四章

その後も後ろのドレスの者と隣の者が気になったがスバルが見てはいけないと言うのだから仕方が無かった。

見ると何かを受け取ってしまうかもしれないという。

しかし彼の家に戻って来て身支度を整えて就寝しようとすると内の疑問が発生した

あれがユウマの言っていた「おひめさま」では無いだろうか?そして地下道で俺を追いかけていた本人。

寝る前についスバルに訊いてしまった。「多分な。」との事。「しかしその隣の人が本体なんだと思うぞ。追いかけていたとしたら、そいつだ。」と優しい笑顔で言う。

じゃあな、と言ってスバルは寝る。

俺も就寝する。追いかけて……今も、追いかけられるのだろうか?こればかりは考えてもこの最近のとうりの何も出来なく戻るだけだ。寝よう。少なくともこの家に居れば何とか安全な気がする……。そう思いながら眠りに入った。

目が覚めると既に周りには誰も居ない。皆起きているのか。

部屋の外に出ると誰も居なかった

黒も使用人も居ないようだった

メッセージを見てみたが誰も何も言っていない…

ふと、服の中に何か紙のような物が入っているのを触感で理解した。

手に取り見てみると、スバルからの手紙という物だった。綺麗な字で墨で書かれている。


-悪いなフリー-


これだけだった。

どういう事だ……?

皆何処へ行ったんだ……?

この家の中に誰も居ないのではどうしようもない。玄関から扉を開けて出る事にした。扉を閉めると丁度身体を家の中に目を移す事になるのだが、すると家の中にスバル達は、居た。その表情は皆……俺を睨んでいた

昨日俺は何かをしたのだろうか?

スバルやマアサやTへメッセージを送っても返事は来ない。既読にはなる。

俺は何故、突然除け者にされたのだろうか?

それを問うても返事は来ない

俺は俺に出来る事をしよう。家に帰ってもいい。そういえばあの海の事件に関しては俺の元に未だに連絡が無い。という事は無事に処理をされているのだろうか?

外の人々は普通だ。家に帰った。仕事が溜まっている筈だ。それをやろう。

……結構溜まってるな。一個ずつでいい。淡々とこなしていくと割と素早く終わらせられている。提出が遅れている事を社長に伝えなければならない。長らく不在で身元も不明だったのだ。切られているなど無ければいいが……と思ったら仕事が昨日のも来ていた。

が、連絡は取っておこう。俺の仕事の会社の社長、バゾマイだ。

実はこの人も何百年も生きているのだよな……

すると社長から直ぐに連絡が来た

-フリー君!何日も連絡が無いから心配をしていたのだぞ。君の事だから何かあったのかと思ってたよ。クビになんぞしないさ君の事を。戻って来てくれて、助かったよ!何かあったのか?僕で良ければ話を聞くが…。-


心が揺れ動いたような気がした。

これ程までも心広い社長がいるものか。

日頃から頑張っているのもあるが、俺の事を信頼してくれている社長へも感謝だ。

直ぐに溜まっていた仕事を全て完了させ、輸送をする事を話した。

そしてここ最近であった事を説明した。長くならないように、簡潔に。

すると社長は考えながら了承をしてくれたみたいだ。

後にも「辛かったな、フリー君。」と言って共感をしてくれている体勢が響いた。

お互いに繋がり合っていると思っていた人々から行形分断されるというのは腑に落ちなさがある。

俺自身はそれは何かあるからではないかと思うが、これまで培ってきたものが嘘な訳は無い筈だ。命を賭けた戦いも前に一緒に挑んだ事もあった。

俺がそうやって裏切られるなどはあまり気にならないのだが、それにしてもあからさまに矛盾を感じるのだ。

まるで、何かの人形劇ゲームにでも踊らされているかのようだ



そういう事か?

踊らされていると言えば昨日のドレスの人とその隣の操る人を思い出した

釣り糸のようなもので操っていたんだ。釣り糸のような……

………………

まさか、あの家は


ある可能性を思い付き、仕事を全て終えて輸送をしてからある所へ向かった。

あの廃工場だ。


………やはりだ



無い。ただの更地になっている。



散々苦労をしていた筈のあの廃工場が無くなっていた

やはり、あの工場は曰く付きだったのだ。

何処かで見た事があるような気がしたのも気のせいでは無い。

あの工場があった時は少なくとも俺は身に何かが危険だと認知をしていた。そもそもまだ安全になったのかは未だ分からない。が、こうして家に帰ってみると割と安全だった。

何となく、スバル達が何故あのようになったのかを理解したような気がした


あの人に操られているのだ。

ドレスの人を釣り糸で操っていた者。


工場はその後で何処かへと持って行ったのだろう。そしてこのように転送させる事が出来る者はそうそう居なさそうだ。という事は、そのような人物であるとは察せるが俺だけを操らないという事は俺が会った事のある人か?それとも何かしらの理由で目を付けられているのか。

俺だけが操られていないという事は、俺に目星を付けられているのは確かだろう。

昨日スバルがあのドレスの者の事を見るなと促したのはこのような理由だったのだろうか。彼はあの後かなり急ぐように寝たような気もするし。もしかしたらその時に既に取り憑かれていたのかもしれない。

