TAKE7︰先輩と、まさかのデート先!(CV︰鈴名宝)
次の日。
つまり、約束の土曜日。
指定された場所である、駅前に向かうと、一条先輩はすでにいた。
全身モノトーンコーデ。
スタイリッシュな格好をしていて、とうぜんだけど私より背も高くて、先輩なんだなと思う。
それに、ふだんはかけていないメガネをしている。あれって伊達?
うん。とりあえず、メガネのことは、絶対にツッコまないぞ。
「お、お待たせしました……遅れてすみません」
いくら超売れっ子プロ声優だからって、好きでもなんでもない一条先輩とデートだなんて、当然だけど、全然楽しみじゃなくて。その辺にあった適当なワンピースを着てきちゃった。
一条先輩はそんな私を見て、はーっ、とため息をついた。
「やっぱキミ……可愛くないな。音の出ない服を着てこいって言ったのに……。そのワンピースの素材、ポリエステルだよね? ちょっと、こっち」
そう言って先輩に連れられたのは、人気のない路地裏。
スッと、私の首元に、手が触れた。
「──悪いけど、脱いで」
「あっ!? みぎゃあああああああああああ!? ななな、なにするんですかっ!? このきちくド変態有名人芸能人イケメン大先輩がああああああああああっ!」
キーーーーン!
あたりに響き渡る、私の大絶叫。
ふだんハスキーな私の声は、泣くときと、絶叫するときだけ高くなる、らしい(パパ談)。
街中を行きかう数人が、なにごとかと、私たちをジロジロ見た。
「……最悪通報されるかもしれないから、本当に迷惑だな。それに、最後の方は、けなせてるようでけなせてないよ」
ゔっ……! それもそうであります。恥だ!
「念のために持ってきてよかった。これに着替えてきて。あ、そこの駅の構内に、トイレがあるよ」
駅の構内にトイレがあるなら、なんで一回脱がそうと(?)したんですかっ!(怒)
一条先輩から渡されたのは、音の出なさそうな、ゆったりとしたパーカー。
……──?
これなら、確かに、歩いても動き回っても、音は出なさそうだけど……。
私は、言われるがまま、そのパーカーに着替えた。
電車に乗って、少し歩いて。たどり着いたのは──。
「あ、ここ!?」
──アフレコスタジオ!
「そ。中に入ろう」
一条先輩は、あっけらかんとした様子で、堂々と入口から中に入ろうとする。
「部外者は立ち入り禁止ですよね!?」
「関係者だから。おれ。星桃学園の権力者に、手塩にかけてもらっているの」
星桃学園の権力者──?
「連れてきたよー」
そこにいたのは。
「理事長先生──」
「うん。理事長先生でもあり、対馬プロデューサーだねー」
「ツルギくん。彼女をここへ連れてきてくれてありがとう。キミの任務は終了だ。俺が言うと、パニックになって、ちゃんとここへ来れるかわからなかったからね」
な、なんか、任務とかなんとか、わけわかんないんですけど!
とりあえず、理事長先生のことは、対馬プロデューサーって呼べばいいのかな?
しかもしかも、私が、パニックになる──?
それっていったい、どういうことだろう──。
「今回ここへ連れて来る口実に、デートしよって言ったんです。したら、のこのこついてきやがりました」
いやいやいや、一条ツルギ先輩!(フルネーム!)
私がカルい女の子みたいに言わないでくださいっ!(怒)
「それじゃ。おれはこれで」
どれで!?
一条先輩、帰っちゃうの!?
──本当に、私をここへ連れて来る、そのためだけに。
星桃学園の理事長でもある対馬プロデューサーと一条先輩は、内緒で話合っていたんだ。
対馬プロデューサーは、少し笑って(!)見せると、真面目な表情をして私に向き合った。
「そうだったのか。──鈴名宝。おまえの中に眠るダイヤの原石を見つけたのは、他でもないこの俺だ。したがって、おまえをどう扱うか、どう導くかは全て俺が決める。今日ここへ招いたのも、文字通り、俺の一存だ」
「詳しいことは、もう一人が来たら説明する。それまで、休憩所にでもいなさい」
もう一人って──?
言われるがまま、アフレコスタジオの休憩所で、【もう一人】が来るのを待っていると、ずんずんずん、とこちらに、大股で歩いてくる大人の男の人がいた。
って、いや、その男の人、なぜか私を、座った目で見てるんですけど!?
えっ、えっ! まさか! こっちにどんどん、近づいてくる!
「来〜た〜な〜〜〜〜〜! 鈴名葵の娘ええええええええええ!」
「ひっ!」
「おれの最愛の妻・まりもは、鈴名葵に役を取られたんだあああああああああああああああああ!!!!!」
ひえええええっ! なに!? ここのアフレコスタジオ!(号泣)
ン? っていうか……
「まりもさんって、たしか──私の母の、お仕事仲間でしたよね?」
そうだよ! ママが出ていたアニメのキャスト欄に、よく名前があったもん!
共演していたんだ!
それに、パパが話していた気がする!
たしか、ママの一番の、親友だったって──。
「あなたが鈴名宝さん?」
私は、はっとした。
キリッとした、意志の強そうな瞳。少しカールした、長い髪。
男の人の後ろから歩いてきたであろう、怖いくらいキレイな、女の子だった。
私より、歳上っぽい……?
「紹介する。おれとまりもの娘の、世羅だ。今年、十三歳になる」
まさかの同い年!
「よろしく、鈴名さん」
スッ、と右手を差し出される。
「あ……」
私が、その手をにぎり返すと、心なしか、少し世羅さんのチカラがこもったような気がした。
「よ、よろしくお願いします……?」
その大人っぽい雰囲気と、少し冷たい印象をあたえるくらいの知的な顔立ちに、圧倒されちゃった。
なんだが、対馬くんやレーナちゃん、ユメちゃんやヒカルくんとちがって、同い年には思えないなぁ……。
「やあ。キミが矢崎世羅か。二人集まったところで、これを観てくれ」
そう言うと、視聴ルームに案内される。
対馬プロデューサーに観せていただいたのは──。
「ママが主役だったアニメだ──!」
思わず感嘆の声を上げると、となりで世羅さんが、「チッ」と舌打ちをしたのが聞こえたような──?
現在も続く、ママが主演のアニメ、『パワフルリカル!』。
大衆向けというよりは、深夜アニメから大きく派生した、劇場版公開されたこともあるほどのマニアックなファンの最骨頂、ともいえるアニメだ。
もちろん、その劇場版ビデオは、私の家にあるよ。
ストーリーは、これまたマニアックなんだけど──いまは、説明しないでおくね!
「──このアニメの、レイン役が、まだ決まらないんだ」
────レイン。
常に冷静沈着、クールでぶっきらぼう。
ひどく残酷なところがあるその反面、一度心を許した相手に対する慈愛にあふれた面もある。
そのときどきの、場面、場面で異なった言葉を発する彼。
その変わりようはまるで、二重人格を思わせる。
それでも時折見せる、ツンデレっぽい不器用な優しさが、とてもかっこよくて魅力的。
ママが演じていた主人公と、一時的に恋に落ちる。
主人公と、その周辺のキャラたちの、敵役の男の子キャラだ。
でも、なんでそれを、私と世羅さんに伝えるんだろう──?
「この私とあなたで、レイン役を争うオーディションをするのよ」
世羅さんが、腕を組みながら、挑戦的な瞳で私に言い放った。
「そういうことだ」
対馬プロデューサーが、私たち二人を見比べてから、言った。
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