五章

しかしこれでは何も手掛かりがない。

偽物が判明しただけだ。この部屋の周りは何も無い。しかしここが最後の部屋とあった。散策していない所を探すのは難しい。主はこの者では無かった。

もしや今も何処かからか監視をしているのでは無いのだろうか?

推測上での性格から考えるに遊び好きかもしれないが極端なまでの事をする者では無い筈だ。

ともあれ、この部屋に居ても何も無い。引き返す。部屋を出ると皆が居た。丁度この部屋に辿り着こうとしている直前のようだった。俺を見て皆は安心をしたようだ。

これまでの事を説明した。

とにかく今はまた行き場が無くなった。

皆にも最後の部屋を散策して貰ったが特に何も見つからなかったそうだ。溶けた蝋を見てスバルは「禍々しくは無いんだよな…」と言う。やはりどうする事も無いと見えたので下に降りる事にした。床に乗り、下に下がったらホール状の部屋に戻らず横に行った。


主はどうも俺達が上に居る間に家の構造を変えたようだ


床は何処かの扉の前で止まった。

開けると物置の部屋のようだった。沢山の物がこの中に蔵われているのか。調べると部屋の全てが物だが特に変わった所は無いようだ。が、中で何となく気になる物を見つけたので取ってみた。小型の熊の人形だった。見てみるとこれがこの中で唯一綺麗で使用されている感があった。ボタンを押してみると鍵が入っていた。何かに使えると思ったので保持をする事にした。

物置を出ると動く床が無かった。水が流れていた。が、横に道があったので行くと扉が突き当たりにあった。開けると紙の物や木の物が大量にあった所だった。何の部屋かは分からない。何となくこの部屋には危機感を感じた。

するとレイが「ここはどういった所なんだ?」と入ってしまった。

急いで彼の腕を掴んで部屋から引き戻す。

その直後に部屋の扉が閉まった。

そして燃えるような臭いがしてきた。中で火事が発生しているようだ…

レイは青くなった。「しかしこんな絡繰の為に俺は焼けないけどな…!」と言う。確かにこの部屋は作りが弱いし、彼なら力でこの部屋をこじ開け抜けていたのだろうと思うが何事も起こさない方がいい事に越した事はない。ふと見ると、隣に道が出来ていた。


どうも案内されているような感じだ。


進むとさらに突き当たりに扉が一つ。そしてその隣に通路があり、また扉が一つある。


先にこの目の前の扉を開ける。すると空だった。風が少し吹いている。地表は見えない。雲が下に見える。俺はレイ達に隣の通路の扉を調べるように言った。熊を模った鍵を渡した。察されたようだ。レイが悍ましいという顔色をしている。

「おいフリー…正気か?」

「ああ。大丈夫だよ。気にしないで。またな。何処かで合流しよう。ここは家の中だ。」


そう言って俺は飛び降りた


上からレイの声が聞こえたような気がしたが俺は無事だ。


雲を潜り抜けていくと地表が見えてきた

風景は知らない所だ

切る風が少し息苦しさがあるが地表が直前になってきた

足に力を入れ着地をした……

少し足が痛い。

周りを見てみると家の中で出入り口の近くだった。つまり、最初の所に戻ってきたのだ。上を見るとただの天井だった。やはり、主の小細工だった。


その時ある可能性に行き着いた。


そもそもこの家に主など居ないのでは無かろうか?


しかしスバルは感知をした……

が、幾つもの気が有り過ぎて特定出来ないのだ。しかし、俺達が会ったのはユウマとあの警官の偽物二人だ。幾つもの……?



恐らく俺達はある種勘違いをしていたのかもしれない


同時に、この家……もとい。

絡繰を理解したかもしれない

俺は声を上げてみた。


「この家の主人!俺は少し外の空気を吸いたい。貴方の作る余りにも難関な絡繰で頭を痛めてしまった!少しだけだ。いいだろうか?」


すると出入り口の扉が開いた


景色も普通の簡素な街並みだ。どうも久しぶりの外の空気を吸っているような感じだ。

そして改めて家の外観を確認する。やはり普通の少し広めな一軒家だ。


視えた。


この家だけでは無く、この地域自体が絡繰そのものなのだ


が、この家は「主」が特に気に入っている。普段は住処にしているのかもしれない。

が、今は何処か別の所にいるのかもしれないな


この架空の県の何処かに……


今は皆も家の外に出なければ


この家の主は気紛れだ。俺がさっき声を出したら出させてくれた。が一時のつもりだろう。また声を掛けてみた。


「主人!皆も貴方の精巧な絡繰で頭を混乱させているのだ。俺が説明をして楽にさせてあげたい。皆も少しの間だけ、同じく外に助けてあげて欲しい。」


そう声を出すと中で動きがあったように見えた。そして足音が幾つも聞こえてきた。

「あ!玄関の扉が開いているわ!」「本当だ!とにかくここから出よう!」とレイやマアサの声が聞こえてきた。そして外に皆、出て来れた。

「あ、フリー!無事だったんだな!」と俺に詰め寄る。

「皆。その前に説明がある。ここでは言えない…。機器を見てくれ。」と言って説明をメッセージで送信した。

すると皆、察してくれたようで無言での相槌をした。

そして何気なく皆で気に知らない振りをしながら颯爽とこの家を離れた……


するとどうやら家を離れられたようだ


どこかの街並みを散歩出来ている

「ねえフリー君。この街もまたあの家のようになっているのよね?」

「そうだよ。何処にも入ってはいけない。」

「俺が感じたのはこの街の人達の気だったんだな…。」

「あの家にそれが集中していたのだろう。恐らく」

「主の遊びの為、だろうな。この俺を騙すなんざ、痛め付けて死刑へ…と考えてしまうがな。」

「後は新しい何かを俺に反応させたかったかだ。」

「ああ。それもあるかもしれないがな。そもそもの犯人はこの主で確定かな?」

「恐らくな。そしてこの街全体も…」

「この街も、主の手中の内、か?」

「しかも、出られないかもしれない。」

「主との諍いごとを解決するまではな。」

「そのとうり。その主が何やら気難しいのか気前が良いのか若しくは単なる遊び好きか……よく掴めていないのだ。」

「……俺は、間違えて来てしまったのだろうか……?」

「スバル?どうした。少し歩き疲れただろう。この先に公園があるみたいだ。そこで休もうか?これからどうするかはそこで考えよう。取り敢えずは腹が減っている。飲み食いするならこの街でも出来るだろう。」

「……ああ。有難う。……やはり、分からない。」

「同じだ。取り敢えず、公園に行こう。」

レイが「いやあ。まあ割と物理攻撃が通用する人間かも知れないぞ。」と少し口角を上げた。それが何やら解決への印となったような気がした。公園に着き、飲み食いをデリバリーし、体を洗うチップも使用する。マアサはサッパリしたようで椅子で横になって一眠りをしている。


主はそういえば自身で直接干渉をして来ない…

世界を変えるなど人型を使うなどをしてくるのみだ

何が目的だろう?