或いは何かのイベントの為に俺を敢えて外れさせている、などが浮かぶ。俺の事が好ましく無いなら言動の仕方が異なる。

そのように思考が整った。俺の事を狙う何者かがいる。一応、マアサの務める署やTの務める病院にも連絡を取ってみたがやはり居ないとの事だ。俺を試しているのだろうか。

児童養護施設にも行ってみるとユウマは居た。そして昨晩に「おひめさま」を見たと言うので恐らくは同一人物だろうか。

スバル達や工場を浚って行った者はあのドレスの操り人だ。暗かったしスバルの手で塞がれた事もあってかよく見えなかったがあれは恐らく人だ。見かけたのは確かあの崖の上だった筈だ。あの木の隣に立っていたように思う。施設の屋上から、工場に戻るように道が開拓されていたのでそこを行くと斜めの歩道を進んで行くと工場の裏の崖に登って来れた。下に工場の跡地が見える。そしておひめさまが立っていた所はこの辺だ。この茶色い土肌が見えるエリアに立っていた筈だ。その少し離れた木の隣に操り人が居た筈だ。この辺りに何か、痕跡は無いか…?

この辺の木々をよく見てみると一本の木に切り込みが入れられているのを発見した。

ここに何かを引っ掛けていたのだろうか。それとも印か?そして当人が立っていたのはこの辺だろう。仮にそうとして、何故昆虫達を集めて人に見える形を作って置いていたのだろう?そもそも昆虫を集めて作るとは、マニアックな腕前だ。そのような人間と会った事があるだろうか?

ユウマの父が確か昆虫のコレクターだという感覚がある。彼の父がおひめさまを作っていたとは有り得ない。彼の父は刑務所の中でずっと拘束をされていて、出れたとしても息子であるユウマと話す為だけだ。日中のみらしいし、ユウマは夜に見たと言っていた。しかし昆虫で作れるなどもそうそう居ない。考えられるのは、かなりの者であるという事くらいだろうか。

バゾマイ社長。俺の会社の社長だが、彼もかなりの者だ。中東人イザヤ。彼は土竜の遺体を異空間へ入れて移転させていた事から彼も強者だろうが昆虫で人型を作る……などの器用さも有りそうだろうか。ガクルス。彼は外惑星の王で羽を持って飛んでいる。この星の昆虫達を集めて人型を作る事なども出来そうにはなさそうか。後は何となくアイラさんの存在を思い出したりなどをした。俺が知るのは彼らなのだが…。

とすると、俺の家が根拠地なので俺の家に帰ると何か判明しそうな気はする。家に帰ろうと踵を返したその時、後ろから「その必要は無いよ。」と声をかけられた。振り向いてみると青年が立っていた。

心の内を読まれた?

俺の考えている事が分かる訳が何故ある

しかもこの青年は会ったことの無い青年だ。何者だ

青年は「君のお家は貰っていってしまったよ。」と言う。やはり、俺の家まで丸ごと無しにしたという事か。

「何で俺の家を盗むんだよ?そもそも俺に何の因縁があるんだよ」

「ここら辺で結構強そうだと思ったからだよ。」

「和風のお家の皆をどうしたんだ」

「意識を変えたよ。君の事を見てみたかったから。観察の対象として。」

「それは分かる。沢山見させたと思うが未だ足りないか?」

「もう少し見させて欲しいかなー。気が済んだら家も皆も元どうりにするよ。俺の気紛れなんだ。」

「そうか。気紛れか。それなら良かった。何か邪な自己欲求の為に迷惑を掛けてくる等で無いならいい。」

「これを君はそうしてくれるんだな。君はやはり自分自身に対して大切にしようとか無いのか。人間にしては珍しい。」

「無いね。そういうものがあっても苦しいだろうし。人に対しては興味は特に無い。が、不当な事で苦しめられたりしていたら助けるような。」

「そういう自分が人と違うとか、何で自分は生きてるんだって思った事は無いか」

「前者は無い。後者は偶に。主に人から価値観を押し付けられた時にそう思ったりする。」

「死にたいとは」

「思った事無いな。その後はどうなるのだろうかとは思った事はあるが。」

「死が怖くは無いか?」

「いや俺の場合は特に。必ず痛みや苦しみを伴う訳でも無いしな。」

「そういう君はやはり強者なんだ。俺が試してみたかった訳だよ。あのな、昨晩にここで地獄の魂を集めて人間の形をしたものに形成させたんだ。それを君達の前で見せたよな?あの時君の隣に居た子供は何て言ってた?」

