#氣持が心が、ついてくるまでは

STORY TELLER 月巳(〜202

#氣持が心が、ついてくるまでは

#氣持が心が、ついてくるまでは

2022.11.26


【storyteller byTukimi©︎】

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躓きながらも、随分、遠くまできたものだと我ながら思う時ってあるよね。たまに。


うっかり寝不足頭で電車反対に乗り間違えたまではいいけどさ。

慌てて次乗ってしまった電車がこれまた反対方向で。

居眠りから目覚めて折り返し、乗ろうとは思ってみたものの。


電車、なんか遅れて遅れてての二時間後?

私が乗るかもしれなかった正しい目的地行きの電車は、事故で止まっているらしい。


中々踏んだり蹴ったりな気する、それを、丁寧な説明する優しい駅員さんに当たるわけにも行かないし。


駅員さんが復旧したら教えますと、言うし。

時間潰しに散歩されますか?

と。言うから。

することなしの私は、全く知らない海そばの駅の改札を出た。



諦めて出た田舎な街には、

やはり、教わった通り駅前すらコンビニない。お店は、喫茶店が、一つ。

時期ハズレだからか閉まっている海の家が数棟。

それだけ。



駅員さんに尋ねたら車で三十分先の、国道沿いにあるよ、と言われて。

え?徒歩で計算したら、一時間以上の距離を、歩くそんな元気があれば電車二回も乗り間違えない、つうの。


なんて。



通り過ぎるの農家さんと言う風貌の高齢の男性が運転してる、えらいスピード出てそうなトラックや、ワゴン車。


あとは無し。


バス停も、なんかないかとみたけど、一日大体16本、朝九時から夕方十六時までしかない。

観光地案内ポスターは、地元の人が、人気の京都や大阪や、東京など観光地へ行くためのしかなくて。


地元の案内は、駅前の周辺地図くらい。


これくらい人気がないと、ないで。

建物すら遮らない景色の良さが目に眩しい。


今朝にかけて夜通し働いた足で、住む街からいつもの、お楽しみ、ご褒美ホテルランチしたろーってかなり、気持ちを保って頑張ってみたのに。

何も、なきゃ何もできないそして。

電波、場所次第でアンテナなんとか2本立つくらい。


とは言え。

眠いけど寝たらダメ帰れなくなるし、

眠気覚ましの辛いガムも、今ので最後。


『とりあえず乾杯』


駅の自販機の、コーヒーは、幸い。

もうホットドリンクがあって。

小銭の範囲なら買えるし、公共トイレも、ある。


風が強くて、眠らずに済みそうだから、持ち金、スマホ持ちだから、まあ大丈夫。

なんとかなる、算段もしたら。


だんだん。

『あー疲れたな』

飲みながら、愚痴る。


鼻歌交じりに、飲んだ缶を手に歩いてみたり。砂山を作ってみたり。

砂に足首まで埋めてみたり。


訳も、理屈も、なしに、思いつく時間潰しをしていたら。

やり疲れた体が震えて、いや、心が折れたあの時の怒りが蘇り。


『バッカやろーーっ』


そう、あの時言いたいがどんどんと、口から吐き出される自分を。遠くで見る自分がいて、押しとめるはずのいつもも。


今日は散々だったじゃんと。

一緒に怒っていて。

ただ、強い風のなかで、話す、それが止めたいのに、語気荒く。


うっかり駅員さんに届いてしまったらしく。


『大丈夫ですかあ』

訛り混じりの顔を見て一気に身体が冷えた。

『ご、ごめんなさい』

『いや、やる事ないしさ、ほら風も強いからさ、中入る?』


駅員室は。

TVがあり、ベッドらしきものがあり、あとは山盛りの胡桃、殻付きの、段ボールが一箱やたらと主張するようにあり。


見ていたら、差し上げましょかと駅員さんは、恥ずかしげに。

実はまだもう一箱あるんだけど、ねえ?

1人じゃ食い切れないし、うちの母が送ったのに、間違えてまた送ってきちまったから、と。


電車待ち用の、普通の椅子を一脚中に持ち込んだそこに、座り。

人生初の胡桃を割る、はずが。

渡された10円玉じゃ、割れなくて。


『剥いたのあげましょうか、今からなら、また時間あるから少し持ち帰る分は剥けますし。まあまあ、遠慮せずにお茶を飲んで』


手が空いているからと、剥いてくれる人と。

何となくテレビを共に見ながら、会話しながら。


平和すぎて、優しすぎて。

なんか久しぶりにお茶をおかわりしながら、口以外の話をしている、自分。


ふと、駅員さんが。

おじさんと話すのは嫌だろうが、とか。

こんな若い子は、とか。

目を細めて褒めてくれる、こともこそばゆいけど、素直に嬉しくって。


電車が来るまでに、駅員さんの家族構成から、お子さんの好きな食べ物や、夏のこの駅の賑わいについて、色々聴いたけど。

『そういえば。お母様は今お元気なんですか』


最初の胡桃以降、全く話さないでいた事を話が途切れた所で尋ねたら。


『今は、居ないんです。いや。死んだんやなくて。実は、認知症って奴で。うろうろするお母さんと四六時中一緒に入れないからさー。だから施設に。』


『そうなんですね』


『本当は見てやりたいし、息子らにも、顔見せてやれと言うんだが、忙しいらしくて、それだけ申し訳ない気分でさ、だから。

返しゃいい胡桃二箱目も、受け取ってしまったんだー』



電車が来た。

予定より、三十分早く。


『野方さん、また来ていいですか?』

『何しに?』

『野方さんに会いに』


また、胡桃が持つ間にまた。そう言うと。

駅員さん——野方さんは。


またまた、と笑い飛ばそうとしたものの、固まって。そして。

『本気か?』

『ええ。私比嘉と言います。比嘉明美。

そうだなとりあえず、連絡先教えて下さい』


押して聴いた電話番号に掛けたら。


『ではまた、来ます』

『んまあ。来るまで胡桃置いとくわ』


いや、減らすために来る予定なのに、私の為に置こうとするのを止める声を掛けたら。


発車ベル。


『また、おいでー』

手を振る駅員、野方さんはあっという間に消えて。

電車の外はひたすら海。砂浜と、鳥の声。


運転手さんの声がお詫び放送しているのを聞きながら、胡桃を齧る。

齧る。

寝ないように瞼を踏ん張らせて。



ヤー色々ありありだったけど。

まあ、こんな日の終わり方ならいい。

いや、また、起きるのは、要らないけど。



久しぶりに。

体が楽しく疲れて、たっぷり眠れそう。

悲しい苦しいが、ゼロになったみたい。

やっと心が身体と一緒に、怒って疲れて、私になった、そんな感じの。

疲れているはずの体が少し軽い。



何にせよ、今度こそ間違えずに帰り着くまでが、肝心、と気を張りたいとこなんだけど。やっぱり眠い。寝てしまいそう。


果たして、帰宅はあと何時間後?

自分の体力も、気力も、睡魔に負けそうっとすぐに。口一杯に胡桃を頬張ると。


硬っと。

出したら、殻の破片に。

また、駅員さんを思い出す。



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