハーヴェイの言葉を聞いてヒカリは眉をひそめた。
ヒカリは手に持つウォークマンを眺めていたが、そのうちにイヤホンを耳につけ、機器を操作し始めた。
「…………ってニュースしかやってないじゃない」
イヤホンに手を当てそんな愚痴をこぼした。ウォークマンの音量が次第に上がっていき、耳にしてない博士にも音が漏れ聞こえてきた。
「あんな大音量にする必要性あります? アレ、外の音と聞き分けられるでしょ?」
「気分じゃない?」
そう言って肩を竦める博士。音は漏れ聞こえるが内容まではわからない。ただ、bgmと共に変えるチャンネルの尽くが同じ論調で話していた。
「速報? 誘拐…………って、はぁ!?」
ブツブツと呟くヒカリが何やら物騒な言葉を話し、叫んだ。同時に博士の隣に立つノイジーも、マジかよ! と叫んでいた。
「えー、何々? 怖いんだけど、どしたの?」
一人理由わからず佇む博士を他所にプロトも、あ~、と何かを悟ったような声を上げた。
「なんでアンタがまたアイツを誘拐したことになってんのよ!」
つけていたイヤホンを乱暴に外してヒカリが博士に向けて言った。アイツというのは彼のことかな?
そこでハーヴェイ・ロウも事の次第を把握したのだった。
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