「禍々しいものだと言っていた。虫の塊だとも。」

「そうか…。地獄の魂の塊であるというのが堪らなかったんだな。それを虫と表現する彼は言葉上手いなあ。」

「滅多に無いのか。地獄の魂が世に現れるというのは。」

「基本的に有り得ないよ。地獄の者は地獄に居る。」

「その彼らを連れてきた貴方は何者だ。この世の存在では無いのか」

「うん。いいや、俺は何というか、確かにこの世の存在じゃ無いんだがな。この世の者を亡くしているよ。」

「それは、何故だ?」

「この世の定めだから。そもそも世界に生命なんて、死ぬから存在してるんだろ。見かけたから取ってるだけ。」

「へえ。仕事な訳では無いのか」

「うん。なんとなくやってるよ。」


僕はそれ以上の言葉が思い浮かばなかった。

質問攻めにされたが、それで家や皆は帰ってきたらいい。

「おい、少年。話は終わって無いぞ。最後に一つ質問させな。」

「何だろう」

「スバル達を殺すって言ったら、君は怒るか?」

「交戦させて貰う。」

「……なるほどな。分かった。有難う。悪かったな。勝手に君の必要な人達を攫って。戻しておくよ。」

「あの文字、スバルの置き手紙も本当は貴方が書いたものか?」

「あー……うん。そうだよ。彼の筆記体だけなら彼の意識体からコピーをして書く事が出来た。ああやっておけば雰囲気出るかなって。お屋敷の中から居なくしたのは気のせいというか、木や植物で出来た廊下の後ろに植物の域があったんだ。その中に隠れて貰っていたんだ。あの中にもまた小部屋があるんだよ。」

これはまた新しい発見をした。スバルの家は広いな。

「意識を戻してくれたのか?」

「そうだよ。沢山君を観察させて貰った。楽しかったなー。」

「それはよかったな。家も戻してくれたか」

「ああ。勿論。」

「ではな。スバルのお屋敷へ戻らなければならない。」

「………」

青年は浮かない顔をしている。何かを考え込んでいるようだ。

するとその顔が徐々に青くなっていった

「どうした?貴方は名前を何て言うんだ?」

「おま……スバルの屋敷に戻らなければならない理由って、何なんだよ……?自分の家じゃないのかよ……」

「危ないかもしれないからだ。詳細を話すとなると難しいがな。」

「それで最近はまたずっと彼の家から出ずに居るのか?!」

「ああ。かなり前から見ていたのか。俺の事を。」

「ということは…」

青年は何かを考え込んでいるようだ。すると「またな」と言って去って行った。急いでいるように見えた。

ユウマの夜に見ていた「おひめさま」は彼の遊びだったそうだ。地獄の魂達を集めて作った人型で、ユウマへ見せて遊ばせていたものだそうだ。何て気楽な者だ。彼は焦った風に何処かへ行ったが何処へ行ったのだろうか。

俺が自分の家にではなくスバルの屋敷に戻るのが、何か……?


その時これは考え付かない程の事が潜んでいるような気がした


そもそも家に帰れないのも何かそれが要因しているのだろうか


海で発生した事件は自殺などでは無さそうだ


先ず、自分の家に戻ってみる。

するときちんとあった。俺の家だ。久しぶりの我が家だ。中も見てみると特に何も異常は無い。いいや、そもそも俺は青年と会う前から家に帰って居なかったので家が無くなる所自体見ていないが。そう思うとスバル達が気になる。

足早にスバルの屋敷へ行く。玄関から呼び出しを押すと使用人が現れて「おかえりなさい。フリーさん!」ともてなしてくれた。そして中には皆が居た。

スバル達は俺に気が付くと俺の元に来て、謝ってきた。元どうりの以前の場だ。「自分でも何でなのか分からなかったんだ」と言う。

マアサと半々の警官達はマアサの署でガクルスとあの兄さんの取り調べを行っているという。そして、あの工場へ再び調査をしに行った所、工場が無かったという。

工場は戻していないのか……

マアサ達はまた戻って来たら謝るとの事だ。

警官達は半々はこの屋敷に居た。Tは休暇を取っているので部屋の中で食事を取っているそうだ。


俺はことの事情を皆に話した

「この屋敷に居ても何があるか分からないんだな」という場だった。

寝起きは何やら意識が朦朧としていたのだがそれは寝起きだった為だったと思っていたらしい。皆同じだったそうだ。俺は寝ていたままだった。そして気が付いたら身体が家の裏側の緑地の中の部屋に籠るようになっていた。何故か、俺の目の前に姿を出せない気になったそうだ。警官達は多いので緑地の中の部屋以外の所に居たのだという。その中で皆で集まってこれはどういうことかと話し合いをしていたという。すると俺が起きてきた。そして彼と会ってはいけないというように皆で思い、隠れていたという。皆、後ろから何者かによって俺から遠ざけられているような感じだったそうだ。それはその青年の仕業かと推理をしたが、俺がこの屋敷の外に出る時に振り返って中を見る体勢に入ったら皆で俺を睨むように見ていたのは全く身に覚えがないと言う。

その青年から睨まれている俺への一過性の事であるかとスバルから言われたが海の事件はその青年が行ったものとは思えなかった

やはりまだ、帰れない

青年が俺がスバルの屋敷に戻る事を話したら驚いていたのは彼自身の訳があのではないかという推測だ。俺が家に帰らないと驚いたという事は、ここ最近の動向を見ていなくてここ最近で偶々見たものを彼自身の知の欲求の為にした事なのでは無いのだろうかという考えだ。よって、この件も解決をしたものと思われる。

海の事件と妙に何かが繋がっているような気がしたのは気のせいだろうか

青年の「ということは」という言葉が何やら引っ掛かっている。俺が暫く自分の家に居なかったからという理由であそこまで青くなるものか。自分の推理が外れたからという理由でもそこまで身が震える思いにはならない者が大半だと思う。そういう性格なのだろうか?それにしては何かから逃げるような感じだったが……

