TAKE5︰私の声、男の子のキモチ(CV︰鈴名宝)
ブツブツブツブツ……──。
「少女役は絶対ムリ、少女役は絶対ムリ、少女役は絶対絶対私にはムリ……──」
自分のつくえに突っ伏して、うわ言のように繰り返すのは、さっき言われた、先生の言葉。
私は、超絶☆ヘコんでいた。
だってだって!
「宝ちゃん……。元気、出してください! 可愛い声は出せなくても……先生も言うとおり、男の子役としてなら、宝ちゃんはきっと、誰にも負けない日本一の声優になれると思いますっ──!」
【可愛いは出せなくても】【男の子役としてなら】【日本一の声優になれる】
グサッ! グサッ! グサッ!
まるでママみたいに可愛いユメちゃんの声が、言葉が、つららのように私の胸に突き刺さる。
「HAHAHAHA……心配しないで、ユメちゃん。私は元気だよ★(棒読み)」
「そうですよ。それ、僕も思いました。鈴名さんは、なぜにそう少女役にこだわるのですか?」
私のつくえにやってきて、意見を述べたのは──ナゾのイケボ少年である、ヒカルくん!
「だって、だってええええええええええ!」
うりゅううううう〜〜〜! と、私はマンガみたいに瞳を涙でうるませる。
──この二人になら、私が、天国のママみたいな声優になりたいと、あこがれている気持ち、言ってみてもいいかな?
思い切って、打ち明けると。
「そう、だったんですね……。芸能人第二世としての生き方も、大変なんですね……」
と、ユメちゃん。
「それは、たしかに、目指しますよね。母親って家族ですし、鈴名葵さんが亡くなられていることからも、単なるあこがれの域を超えていると思います」
そして、ヒカルくん。
私は、座ったまま伸びをしながらこう言った。
「はーーーー。超絶可愛い声のユメちゃんと、超絶カッコいい声のヒカルくんには、私のこの可憐になりたいけどハスキーボイスだっていうかなしい葛藤は、わからないよな〜〜〜」
「「可愛いって(カッコいいって)言わないでください!!!!!」」
「ほえっ!?!?!?」
思ってもみなかった、大人しそうな二人の怒声に、びっくりする私。
思わず目が、ぱっちりと開いちゃったよ!
そんな私に、二人はこう言った。
「お、大声出してしまってごめんなさい……でも、わたし本当に、わたしのことをまだよく知らない人に、可愛い声って言われるのが嫌なんです」
「僕もです。カッコいい声なんて言われても、全然嬉しくありません」
いやいやいや、なんでええええええ?
ユメちゃんさあ……たしかに私たちが出会ったのは、今日だけど……。よく知らない人とか言わないでよーーーー傷ついちゃうからあ!
ヒカルくんだって、声優志望なんだから、ぱっとしない声だねって言われるより、カッコいい声だってほめられた方が、絶対嬉しいはずでしょうが!
この二人、マジでわからん……。
「比良花さん……でしたっけ。もしよかったら、昼食ご一緒しませんか?」
「本瀬くん……わ、わたしでよければ!」
って、ええええええ!?
な、なんかこの二人、めちゃくちゃいい雰囲気なんですけど!
なんか──わかり合ってるっぽい!?
敬語で話すところとか、似てるしなぁ……。
◇
──ユメちゃんとヒカルくんが、二人仲良く、星桃学園生徒御用達のカフェテリアに行っちゃったものだから。
レーナちゃんをランチに誘おうと思ったけれど、ちょうど、先生に呼び出されてしまって。
しかたなく、私は一人で。
お昼休みの間中、学園内を探索し、そして見つけた、学園のはしっこにある見晴らしの良い芝生の上に座っていた。
はえー、こんないい場所あったんだ。
人も来ないし、いいなここ……。
たまに来ようっと。
ふと、先生に言われた、トドメのひとことがよみがえる。
────「男の子のキモチを理解するよう努めれば、あなたは立派な、イケメンボイス女性声優になれるわ」
男の子のキモチ……。
そんなの、ぜんっぜん、わからーーーーん!
だってだって! あたし、ただイケボ(?)らしい(?)なだけで、心も体も、完全に女の子なんだもん!(号泣)
ママみたいなカワボがよかったよ~!
「──宝ちゃん?」
そんな私の目の前にあらわれたのは、学園のモテ王子さま──輝臣サマこと、対馬くんだ。
対馬くんは、「ちぇ。この場所知ってるの、俺だけかと思ってた」と、あたりを見渡す。
「ねえ! ──あんた、人気声優なんでしょ? あたしに教えて! 可愛い声の出し方を!」
私は、そんな対馬くんに問いかける。
──そうだよ!
現役プロ声優で、既にアフレコ収録の現場にも出ている対馬くんなら、思うような声を出す方法を知っているかもしんない!
ナイス! 私!
けれど──前のめりでたずねた私に対して対馬くんは、ふいっとそっぽを向いた。
「ヤだね。おまえには、そのハスキーボイスが合ってる。早く認めて楽になれ。オレは知らん。──けど」
けど?
「おまえが少年役やるってんなら、本気で教えてやってもいいぜ? 男のキモチってやつを」
「な、なんでそんなこと!」
「おまえの声にほれた。さすが、男の中の男だな」
◇
放課後。
みんなが帰ったあと、誰もいない、一年ヒカリ組の教室。
一人になった私は、顔を横に向けて、つくえにダラーっと頭を置いたまま、考えていた。
「ママの声は、どうしてあんなに可愛かったんだろう……」
ポツリつぶやく。
その声はやっぱり、可憐とはほど遠いハスキーボイスで。
──「宝は、【ママのような声優】になりたいのか? それとも、【声優・鈴名宝】として、成功したいのか?」
昨日の夜、パパに言われた言葉がよみがえった。
どっちもそう。でも、でも。
──「ヤだね。おまえには、そのハスキーボイスが合ってる。早く認めて楽になれ」
パパの言葉にくわえて、お昼休みの、対馬くんの言葉までもが、私に答えを求める。
──私の声が、ママのような、可愛い声じゃないのなら。
全校生徒に笑われちゃうくらい、向いていないのなら。
そしてなにより、【本物の声優】になりたいのなら──。
このとき、私は悟ったんだ。
自分自身の声の可能性を追求することこそが、真の個性なんだって。
うん。
やっと、自分の中で答えが出た気がする。
「いよーし! 決めた! とりあえず、ママのような、可憐な声を出すことは考えずにいよう! 私は、自分のスタイルを探す!」
ガタッと勢いよくイスから立ち上がり、私は、夕暮れの坂道を走って帰宅した。
今決めたこと──それを実行するために、ここから新たにはじめよう!
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