もしかしてマダラのような感じの存在か……?

いいや、そもそも彼は好奇心から俺へ接触して来たのだ。しかしこの力量から察すると彼と主とする者は力が同じ程には強いのかもしれない。

が、俺へ干渉をしているという事しか分からない。が、そもそもの件の犯人はこれでほぼ主と呼ばれる者で確定だ。俺達は家に直接侵入をしたのだと思う。あの家が仮に主の家では無かったとしてもそのエリアであるこの街には入ってきたのだからそろそろ事を終わりにするとして俺達に干渉はせずに寛容にしてくれる……だろうか?

今も何処かで俺達の事を視ているのだろうか


俺に何を抱えてるのだろう


俺から発されているのは間違い無い。


少し考えついたかもしれない


この街に語り掛けよう。場所はここでも何処の店でも構わない。

それが件の解決の手口かもしれない。

同時にもう一つの考えとして、マダラはある言葉を落として行って消えた。そこから導き出されるある可能性も考慮をしておこう。

そして俺はこの街に語り掛ける。


「貴方は俺の何かを求めているのか?」


すると後ろから声がした


「そのとうり」


そして突然、俺の首を絞めた

皆は公園の向こうで休んでいる為、俺に気が付いてはいない。が、スバルが気が付いた。その瞬間、後ろの者は首締めを解いた。後ろへ逃げて行ったようだ。スバルは後を追いかけたが瞬時に居なくなったようだ

皆が気が付いたようにこちらに来る


俺は説明をした

レイが気合いを入れた。「俺だったら捩じ伏せてやるぜ。」いいや。それは無理かもしれない。かなりの強い気で人型が作られていた。可能なのかもしれないが、気で出来ている。その瞬時に倒してもまた次々に溢れ出るのかもしれない。

さっきの俺の首を絞めた存在を目視する事も出来なかったのだ。且つ、俺の首締めを解いた瞬間に俺も後ろを見て確認をしたのに瞬間的に消えていたというのは通常では考えられない。しかし、これで街に語り掛ける事で「主」と思われる存在か何かと会話をする事が出来る事が判明をした。手掛かりはあの家以外にも沢山有りそうだ。

レイが「おーい主!貴方はフリーに何の念を抱いているというのだ?!」と地面を少し踏みながら言う。しかし、何も無いようだ…。「多分、フリーにしか無理だ。」とスバルは説明をする。「主」は完全にフリーに対して干渉をしているそうだ。

俺はもう一度、語り掛ける。今度は皆も気を引き締めている。


「貴方は、俺の何を求めている?」


すると頭の中に声が返って来た


-まだ、分からないの?-


スバルはピクリとした。感知をしたようだ。

この声は…

スバルの家を発つ直前に聞こえてきた何者かの声と同じように聞こえた


-あのね。君達を僕の家から出させてあげたのに-


やはり、バレていたか。

俺の口論だと悟られていたようだ。

が、これはこの「主」が俺達が絡繰で狂う様子を見る事に飽きたから出させたという意味のように俺には聞こえた


-おいで-


それ以上は俺が何を言っても返事が返ってくる事はなかった…

おいで、とは恐らくあの家の事では無い。

流石に手掛かり無しだ。

皆で考え込む。

そもそもここの街に入る前に、バスで外の風景を見ていたのだがその時に気になった事がある。

月の位置だ。夜空に見えた月の位置が本来の方向とは逆の方向にあって不可視な感じがしたのだ。スバルの家から夜空を眺めた時には本来の位置にあったし、バスの中でもそれを確認した。何気にもう一度眠れそうな気がしたからかかなりうとうととしていたが、気が付くと窓の外の夜空の月が何故かいきなり本来とは逆の方向にあったのだ。その時は俺が寝惚けているものかと思い込んだが…

まさか、これは……

俺はある可能性を考えた。

今はまだ夜だ。

皆も少し休めて心身共に回復をしているようだ。

これから海へ行く。この中部の県の海沿いへ。具体的には、バスに乗る。終点は海の路線を行くバスに乗る。説明をしてバス停へ向かう。行き先は残念ながら確定では無い。が、何かが有りそうだ。「主」の元へ向かえる手立ての何かが。空を見ると、ほぼ満月だ。道筋が立ち易い。バスは暫くするとやってきた。暫くのバス旅。暫く走り続けて一時間程だろうか。ふと気が付くと月が前あった位置とは全く異なる位置にあった。


やはりだ


この街は何処かで「主」と繋がっているものがある


そしてその先の行き先である海へ行けば……


バスは突然路線を変えた


すると周りの乗車人も突然消えた


レイが「なるほどな。」と納得をしたようだ。バスは上へ上がった。どうやら下に路線があるがそれは上へ行くように造られているようだ。


このような道路などあっただろうか?