何か裏で未知なるものが繋がっている気がした。やはりまだ帰れそうにはなさそうだ。

そもそも最近はまた海から色んな事が多い。どれもこれも偶然とは思えないような気もする。

しかし考えても何もない。取り敢えずはまた寝たい。疲れた。最近の事を考えると疲れてしまった。前に怨恨からなる念の連なりによる連鎖が終わった時は人がキリサナを殺害した時からだ。今回は……

全く見えない。

どれだけ探索をしても。何も。


しかし、海の件以降立て続けに何かが起こっている事は確かだ


という事は、待っていたらまた何かありそうだ。それが分かると手掛かりだろう。今はゆっくりと休もう。寝室へ行く。俺の布団に入って横になる。疲れた意識をすっかりと手放す。


間違い無い。キリサナが死んだ後にまた何者かが干渉をしているのだ。


それがただただ確定された。

俺達に対してのみなのかは分からない。

が、青年は俺に対してのみ干渉をしていた事から俺達への何らかの意図が感じられるような気はする。

具体的には、俺に対して……か……?

その瞬間、脳裏に何かが過った。



レイは実は案外にも近くに居る



それが浮かんだ瞬間、起き上がった。

そして行く所が出来た。皆に伝えてスバルには謝ってから家を出た。

ふと、何気にメッセージを見てみると皆へ送ったメッセージが全て送信されていなかった。これもあの青年の影響なのだろうか

意を決して俺が元々居たグループの建物へ行く。この道を通るのも懐かしさを感じる。

建物は未だ廃墟のままで原型を留めているが埃が積もっている。

中に入ると中の構造の仕方に懐かしさを感じる。ホール中央の所長の居た部屋へ入る。するとそこもそのままだ。少し小型な社長の部屋。


ここだ。

俺は所長が殺害されたとする事件の時にこの部屋を調べた。その時に徹底的に調べていないような気がしたのだ。そこは事件の時は後少しの所で時間が押して調べられなかったし、解決したからと忘れていた。今となっては何でもないかと思っていたこの部屋の、ここだ。

所長のデスクの下の盛り上がり。敷物を退けてみると蓋があった。開けてみると、どうも地下へ続くようだ。


まさかこの施設に地下があったとは


最初から今までずっと、知らなかったな…

………


下へ降りて行くと地下の広間のような所に着いた



ライトが点灯している



しかもここはチップで見た土竜がメイドを拘束した所と同じ場所であると理解をした


暗がりでライトは微量の光のものだったのでほぼ真っ暗のようなものだ。あまりよく見えない。が、遠くに人が横に倒れているのを見つけた。近付いてみる


レイだ


少し揺すってみる。……起きない。息を確認してみる……呼吸有り。生きてはいる。良かった。

どうやら眠っているようだった。

レイを担いで、周りを確認する。

……足音もしない。

暗さに目が慣れてきたのでよく見てみるが、誰も居ないようだ……

上へ戻る所まで行き、上へ登る。蓋のロックを開けて……



俺はこの中に入る時にここは廃墟だからと思って蓋にロックを掛けていない。閉めたが鍵など掛けていないのだ。


そっと、蓋を開ける


上へ出ると誰も居なかった

施設を後にする。すると施設が少し遠くになった所、ふと後ろを見たくなった

振り向くと出入り口から何者かがこちらに目を向けているのを確認した


………キリサナだ


眉間に皺を寄せてこちらを見ている


が、そのまますうっと消えて透明になっていった


今のは、幻視では無いと思う。

この施設には彼女が居るのか……?

横たわっていた所しか見ていないが、立っている所を見ると本当にアイラと顔立ちも背格好もそっくりだ。

この施設に住んでいる?のだろうか。地下のライトが付いていたのもそれでだろうか。

スバルに相談、で良さそうだろうか。

スバルの家に帰るとすっかりと夜になっていた。美味そうな香りがしてくる。

担いでいたレイを寝室で寝かし、スバルから何処へ行っていたのかを聞かれた。俺が元々働いて居た施設である事や見た事などを説明した。「なるほどな。つまりお前はそこであの人を見たと…。」「少なくとも、お前に関与をする気は無いみたいだぞ。君が帰って来た時にも何も感知をしなかった。」「その廃墟施設はまた俺が浄化をさせに行っておくわ。」

スバルの言葉は助かった。

土竜は怨恨で操作をされてレイやメラを攫ったのだろうか。それがあの地下と。あそこに閉じ込める理由は一体……

そういえば、あの者はあの男に対して何の恨みを持っていただろうか

あの地下に閉じ込めると、何がある?

