近くて遠い

万年筆で紙をこする音が耳に残る。

時刻は深夜二時、隣で必死に筆を進める作家とは、まだ二ヶ月ほどの付き合いだ。

本好きが高じて就職した出版社。学生時代に読みふけった作家の担当に選ばれ、これからともに良い作品を作れるのだ、と最初は有頂天であったが、実際はただ作家に付き従い、時にはこんな時間まで作家宅で待機しては原稿を受け取る。

先生の紡ぐ愛の言葉。多くの読者を勇気づける魔法の言葉。

昔よりも距離の近くなった今。昔よりも距離を感じる今。

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短編小説集 律王 @MD_aniki

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