風景は月へと向かって行くように見えた


まさかこのまま宇宙へ行くのでは無かろうな


しかし今降りたら落下だ。乗り続けるしかない。「主」はそこまでの事をする人間では無いと思う。

するとバスが突然ふわりと上を舞った

まさか道を逸れたのは有り得ない筈だ……


そしてふわりと着地をした。

辺りは俺達の全く知らない所だ。

窓が付いていた。見ると空は黒色で光輝いている。何処かの街のようだ。俺達が今居るここは何なのだろうか?辺りにある物を見る限り、あの家を思わせるような気がしなくも無い。しかし、見回すと一部屋で四方なものでどうしようも無い。後ろは出入り口の扉があるがどうも開かない。するとレイが部屋の何処かで扉を見つけたようだ。昔の捻って開ける扉で鍵が掛かっているようだった。しかしレイは俺が渡した小型の熊を模った鍵を差し込むと入り、捻ると開いた。この扉は物置棚を動かすとあった。死角だ。其々が四方を探す中でレイが棚を動かして発見したのだ。

入るとリビングのような部屋だ。ここには大量の紙物があった。その一枚に何かが浮き出てきた。絵だ。何かを描いたが、渦巻を描いて無しにしたようだ。この絵はどうやら時間が経ったので現れた筆記のようだ。絡繰では無い…。これを何を思ったのか自分でも不明ながら持って行く事にした。その時ふと見ると、中央壁に扉が現れていた。先程までは無かった筈だ。それが、いつの間にか現れている…。皆も今気付いたようで驚いている。



やはり、そもそもの犯人「主」の居る所に来たようだ



先はホール状の部屋だった。そして球形状のプールだ。しかも奥底が見えない。これは、下へ泳いで行くべきだろうか。念の為に周りの歩行場も調べてみたが、何も無い。行くしか無いような気がした。俺は行く事にした。皆はここで待っているように伝えた。また何かあったら追いかけるように。またはここで何かあったら先に行っていてもいい。

プールを一応マアサの紙で確認した。

ただの水だ。入れる。泳いで下に行く。かなり奥が深くて息が続き難い。気を張ると多少は踏ん張れる。空気砲を作ってから入ればよかったのかもしれない。しかし遂に底が見えてきた。そこに小さな四角い扉を発見した。開けるとそこは空気があった。ここには水が通れないようにバリアが張ってあるようだ。人一人がしゃがんで通れるような通路だ。進むとあの家の最後の部屋に出た。球状で、周りに何も無い。誰も居ない…。


あの家に帰ってきたのか?

……いいや。そうでは無いみたいだ。この部屋に入ったあの扉が無い。俺が今来た小扉しか無い。しかし造りは同じようだ。

確か、この中央にあの警官が立って……


その時、上から何者かが降って現れた

その者は足腰を使って着地をした




あの男だった

アイラの姉、キリサナを殺害した張本人だ




「あ、貴方は」

思わず声が吃る

あの時は遠めで影も掛かっていてよく見えなかったがこうしてよく見えると言葉でも「美青年」は本当に言葉足らずだ。見惚れる。そのような事が無い筈の俺も格好良いと思う。そして、やはり予想は当たっていたようだ


この男は俺とレイの、主だ。

そしてこの国の王。


俺達が生まれた元がこの男だ。マダラが避けていたのは恐らくこの男だ。スバルの家に戻ると言うと青くなったのは何処かで彼の存在を感じたからだろう。彼は前に世界的事件を起こした張本人だった。そしてここに現れた理由は……


「貴方が、そもそもの犯人であり「主」ですか?」


彼は真顔だ。

「いいや。違うよ。俺も当本人を探している。」


彼では無いのか……?

公園で一つの可能性として予想をしていたのだが、それは違っているのだろうか


「この地域は私…。俺の許可も無しに好き勝手にしている者が居るようだ。中部の某県なのだが、その県では無いようなのだ。」

正にそのとうり。この県がその者の家のある所だ。何が目的で俺へ干渉をしているのかは未だ未判明だ。

「まさかこのように偶然出会うとは思ってはいなかったけどね。」

どうやら本当に彼が犯人では無さそうだ。今回は違う。

「仲間だよ。フリー。」

その言葉を聞いた瞬間、かなり安心をした。彼が味方だととても心強い。

彼は…主様は…センタロウ様は俺の額に手を充てて前髪を少し上に掻き上げた。

「……顔色が良く無いな。目の下に隈も見える。……疲れているな。腹も減ってそうだな。少し休め。ここは安全だ。」

主様は手指を丸状に宙で振ってその形に風を発生させ、柔らかめに固めさせた。それを置き「寝ろ。」と言う。そして懐からペースト状の栄養保存食をくれた。「味は微妙だろうがな。」

安心して休ませて貰う。センさんのお陰で今はとても気が楽だ。その所為か、あまり考えられない。やはり父親のようなと言われる安心感と言うものなのだろうか。少しの間でもいい。また安心をし切りたい。

気が付くと俺は眠っていた。

目が覚めると部屋はそのままだったが主様が居なくなっていた。貰ったペースト食に「先に行っている。健闘を祈る。」と書かれてあった。

ペースト食を食べながらこの部屋を探索するが、小窓以外に何も無い。何故このような部屋を用意したのだろうか。一時あの家へ戻したかったのだろうか。そうしなければいけない理由があったのだろうか。……そういう事か。そうしなければいけない理由があったのだ。

王、センタロウを恐れたのだ。その為、部屋を丸ごと変えたのだろう。本来ここは別の部屋だった。彼が突然来て驚いたか。「自分の許可も無く身勝手にするな」と言っていた。それで如何に自分がそのような事をしていたか理解出来るだろう。恐らく「主」は部屋をまた変える。小窓からこの部屋を出る。狭い通路を抜けて、プールでは無く少し広めの物が多い部屋だった。拳銃が落ちていたり人型のパーツが落ちていたり血の付いた刃物が落ちていたり血痕があったりなどした。


ここで何があったのか直感をした。

この部屋は恐らく事は終わっている。扉をを開けて出る。通路が一直線に伸びていたので進む。所々に赤い液体が散っているようだ。ホール状の部屋だが床が穴になっている。どうやら「主」が下を抜け穴にしたらしい。通路にはこの部屋以外に無かった。落ちて行くべきか?進路としてはこの下であるのは間違い無さそうだ。この中に入って落ちてみる。切る風が息苦しいがどこまでも暗闇だ。何処まで落ちるのだろうか。体感的には数分程落ちると床が見えてきた。着地をする。


すると街中だった。この辺りは公園の周辺だ。戻ってきたのだろうか?