何も感知をしなかったという事はレイも何も無いという事か。

こればかりは今考えても分からない事であるような気がした

食事が出来たようなのでいただく。

やっぱりスバルの料理は最高な美味さだ。彼が作るのは懐石料理が多くて舌鼓を打つ。つい、暫くこの家に住んでいたいと思ってしまう程の美味さだ。マアサも頬を赤くして膨らませている。

暫くするとレイがやって来た。

「……!フリー……?…!スバル、マアサ、T……!?」

皆で歓喜をした。レイが起きたのだ。気が付いたら寝室の中だったらしい。何処だか分からずに部屋を抜けるとここの部屋が明かりが付いていたので入って来たらしい。

レイはスバル達の事も覚えて居た。

「お前も食え!大分栄養不足で弱っていたぞ。Tもかなり心配をしていた。さあ、遠慮はするな。」とスバルは勧める。レイは大喜びで食事をした。

レイの話を聞くと、黒色の布を身に纏った土竜らしき人物から攫われた後に気が付くとあの施設に居たらしい。具体的にはメラが居た部屋だ。そこにアイラとよく似た女性が来た。そして何かを言われたらしいのだがそこから先は、覚えていないのだそうだ。何も。簡潔な体験話だった。体感的にはかなり眠っていたような感じだったらしい。何ヶ月も眠っているようなと。

こちらの世界と行き来をしていたのだろうか?今はこちらに定着が出来ると。

何と言われたのかも全く覚えていないそうだ。頭をううんと抱えている。食事をしながら「ちょっとイントネーションに変な響きがあったような気がする」と小声でぼやいていた。

沢山食べてレイは幸福そうな顔だ。何でも、ずっと食べられていなかったらしい。何故か餓死をしていないが。それはどういう事か……。深く考えないのがいい気がした。無事に食物にありつけて何よりだ。こうしてレイが戻って来てくれて何よりだ。

何となく、これ迄の経緯を思い返したら案外近くに居そうな気がしたのだ。どうも色々と直ぐ近くで起こっているし。スバル達が変化をしたりあの青年が俺を狙ったり工場の事件の犯人が知人だったり、何だったり…。

それを考えるとレイもあんまり遠くには居ないような気がしたのだ。土竜が連れ去って「覚えていない」という事は、少なくとも外国のように印象に残る所では無いのだろうと思った。初めて訪れるような所でも無い……そう思ったし俺を探していたのだから割と近くだろうか……と思ったのだが、直感だ。完全に。当たっていた事が驚きだったが無事にレイを見つける事が出来て一安心だ。前回は火星にまで連れ去られていたのだが、そこまで離れた場所では無かった事に落ち着きが現れる。


または、そもそも何者かによる俺への実験では無いといいな…… ……………


夜も深まってきたので皆で就寝だ。

そのまま深く眠って目が覚めると辺り一面が花畑だ。疲れ過ぎて死んだのか俺は

そう思いきやスバルが起きていて、部屋中を花畑の絵を壁中に下げていた。

「おお、おはよう。フリー。綺麗だろう?」

「綺麗も何も、上手いな。リアリティがあるよ。本物かと思ったぞ。本物の花畑かと思ったな。」

「有難う。偶にはこういうのも気が変わっていいだろ?」

「……少し驚いたがな。本当、上手いよ。」

「あんまりにも気が張り詰めるからな。何か、工夫してみた。」

「ユニークでいいと思うぞ。さて。起きるかな。」

「よかったら朝飯食うか?」

「ああ。またな。」

スバルは朝ご飯の支度に入った。

俺は身嗜みを整えて散歩に行きたいと言った。それで彼はハッとした。「そういえばなフリー。フフフ…。見つかったんだってよ!あの海の事件の犯人。」

何!?見つかった?!

「おう。あまりにも君がいつも冷静だったからつい話すのを忘れてしまったんだ。」

「俺の知ってる人か?」

「知ってるも何も……。」

スバルはフフフと笑う。


「あの子供だよ。ユウマ。」


思考が少し停止をした。


ユウマが?


小型刃物を念力で被害者の身体の中に送り込んだらしい。

殺害動機は何も分からないらしい。

彼とあの人にどんな関係があるのかも不明だそうだ。

今は犯罪人として児童養護施設から牢屋へ捕まっていると。

「前に俺が、工場での殺害をした犯人とこの海での事件の犯人は同じだって言ったのを覚えているか?外れてしまったが、それで視えた事もあるよな。誰かがフリーに干渉をしているんだ。」

「その推測は前に俺が出したんだ。」

「まあ聞け。こうやってあまりにもお前に対して近くで干渉をしているような感じって、案外にも近くに居るような気がしてはこないか?前のように念で何かをされたりなどでもしたら話は別だが。」

「確かに一理あるような気がするな…。」

案外近くに……

尾けられているとされる物は全て取っている。……


……

……………


視えたかもしれない。

この件の大元が。

俺は家に帰れる。


「なあスバル。君の言葉で分かったかもしれないんだ。」

「え?本当か。俺はただ感じたような気がした事を言っただけだぞ…」

「ああ。君の推理は正解かもしれない。俺はまだそれを分かっていなかった。」

「? あ、ああ?それなら、よかったな。俺は外れたんだけどさ……」

そう言った彼の表情はどこかが影に隠れていたが彼は正解をしていると思う。

このまま何もしなければまた事件は起こりそうだ。



この家の中に全ての事をした犯人がいるのだ



具体的に誰なのかも同時に目星が付いた。

スバルに頼んでこの寝室のある者を客用の部屋へと運んで貰った。取り敢えずはこれでいい。スバルにこの者が犯人である事を伝えたら少し目を丸くしていたが直ぐに平静に戻った。一言「……そうか」と言って少し何かを考え込んでいる。「まさか俺の屋敷がな。既に取られていたとは。」「いや君はよくやったよ。気にする事じゃない。」


俺とスバルで当人の身を調べる。服などを触ったら起きてしまいそうなので見た限りや触れられる限りをだ。

……探知機だ。小型のが入っていた。

これでまた俺達に何かを起こす種を植えるようにするつもりだったのだろうか

長い髪の毛を触れるだけ触ってみたが、何も無かった。これくらいか?