そもそもこの建造物の中に来た時に窓から見た街はこのような造りでは無かった。という事は、あそこはこの街では無いという事か…?そしてこの街をよく見てみると何やら妙な所がある。少し先に何かしらの建物があった。球状だ。あのようなものは無かった。行ってみると本当に簡素な球状の建物で扉は無かった。触れると避けた。入れる。

中は少し広めのリビングのような部屋だ。そこに皆が倒れて居た。この部屋で何があったのだろうか

息を確認してみると鼓動がある。死んではいないようだ。安心。少し譲ってみたらレイが起きた。

「ああああ……!主様ああ…!どうか、お許しを………」

「レイ。俺だ。フリーだ。起きれるか?」

「……フリー……?フリー……ああ、フリー!」

「何があったんだ?話せるか。」

「あのな…見つけたんだよ……「主」を」

「! 見つけたのか。それが、こんな事にしたのか?」

「いいや…こうな事にしたのは……あー これでは混乱するな…。王だ。」

「やはりか。マダラはこの事を言っていたのかもしれないな。犯人の「主」は何処へ?」

「多分な。この部屋を出て行ったんだ。何処へ向かったかは俺には分からない。王が主に制裁を、加えたんだ……。そしたら静かだけど物凄まじい衝撃が走った。その後は今の俺達のような状況だろう。……周りの物が全て整えられているな…。綺麗だ。確か周りの物も一斉に飛んだと思ったんだが。」

「整えて行ったのだろうか…。そのような事をする状況には思えないのだが」

「確かに。あの方のする事は流石に分からない。後に少し綺麗にしようと思ったのだろうか。それとも何か理由があったかだ。」

「考えられないな。ともあれ俺は生きている。」

「二人も生きている。起こすしかない。進まなければならない。」

俺達はスバルとマアサを起こした。二人とも目眩がするみたいだ。そしてレイと同じような事を語った。


「主」の発見


王、センタロウの制裁


その後は不明


ここに居ても何も無さそうだ。この部屋を一旦調べてみたが何も見つからなかった。するとレイがふとしたように俺の懐を見て「フリー。それ何だ?」と言う。これはここよりかなり前の部屋で見つけた何者かの絵だ。どうも落書きなのか何かを描いた後に渦巻を描いて無にしたものだ。何かになりそうだと思って持ってきた。見せてみると何も描かれていなかった…。

もしや、これでは無かろうか。この部屋が綺麗に整われたのは。前に描かれていた絵を垣間見た時は正装な服を着た者が天に光を請う様子のように見えていた。それが影響をした……だなんて直感だが。或いは偶然か彼が片付けたか。分からないが今は行こう。中央に扉があった。進むと白黒の四角形の模様の廊下になった。直進だ。すると突き当たりに一つだけ扉があった。「my heart is here」と書かれてある。どういう意味なんだ…?


開かない…。


鍵が掛けられているようだ。俺達にはどうする手段も無い。引き返すしか無いのだが。主の性格から察するにこのように行き詰まる程の事をするだろうか?俺達が全く進めないような、このような感じの状況を。引き返してもう一度リビングのような部屋を探してみたり、部屋の外の街へ行こうとしたが外に街は無く暗闇が広がっているのみだった…。完全に行き詰まった。


理解をした。

主は焦っているのだ。


俺は皆に説明をしてこの場に話しかけてみた


「主。今貴方は危険な目に遭っているのか」


しかし返事はいくら待っても来ない

が、部屋の外の向こうで何かの物音がした。空気が抜ける音のようだ。

もう一度俺達は廊下の先を見に行くと、扉が無くなっていた

進める、のだ。

その先も廊下だ。直進だ。すると前方に何か見える。あれは部屋か……?目に見えるとあちこちが破損している。部屋だったのかも分からない。前方に壁も無いのだ。しかし隣に棚のようなものや壁もある事から元々は部屋だったのかも分からない。これも、王がやった事なのだろうか……?

しかしこれで前方に進める。先は暗闇だが……

暗闇に足を踏み入れた途端、辺りは街になった

見知らぬ街だ。最初に窓の外から見えた街だ。外に出たのか……?建造物の外装や構造が地球のものでは無い。地球のものでは……?

理解をした。ここは地球では無い。まだ夜なのでは無く、ずっと太陽光が当たらないのだ。そしてここは恐らく……


スバルが「月だろうな。ここ。」と言う。

そのとうりだと思う。「主」は月に居たのだろう。その主は今は、何処だ?

スバルが感知をしたようだ。「付いてこい」と言う。主の気が行った道筋を追うらしい。すると簡素な敷地に来た。


するとそこに何者かが倒れていた。

マアサだ。


しかしマアサはここに居る。

やはりそういう事か。マアサは取り憑かれて俺達を欺いていたのでは無い。そもそもマアサは何処かで偽物と入れ替えられていたのだ。付けられた探知機はマアサと入れ替わり損ねた形跡か。そしてここで「主」はマアサの人型を使い、何者かに接触をしていたのだ。そしてここで何をしていたのだろうか。倒れている、という事は何かあったのだろうか。倒れた偽物を調べてみる。

……よく出来ている精巧な偽物だ。皮膚の感覚や重さなども全て、本物の人体とそっくりだ。主はこの偽物をかなり精巧に作ったようだ。こちらのマアサと入れ替える為だろう。

しかし、今居るマアサは本物なのだろうか?そのような疑念を持ってしまうくらい本物に近い。

「ううう。こんなに私とよく似てちゃ、迷惑よお……。何でよりにもよって私なのよ……。しかしこれで私が皆を騙していた事など無いと証明されたわね。」スバルが「ああ。また俺を騙しやがった彼奴に対して反吐が出そうだぜ。」と言う。彼は二度もやられたのだ。とんでもない事をしでかさなければいいが。この偽物をよく見てみると血も通っているみたいだ。どうやって意識を失ったのだろうか。外傷も特に無い。マアサが調べると内臓破損である事が判明した。「まるで自分の遺体を診ているみたい。」と少し乗り気だったのが彼女がプロである事示している。「あと、私が本物だからね?!」と訴えた。その言葉を信じたい。ここで偽物は何かを飲まされたり入れられたりしたのだろうか

ここでの手掛かりはここまでだろう。スバルはマアサの遺体に手を添え、何かを感じている。「主」はここで気を途絶えさせたようだ…。ここで悶々と全体に気が感じられていたんだ。溶けたんだ。という事は、思念の世界へ籠った可能性が高い。そしてこの偽物からは向こう側に向かって念が伸びている。」と言い、その方向を振り向いた。そこには確かに見えてい無かった筈の山があった。しかしどうも普通の山と異なり黒色のようだ。

「あそこだろう。」とスバルは言う。偽物の遺体はこの星の警察に引き渡した。そして山へ行く。目の前に来てこれは山では無い。工場だ。上の少しの盛り上がりの部分が山のように見えていたのだ。


しかもこの工場は俺達が少し前に事件に対応をしていたあの工場だ。そういえばマダラは工場も戻したと言っただろうか……?


こうしてこの月にあるのはどういう事なのだろうか

スバルは考え込んでいる。「マダラは嘘を付いたのだろうか?「主」が移転させたのではないのか…」と言う。そういえば「主」はそもそもマダラを知っている筈だ。マダラと主はグルになっているのだろうか。

「念はここから感じる。恐らくこの中は「主」が居る。気を引き締めろ。」とスバルが一説明をする。それは出来ている。中に入る。


すると工場の中は淡い光で照らされていた。

中はあの工場そのものだ。奥に行く。大掛かりな扉を開けて入ると途端に何かの部屋に入った。あの家を思わせるような感じの部屋だ。そして目の前に何者かが居た。壁に寄りかかるようにして腕は組み、足は交差をさせていた。

レイが「あ!此奴だよ。「主」!」と言う。皆も身を引いている。この者か。


真顔で男性。雰囲気が神秘的だ。


スバルが話し掛けた

「お前……無事だったのか」

すると彼。「主」は話し掛けた。


「無事ではない。」


俺の頭の中に聞こえた声と同じだ


「王の攻撃を喰らって無事な訳は考えられないが、何とも無さそうだな。」

「だったらよかったのに。」

「外傷も無しだしな…」

「隠してるだけ。」

「息遣いも普通だし」

「何とか許して貰った所がある」


初めて見るこの「主」に話し掛けてみる。


「貴方が、俺を狙う犯人か?」

「そうだよ。具体的には、偶々君が引っ掛かった。」

「俺が?引っ掛かったとは」

「山。関東の地元で有名な観光山へ登ったでしょう。そこに僕が貼っておいた線があったんだ。それを君は踏んだ。」

「それは、気で出来ている?」

「そう。本当は山の風景を取りたかったんだけど君が踏んだので君を的とした。」

「俺と山が認識出来るものでは無いのか。」

「うん。引っ掛かったもので。山を取って僕の世界に取り入れたかったのだけど、君はよく動くから狙いを定め続けていた。」

「動くなら自然では無いよな。山なら人かもしれない。」

「僕の感知が混乱しているのかなと。しかし後で分かった。けれど君は強いから気になって監視をしていた。ごめんね。」

「いい。俺はな。皆に謝るんだ。苦労をかけさせた。」

「ごめんなさい。」

レイは何かを考え込んでいる。「なあ、本当にそれで全部か?理由…」と言う。「うん。」と主は言うが何か悶々としているようだ。

「あのさあ、フリーは確かに強い。が、こんな風に問題事になるまでやらなくても良かったんじゃないか」

「興味惹かれたし、僕なら直接干渉はしないからいいかなって。困らせてしまった事に対して反省をしている。」

「なるほどな。確かにそうだったなあ。いいや、無茶があるだろ…」

「どの辺かな」

「その為だけにここまで…」

「謝っている。」

「……お前はマダラを知っているか?」

「うん。それもフリー君にはある干渉でバレている。彼にも多分僕の思惑がバレている。」

マダラを知っていたのか。思惑がバレている、とは。もしや、二人で何かを協力していた事があったのだろうか

「彼にはフリー君の存在を教えて、工場もこちらに移動するように請うた。工場は何かに使えそうだと思ったから。」

それをマダラはおかしいと感じたかもしれない、か。あの家ではマダラは主がこの男だと知っていたのだろうか。それを言うと「多分バレてる。」と言った。

スバルが何気に「少年ユウマに何かしらの殺人をさせたか?」と問うた。「誰?それ」と返った。知らないのか白けているのか。マアサの偽物を作って入れ替えていたと言う。タイミングを見計らった。本物は一時に意識を眠らせていた。偽物の仕事が終わり次第、また入れ替えていた。マアサのいる範囲を丸ごと入れ替えていた。本物は一時男の元に居た。タイミングは何処にでもあった。時場所問わず。マアサが一時署から外に出ていた時やユウマの父へ問いに行っていた時や工場帰りの時など様々だ。

全ての犯人はこれにて自首をしたとは言える。工場の殺人は男が兄さんの意識を操作をした。しかし、ユウマの件が気になる。この男が仕組んだのでは無い……?


それにしても、このように地域をそのままコピーをしたように自分の世界を気で作ったり変えたりするとは物凄まじい力である。これは犯罪として問おうにもどのようにするものか分からない。事態はこれで終わったのだろうか。彼は追い詰められて居場所も突き止められてしまったので俺への追求を諦めると言うが、今度は別の人に行うのでは無いのだろうか……

少なくとも、このように大事にはしないで欲しい。殺人の兆候を引き起こした張本人なので、一応署へ同行して貰うが。

これで家へ帰れるのだろう。

元の世界へ帰る為に彼は何かを念じている。するとハッとなったように辞めたようだ。

「不味い」と言う。顔が青い。「帰れない。僕は。」「貴方達から帰ってくれ。」と言う。その瞬間、俺は何かを察した。


すると部屋の空間に真っ直ぐな線と切るような音が入った

それが開き、中から何者かが現れた。


王だ。センタロウだ。

レイが頭を下げた。


「アラタ。君が余りにも帰らないからこちらから出向かせて貰った。君はそろそろ身勝手な事を辞めてくれるのかな?」

「はい。王様。」

「偉いな。」

会話はそれで終わった。アラタ…この男の名前のようだ。王が手を横にすると後ろから兵達も現れ、男を拘束した。そして切り込みの中へと連れて行った。男は王で保護をするそうだ。マアサの署では無いらしい。


事態はこれで本当に終わったらしい…。

彼が作った世界は元の世界をも巻き込んでいたらしい。それが俺達にも飛び火をしたようだ。王は「終わりだよ。」と告げる。俺の周りの妙な連鎖はこれで終わったのか…。ユウマの事だけが残る。俺達も王の切り込みから地球へ帰還をした。