スバルが頭を抱いて頭裏などを調べる。「起きたらそれでいいからさ」と言う。


すると起きた。スバルの抱きが振動になったようだ。しかしそれが心地よかったのかまだ眠いと少し抱きつくように暮夜いた。

こういう所は如何にも女性という性別らしい。



マアサ。



スバルがマアサをそっと横に戻したら起き始めた。


「ふああ…。あれ?フリー君。スバル君。わたしはどうして。寝室で寝ていたのよ私は。」

「実はな、貴方が犯人だと分かったんだ。」

「私が?どうして私を犯人だと…?」

スバルは「先ずはこれな。」と言い乍ら探知機を見せる。「こんなものが…!何者かに入れられたのかしら…」と言うがそれは無い。それなら何者かが既に俺の近くで何かのトラブルを発生させている筈だ。

工場の事件が解決した後だ。次は何故か目に見えないような感じの事が発生したのは。あの青年も実は貴方と関係性があるのでは無いのか。「単なる偶然では?」と探知機を壊しながら言うが偶然なら本来発生していい筈の何事かが未だない。前に解決をした時は何事も綺麗に終わったような感じだったが今回は幾ら解決をしてもまだ油断が出来ないような感覚にあったのだ。それは彼女が裏で工作を仕組んでいたと考えても腑に落ちる。実はかなりの時間を疲れて寝ていたというのもあるが、そろそろ日が落ちつつある。スバルの「おはよう」が懐かしい感じだ。それなので既に物事が発生しているだろう筈だ。

「知らないわよ私は…」と言う。ならそのままでいい。とにかく悪事を辞めて欲しい。

「帰っていいか?」と言うとマアサは顔を強張らせた。無言だ。スバルは「これまでの調査も演技だったのか?」と少しだけ、悲しそうに言った。演技などとんでもないとマアサは言ったが署内で不自然な風に落ち着き払っていたりユウマの事件の調査ミスの連続で今回彼自身が犯行を犯していた事が判明をしてしまったり、工場の事件が解決した後も分かり切っていたように先に兄さんを署へ連れて行っていたり等をしていてとても自然な事とは思い難い。ユウマの事件に関しては「これは本当に調査ミスなのよ」と言う。加害者の名前を調べ切れなかったり離婚をしていたとは言え元夫婦だった事はユウマに聞けば分かるような事が無かったり、別の家を持っていたという足跡が分かりそうな事も未判明だったりして、ずっと疑問に思っていたのだ。

そもそも事件の説明の中に被害者女性の子供であるユウマの事が何も書かれていなかったというのも何か変な気がした

「私を、疑っているの…?」と言う。俺達は素直に頷いた。

青年とは無関係なのかもしれないが、何か密接に繋がっているような気がするんだ。

「私は本当に……」スバルは「本当に……何だ……?」と言う。俺とスバルは一旦、この部屋を出て行く事にした。マアサは一時この部屋で気を落ち着けて考えを出した後に来て欲しい。「何かまた言いたくなったら来てくれ。」とスバルは言う。食事は持って行くそうだ。部屋を出ると皆が部屋を出ていた。「あ!スバルさん!腹減って…!」と皆は言ったので直ぐに遅れた朝ご飯をスバルは一言謝ってから用意する。

昨夜懐石料理を食べた部屋で食べる。やっぱり美味い。そして件の説明を皆にした。

警察官達はかなり驚いていた。同時に落ち込んだり身を震わせたり無言になったりする者も居た。Tは無言で何も言わない。レイも何かを考え込んでいる様子だ。黒は顔中を体と同じ色の黒色にして全く顔も見えなくなった。

するとTが「じゃあ、調査を辞めるかな…。仕事に戻るかな。」と言った。しかし言い方に吃りがある。

「マアサにも持って行くかな。」とスバルが言い、立ち上がって部屋を出るとスバルが少し叫んだ。マアサが居たようだ。会話が聞こえる。

「あのね、スバル君。私は本当に何も知らないの。」「……それが、貴方の言う事か?」「ええ。そうよ。これが全てよ……」「その言葉が真実だったらどれだけ良いか」

廊下での会話が聞こえてくる。俺も会話に入っていいのだろうか。良しだと二人から言われた。少し遠くの廊下へ行く。

俺はマアサに問うた。

「マアサ。君がやったというこれだけの事があって事毎に矛盾もあったがそれでも自分は何もしていないと言うのか……?」

「ええ。そうよ。私は本当に何もしていないの。」

どうも何かに抵抗するような感じで言っているようだ。顔も青い。

俺とスバルはこの件については少し保留にしようとの事にした。マアサは何も答えられないのかもしれない。「誰かに命令をされているならそれを教えてくれ。」と言ってみる。「分からないの。」と答えた。分からない……?「少し、曖昧な返事だな…。何かおかしなことでもあるのか?」「記憶が、抜けているの……」

記憶が抜けている?