あの王はまた事態を終わらせたのだ。


今はまた普通に俺の家で暮らしている。

皆も元の日常だ。

仕事を終わらせ、バゾマイの会社へ送る。

散歩へ行くか。日光の香りが心地よい。図書館へ行こう。歩きながら風を感じて図書館へ向かう。殺人も何も無い。着くと静かで平和な空気だ。何か小説が読みたい。コーナーへ行って探すのも楽しさがある。言葉から楽しめる世界はいいものだ。その最中に偶に俺より多少年上の女性から勉強の分からない所を教えて欲しいと願われたりした。専門分野の数学術だった。俺の専門では無いが先ず俺が全て解いたのを教えた。女性は笑顔で礼を言った。少し遠くの女性と同じ程の年齢の男性から睨まれたのは暇人だからか。彼らの陰口から察するに俺はどうも実年齢より年上に見えているらしい。それもまたある意味声を掛けられ易いから厄介だ。女性が俺に教えを請うたのは俺の顔や身体などだと理解をしている。

小説探しに戻ると本の題名をずらりと眺めるだけでも心が躍る。色んな種類のお話がある。取り敢えず一番気になった題名の小説を手に取り、誰も居ない部屋の椅子に座って見る。小鳥の生態が龍に進化をするという過程のストーリーで言葉遣いもお話の成り立ち方も展開も丁寧で楽しい。楽しい気持ちになれる。思わず笑顔が綻んでよい心地だ。

その時、後ろから「楽しんでる所悪いがフリー。ちょっといいか?」と声を掛けられた。落ち着きがあり優しい声だ。


センタロウだった。主様だった。


着ている服は庶民と同じ格好の服だが、こうしてまた彼の顔や身体を目の前で見ると本当に言葉を失う。この庶民の図書館に居るとはまたシュールな風景だ。


「王。センタロウ。どうした…?」

「うん。まだ、読んでいたいよな…。」

「いいや。貴方が言うなら俺は付いて行くよ。」

「有難う。手間を取らせる。すまない。」


王に付いて行く。普通に歩行だ。切り込みやワープなどでは無い。今日はあまり人も居なかった為か、王も通り易いのだろうか。ここは誰も居ない。一緒に歩みを進める。こうして見ると本当に背が高い。


図書館を出て少し離れた木々のある所で互いに椅子に座った。どうやらカフェのようだ。周りは少人数で賑わっている。国の王である自分を見えないような視点に座ったのを理解した。柔らかな日光とそよ風が心地いい。「好きなものを選びなさい。」と柔らかな笑顔で言われた。両手を組んで顎を乗せていて、そこから俺の顔を覗き込む程に彼は身体が有る。あれやこれやと気に入ったものを注文した。

そういえばここは通貨のある所では無かっただろうか?メニューが高級だ。王は「俺が出す。」と笑顔で言った。

飲み物や軽食がやってきて、少しラテを口に含みながら王は話した。


「直球で聞かせてほしい。……これで全てが、終わったと思うか?」


俺がふとした時に気になっていることだ。

それを王が言った…。

もしかしたら、全てが終わってはいないのではないか、とは思ってはいた


「何か、気になっていることはないか?俺で良ければ、話すぞ。」


つまり、王は俺が疑問を抱いていることを考えて俺に話し掛けてきたのだ。

わざわざ、このような場所にも、一般の私服で。

これは思い切って話すチャンスだろうな。


今一番気になっている、ユウマの殺人の事を訊いた。そもそもこの王はこの件を知ってはいるのだろうか?と思ったが、知っていた。


「操られていたよ。」

「彼自身の意志では無いのですか?」

「うん。」

「その操っていた人間を誰なのか知っているか。アラタでは無いのですか」

「うん。彼じゃないよ。少し、前置きをして事件の真相を教えたい。これは殺人では無いんだ。」

「まさか、自殺。」

「そのとうり。」

「ユウマは殺人犯になるように操られて工作をされていたのかな」

「お見事。そのとうりだよ。」

「何故ユウマを狙ったのか」

「彼に対する憎しみだ。」

「憎しみ」

「そのとうり。それを隠して表面では因縁無しのように振る舞ってきた。被害者はそもそも重い病状を患っていて自殺を図ったんだ。自分で自分の身体に小型の刃物を、入れた。海という綺麗な場所で死にたいと思っていた。」

「ユウマが犯人だと断定をされてしまったのは…」

「小型の刃物に付いていた指紋だ。あの子の指紋が発見された。」

「それは、ユウマを操っていた人間の工作…?」

「そのとうり。しかし被害者はその操り人との関係は無しだ。完全に今直ぐにでも死亡をしそうな者を選んでユウマに殺人の罪が向くように仕向けた。被害者はユウマの指紋が付いた刃物を取って飲んだんだ。」

「被害者がその道を通ると分かっていてユウマの指紋の付いた小型の刃物を、置いた?」

「お見事。それがあの海の事件の真相だ。」


そう言った王の表情に影が入り、少し口角が上がっていた


「王。そのユウマを憎み、殺人犯になるように操っていた人間は……?俺の知る人物ですか?」

「………ちょっと衝撃が強いだろうと思うよ。」

「……いいですよ。教えて下さい」




「心当たりに有るかは分からないが、アンネだよ。」




俺は思わず口を噤んだ

それは俺の記憶が正しければ、児童養護施設の施設人だ。


「彼女が、ユウマを憎むのはどうして…」

「彼女はユウマのように純粋で賢さと優しさのある者に対して憎しみを抱いているんだ。」

「ユウマの事は、彼の母親が殺害される事件以前から、施設に来る前から知っていた……?」

「そのとうり。あの子の行く道は調べ切っていたよ。裏で入手をした小型の刃物を玩具に見せかけてたものに付けて彼の指紋を取った。そして自殺寸前の病人の目の前に置いたんだ。」