土竜のように意識を操作されているのだろうか?曖昧にも覚えていないようなのでそうであったとしても少なくとも今までのとは別物だ。

という事は、マアサの意識に干渉をしている何者かが居るという事だ。その者こそがそもそもの発端だろう。

が、一応今現時点ではマアサが犯人だ。自分が罪人となる事から逃れようとしているのかもしれない。が、表情は確かに身に覚えがない事を被せられているように見えた。


スバルは感知を微妙にしているみたいだ。


「なるほどな。それで今まで何か……」と彼が言う。あまりにも当たり前のように感知をしていたので特には疑わなかったらしい。よくある死後の成仏できない霊の類かと思って気にしていなかったそうだ。

スバルは顔をマアサの顔に近付けて手を出してその額に充てた。マアサは顔を赤らめた。

「………よく見えないな……」

彼はそれは自分の力が及ばなかったからでは無く、視えたのが不鮮明だったのだそうだ。

つまりそれが明確になればこの件は解決、だろう。道筋自体は掴めているので、いつでも行けばよさそうだ。これから夜でもよい。身支度をして出掛けよう。皆にもそれはどうやら聞こえていたみたいで今夜に行く事にした。それまで暫く休む。

時になり、外出をする。今回は家の中にはスバルの霊体の使用人が残る。警官達は仕事、Tも仕事は一時的に戻りたいそうだ。出掛けるのは俺とスバルとマアサとレイだ。青年はこの家の使用人にさえも干渉をしていたがその根源もそもそもを行けばスバルが視た者なのだろうか?

歩速を合わせて向かおうとすると突然頭の中に声が響いた。


-気を付けて来てね。-


スバルはそれを察知したようだ。ピクリと体が動いていた。

皆には何も無かったようだ。「どうした?」と詰められる。「いいや。何でもない……行こう……。」と俺が言うとスバルは真顔で納得をしたような顔をした。

行き先は少し遠めで中部まで行くらしい。

空を使った乗り物はやはり何者かからの干渉があるかも分からないので使えない。

バス等で行くのだ。交通機関を利用して街並みから自然へ入り、暫くするとスバルが何かを感知しているようだ。眉間に皺を寄せている。自然地帯を抜け、少し街並みに出てもう暫くすると街は多くなった。スバルはこの中部の県の街にその者が居るのだと言う。そしてある何個か進んだ駅で降りる事になった。来た事の無いこの街並みをスバルの感知で行く。簡素な街並みへ着き、ある一軒家で止まる。「ここだ」とスバルは言い、呼び出しを押す。すると扉が開いたが誰も出ていない。

取り敢えずは中に入ろうとスバルは言う。中はこの夜だが明かりはほんのりと照らすように付いている。すると扉が閉まった。こうしてみると広めの家だ。あちこちに飾りや自作の機械のようなものやゲーム機や香水もある。スバルが「こんにちは。少しお話がしたくてお邪魔をさせて頂きます。どなたさんかいらっしゃいませんか?」と声を少し上げて言う。すると「はーい!」という返事と共に誰かがこちらに向かってくる音がした。

するとユウマだった。

何故だ?

彼は今刑務所の中の筈だ

聞くと彼は犯行を行ったのは被害者がユウマの好きな恋人であるマアサを奪ったからだという。

余りにも説明が足りなさ過ぎる。

これはユウマでは無いようだ。よく作られた偽物だろうか。


……偽物……?


マアサは「私が貴方の恋人って……なった覚えはないけどねえ…。あの海の事件の被害者のことも私には知らない人よ。……誰かと勘違いをしているのではないかしら……」

するとユウマは「ごめんなさい!」と言って何処かへ行った。

スバルは「気を付けろ。この家からは妙なものが悶々とするんだ。何が居るかも分からない。広い家だから気を付けて行こう。いずれマアサの意識に干渉をしている本人に会える筈だ。」と注意を促す。レイは「その時は俺がやってやる。」と意気込む。「頼む。」とスバル。力の強いレイが居る事でかなり安心できるような気がする。家の奥に入る扉があったので開けると家の入り口に来た。


どうなっているんだ?

この家はスバルの九州の家に訪れた時のような絡繰屋敷と同じような感じだ。スバルは少し考え込む。「俺以外にこんな事が出来る人間がいるのか……」と暮夜く。一回、家の中を外に出てみようと玄関出入り口から出てみた。

すると別の部屋に出た。

マアサが頭を抱え込んだ。「痛いの。痛いの…。」「見せろ。」とスバルはマアサの頭に手を付け静かにしている。「……干渉されようとしているな。以前にもこのような事は無かったか?」マアサは頷いた。声は出せないようだ。「これは、何者だ……?」スバルが何かを感じ取っているようだ。「チッ!強いぞこいつ」舌打ちをした。「おいお前達。この家の人間では無い者がこの家に来ているみたいなんだが、それは強い。マアサに体当たり的な事をしようとしているみたいなんだ。心して掛かれるか?」