「それが、事件の真相……。」


王は頷いてコーヒーを啜る。


「もしや、彼の母親が父親の手によって殺害をされたのも彼女の工作……?」


完全に直感から付いて出た推測だ。

すると王はコーヒーを少し吹き微笑した


「その勘での的当て、大当たり。」


何という事だ

とんでもない真実を隠しながら事態は進行をしていた


「アンネがあの子の父親に元妻が貴方を殺害しようとしている、と言葉を作って伝えたんだ。理由は男が大量に出来たから元旦那の貴方を殺害する為だと言ったんだ。」

「なるほど。単なるスバルへの嫉妬心などおかしいと思っていたのだ。」

「アンネがそのように口論するように教えた。そうすれば上手く行くと。或いは自宅に趣味でやっている虫のコレクションが奪われた等でもいいと伝えた。」

「スバルへも何かしらの因縁を持っていた……?」

「うん。正解。彼はよく出来るからね。そういう彼の隣に立つ機会が何処かであると自分が惨めに思えた。」

「嫉妬深い性格……」

「そのとうり。表面上では穏やかに見えたかもしれないけどね。」


海の事件の真相が判明をした……


まさか、このような暗躍があったとは


「逮捕は」

「それはこの事実が判明していないからそれ自体が有り得ない。君にだけこの事実を教えているんだよ。」


影が落ちている表情の中、口角が上がっているままのようだ


王が事実を教えるという事など無いという事だ。これが社会の闇というものなのだろうか

この事実は俺だけが知っている事であり、世間では私怨から女性を殺害した事件とされている。


「王があれこれ知っている様子が知れたら大変だよ。」と小笑いする。


「他に、知りたい事はないか?」

「そもそも俺が追われている件は、これで終わったのでしょうか」

「それは俺にも今は分からない。確認する為に俺は出歩いてるよ。」

「俺はこの事は完全に終わりを迎えたのでは無いのだと思います。」

「俺もそう思うんだ。今の所は、これだ。」

そう言って王は懐から何かを出した。

熊を模った鍵だ…。レイに俺が渡した物だ。


「移転先の城の中に落ちていたんだよ。これはアラタの物では無い。そしてこれから行き来がされているのだ。」

「アラタの物では無い……?行き来?誰かが。」

「うん。移転を繰り返してる。ある場所と、ある場所を。」

「何処と、何処だろう。そしてアラタはそもそも何者だろうか」

「君が行った自然の観光地と、海。アラタは性格的にマイペースだが変わり者だ。」

「あの観光地と、海……。」

「ここから何か、とんでもない結果が導き出せる気がしてはこないか?」

「………曖昧。」

「どちらも事件は身体に挿入できる小型の刃物が使われている。海の事件はアンネが犯人。自然観光地では俺が殺したあの女性。キリサナが犯人。この二つの共通点。」

「人を操っている。……まさか」


「そのとうり。恐らく更に上から何者かが操っているんだ。それは両間を行き来している。」

「では事件は最初の観光地の時から今までずっと続いていたのですね。そして今も……」

「その可能性がある。」

「アラタでは無いのですね」

「城の牢で監視をしている。」

「では誰が」

「それを追っている最中だ。」

「俺へ何の目的があるんだ」

「それは当人のみの知る考えだ。」

「そもそも、そういう人が居るという事自体も憶測でしょう。」

「そうだよ。が、その可能性以外には考えられない。またその人物が判明したら教える。が、仮にもこのように君に干渉をし続けているんだ。意外と身近な人間だったりして。」

可能性として考慮に入れておいた。


「他にも聞きたい事は無いか?」

「貴方は何故そこまで知っているのか」

「それは俺が王だからだよ。」

少し笑って言った。

一段落したような気がする。ラテを啜って一息を吐いた。お菓子も摘むと仄かな甘味が広がって心地よい。


「熊の鍵は観光地と海を繋ぐ何かしらの念で出来た扉ですか」

「そう。今はこうしてここにあるが当人は新しいのを作って両場所を行き来しているのだと思うよ。」

「この熊に何か手掛かりがあればいいな」

「そう簡単には無い。残念だ。」


しかしそう思い詰める事では無い。

真相は見えてきた。

あの家にアラタでは無い人間の鍵があった


「ひょっとしたらアラタも操られていた可能性がありそうだ」

「いいや。彼は関係無いよ。寧ろ操られない。しかし推理としてはいい線を行っている。」


いい線。

あの家に予め彼では無い者の……

俺は出来るだけ思い出せるだけの関わってきた人々のことを思い出してみる


………

…………………


まさか


俺を狙うそもそもの存在

推測でしかないがそれにしてもとんでもない可能性に行き着いた

しかしここで気を上げても勿体無い。

コーヒーを飲んで、お菓子を少し口に入れる。


「何かを察したようだね。折角だから、もう少しは要る?」

「もう少し、頂きます。」

「好きなのを頼むといい。」


王は好きなだけ頼んだらいいと催促してくれる。しかし俺は腹が満ちてきた。


「もう少し、ラテとクッキーを頂いたら行きます。この状態では俺は恐らくまだ家には……愚か、何処にいても目星を付けられる。王よ、いや主様。俺と一緒に行動をしては頂けませんか?」

「俺はいいよ。が、国の事もあるからそこまであれこれとしては上げられないが。」

「構いません。心強い。」

俺は最後にラテを飲み切った。

「最後に聞かせて下さい。この件は貴方が犯人であったり関与をしている等は無いのですか?」

「うん。俺は一切無関係。」

前はこの王が世界的な事件を起こした張本人だった。そもそもやっている事の強さや可能性から考えたのだ。が、本当に彼では無いみたいだ。

王もコーヒーを啜って飲み切った。

「では、行くか?フリー。」

「ええ。行きましょう。」


通貨を王が払ってカフェを出る。

何処に行くなどは王の案内。付いて来いとの事だ。連れて行かれるがままに行く。意外にも悠々とした行き方だ。道中で思い付くままに話をしたりもする。

「ガクルスが見ている兄さんは工場での殺人した後遺体を分けて提供したらしい。その行き先を知らないか」

「あれは俺の城だよ。研究にしている。」

答えを何気にも言った。このような会話を気になる度に話しかけた。

「マダラを知っているか」「俺には近付かない。」

「「おひめさま」の正体はマダラの作った人型では無い?」「そのとうりだ。」「ではそれは誰。アンネか。」「それは彼女では無い。」



「アイラだよ。」



これは気が引き締まった

マダラのは「おひめさま」とよく似せたものらしい。マダラは途中で「それは俺がやったんだ」のような事を言っていたがそれは嘘だ。似せてみたかったからだ。ユウマへ見せてはいない。偶々見たのを真似た。芸術を創りたかった。しかしアイラが「おひめさま」をした理由は王は「君自身で理解をするといい」と言う。

そもそもそれがアイラだったとして、ユウマに何か危害があった訳では無かった。それなので問題事として見なくてもいいのかも分からない。


「そういえば俺は元々所属をしていた今は廃墟の職場にキリサナを見た。ライトも付いていた。」

「あそこは君達の元の職場だし、レイを味方に付けて俺を倒そうと未だに思っていたのだろう。スバルが在るべき所へ返したらしいが。」

他にも何気に「並行世界線とはそもそもあるのか」「あるよ。入り込む条件は幾つもある。」などの会話もしたりして。

会話の中で様々に明らかになり途中で気が安らいで、眠気が襲う。乗り物の中で眠ったりもした。着いた先は住宅街の中の一軒家だった。

「ここが?ここは」「ユウマの母親のトガリ アンナの家だ。今はもぬけの殻となっている。」事件後に父親も別の家に住み留まり、誰も住居者が居なくなったので暫くの間は立ち入り禁止だが空き家となるそうだ。

この中に入って調べると言う。

中は普通の家で、今は全てが綺麗にされてある。家具などはまだ残っている。まさかこの家に来た理由は

王が「あったぞ」と言い、手に何かを持った。手鏡だ。これで母親、アンナの御霊へ接続するらしい。王に言われ鏡を暫く見てみると中から何者かが浮かび上がってきた。女性の姿だ。その中の者に王は話し掛ける。

「トガリ アンナさん。俺だ。」

! 二人は知り合い同士なのか…?

鏡の中の女性はハッとした。

「貴方は…!あのね、私は多分死んだのでしょうか?!」

「残念ながら…そのとうりだ。貴方の絵は綺麗だった。もっと沢山、見てみたかった…。」

この女性、アンナは絵を描いているとは聞いていたがその絵は有名で客も多いらしかった。

「やっぱり私は死んでいたのだね…。元旦那から硬い鉄のような物で殴られて気を失って……気が付いたら家の中に居るような外に出て散歩をしていたら知らない所に居るような……道理で……。息子は、ユウマは?」

「捕まっている。殺人容疑だ。アンナさん。もっと、視える所まで視れるか?」

「ちょっと待っててね。」

アンナは何かを思い出している。

「元旦那さんも、何者かに操られていた。彼が真の殺人犯では無いわ。その人は私と同じような名前で同じような性別だが、その人も操られていたのだ。その人も操っていた人は、実はお医者さん。だけど有能で力が有るからそのような事も出来るの。」





「視えたか?フリー。事件の犯人や真相が。」


王が助言を差し出したが戸惑う。

それは俺達が今まで一緒に行動をし合ってきた仲間だと認識をしていたからだ。前の事件の時にもこの王を倒す為に一緒に戦った。

その者が……?

今の時点では未だ推測だが、ほぼ確定だろう。


「……これが事実なら、残念ですね。」

「だろう。」

王はアンナに在るべき所を教えた。「また何かあったら力になりますわ。アランさん?で合っているかなあ。死んだら自分の生前を思い出さなければ、全てが思い出し難くて…。」

「ああ。ゆっくりと自分の人生を思い出されるといい。有難う。またな。」

王はアンナと出会った時にコードネームも貰ったらしいがこれは二人の体験のようだ。王は社交が広いのかも分からない謎の人物だ。

医者で有能……

考えられる人物が居る

王曰く、残念ながらほぼ確定でいいらしい。しかしこのような一連のそもそもの火付け人だとする可能性がある以上は調査をしなければならない。

相手は何をしてくるか得体が知れないと言う。その為、俺の創造主であるこの王…センタロウが居ればかなり守られるらしいし王も真相を知りたくて調査をしているので二人で行く事にした。

アンナの家を出て、都内のある病院へ向かう。全ての張本人の元へ。

行き方はまた普通に悠々とした散歩のようだった。乗り物に揺られ、眠気で寝たりもした。また都内へ戻ってくると辺りは夕焼けになっていた。そして徒歩である院へ行く。この王が居ると安心する気があるが、普通に知人へ会いに行くような感覚でもある。

「そういえばフリー。山を下山した時に出来た怪我に塗布する薬を貰ったって言ってたな。その部分は今どうなっている?」

服に隠れて見難い所だが、見てみるとその部分が黒色に変色をしていた。

「やはりか。これはまだ治療が出来る。」

王はその部分を撫でた。するとそこから身体が巨大な吸引機で吸われるような気になった。少しすると落ち着いた。

「感染症に疾患をしているなど、嘘だ。フリー。」

これ迄の事は偶々俺は掛からなかったという。それは王から生まれた俺だからだそうだ。俺に薬を輸送すると言って送ったのは毒薬だったのだ。しかし遅効性か?

王曰く、遅効性だが確実に内臓に効いていくとの事だ。その為、俺にチューブ食をあげた時に生命型の良性の細菌も混ぜたという。

あの家の中に熊の鍵を入れる為にはアラタに薬を服用させて意識を朦朧とさせ、彼の意識から入り込んだあの家の中に仕込んだのだろうという。そしてアラタの干渉の中に細工をして、鍵は自分の中に在るように仕向けた。月での扉が開いたりしたのはその為。アラタは尋問中はその辺りの事は「何故か僕の意識の筈なのに妙な感じがしたが気のせいだろうと思ってた」という。そこで王は何者かの元人の可能性を考えたそうだ。

そのように王と話しながら行くと遂に着いた。

今まではここで世話になったが今は恐ろしい場所に見える。綺麗なエントランスは相変わらずで心地よい雰囲気を出している。それに幾分癒されそうになる。院人の女性がこちらに来て声を掛けられたので言葉を選んで話した。すると了解をしてくれた。

その時ふと、王を見ると姿隠しをしているのだと確信をした。俺には見えるが人には見えていない。ここで暫く待っているとその者の仕事が一時終わったのと了解があったとのことで通った。案内をしてくれた。

「普通でいいよ。普通に、知人に会いに行く感覚でいたらいい。」と王は促してくれた。その言葉で幾分は安心できた。

その者の部屋に入る。すると本人だ。



「よう。フリー。元気にしてたか?」


Tだ。



「ああ。あれ以降俺は何ともないよ。ちょっと、今の俺が何処か異常が無いかを確認したくて来た。色々と有り過ぎたからな……」

「なるほどな。分かるよ。俺はそのアラタという少年の世界に行ってなくて留守番だったから何とも言えない。早速見せてみせろ。健康を気にするのは良い事だよ。」


Tに薬を塗布した患部を見せた。

「おおー。健康的だな。良好だ。」

少し考え込んでいる様子だ。

「なあT。直球だが、聞かせて欲しい。」

「いいぞ。何だ?」



「貴方が、全ての干渉事の張本人ではないか?」

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