俺とレイは「勿論だ」と言った。すると部屋の外。窓の向こうから何者かがこちらに向かって来ているのを確認した。……飛空をしている。そして部屋の窓をすり抜けて入って来た。少し壁にぶつかって「ヘブッ」と言った。


その者はあの青年だった。


「って〜!マアサの頭はどこだ…?って君、フリーじゃないか。あ、そこにマアサが居たな。おい少年。君はスバルだな。その女性をそのままで動くなよ。」

青年はマアサの肩に被りつこうとしているのを見えたその瞬間、スバルは青年の顔を避けた。

「断る。貴方は確か、あの廃工場の上で人の形をした念物を作っていた者だな。」

「そうだよ。君は察知力が高いから、ちょっとだけしか干渉出来なかったよなあ。」

「フリーの事が何故か避けずにはいられなかった件だな。」

「そのとうり。楽しませて貰ったがな。」

「あれをちょっとだけ、と言うのだものな。フリーの何処までも心無しな性格に手こずったか?」

「いや楽しませて貰ったよ。」

「今はマアサか。させないぜ。お前達、この者を抑えるんだ」

スバルが言い終わる前に俺はマアサの頭を守っていた。レイは宙から鋭利な刃物を出し青年の首元に軽く追いやった。

「そうやって熱くなるなよ…。俺はマアサに干渉をしてあの警察署の警官達の一人を試したいだけなんだよ。何やら、カードが上手い者が居るだろう?俺はその者を知りたいんだよ。周りの警官達を操ってその奥義がどのような心理になっているのかが知りたい。何ならその魂を舐め回してみても美味そうだし…。カードゲームが上手い人間は大抵イカサマが得意なんだぜ」



この青年は強いだけか?


「マアサの意識を操って、殺人等をするつもりは」

「無いよ。そういうのは自然に魂が湧いて出るんだ。それを取るのが俺の仕事だ。」


どうやらこの青年は、知的好奇心が旺盛なだけなのかもしれない


それにしてもマアサへ体当たりをする理由は「この子が標だったから何と無く」だった。余りにも意味の無いのを会話の中で何となく察した為、俺もレイも青年から武器を引いていた。


しかしマアサの意識干渉をしている本人と会う為にここに来ている中でまたマアサの意識に干渉をしようと企む者が来るとは偶然か?


そういえばこの青年は俺がスバルの家に戻ると言ったその時に顔色を悪くしで焦ったように何処かへ行った。それを問うてみたかった。今の場と違った話にはなってしまうのだろうが、何となく知りたかった。皆に少し謝って問うた。

すると「き、君。幾ら何でもそれは行形過ぎてちょっと……」と言われた。

「まあでも、君には少しだけならいいかな。心身共に強そうだし。……


……王様だよ。」


王様?

それは何だろうか。

真っ先に思い付くのが我が国の王なのだが


「おっと。これ以上喋ったらいけない。ここまでだ。俺はマアサに干渉をするのを辞めるよ。混み入ってそうだし。またな。」

「その前に少し聞きたい。貴方も誰かに操られているのでは無いか?」

「無いよ。そういう所からは離れてる。ただ、この家は何やらそういうものが有りそうだから注意するんだな。」


この青年は、信頼をしてもよさそうな気がした。最後に名前を聞いて去って行った。この家の干渉主は結構強いらしい。「俺は今はそこまで手伝ってやる気にはなれなくて悪いが、家にまで来たから更にマアサに干渉しようとか多分そこまで性の根の汚い者では無いんだと思うぞ。」とも教えてくれた。マアサが頭を痛めたのは彼の仕業。「この家の絡繰は遊びでやってるかもしれないが」とも。

そして彼の名は「マダラ」と言う。

すると部屋の中に何者か……ユウマが入って来た。

「こんばんは。お客さんだよね。お兄さん達。僕ね、絵本を持って来たの。良かったら、読んで?」

ユウマの姿をした何者かはそう言った。このような時に絵本を読ませる発言をさせる者など、この家の主だろうかは何を考えているのだろう。そしてこの少年は確実に関わってはいけないと思う。

「なあユウマ。俺達さ、急いでるんだよな。それを読んだら何かをしてくれるか?」とスバルは言う。「うん。香水をあげる。」「香水は特に要らないんだよな。読んでやってもいいからこの家の人の会いたいんだ。」「この家の……って」

その瞬間、ユウマの首が取れた。首から簡素な作りの骨組みのようなものも見える。そして首と体はスウッと消えて行った。

今のはユウマの体をした何者かがこの家の、恐らく主人と思われる者の名前を言いかけたので消されたのだ。そしてその者は恐らく俺達の記憶を元に何かの塊を作る事が出来る。この家は恐らく絡繰を潜り抜けなければこの家の者に会えないのだろう。まさか俺達が辿り着けないようにする為に絡繰を組み直し続けるような事は無いだろう。

そのような人柄では無いと察した。


この部屋を出てみる

廊下だ。壁に拳銃やマスクや見たことの無いジュース瓶などがある。物騒なものまである。この家の主は何者なのだろうか。


またある部屋の扉を見つけた。

入ってみると、綺麗な海の見える部屋だった。

おかしい。この家は海とは密接をしていなかった。窓をもう少しよく見てみる。開けてみる。すると簡素な街並みに変わった。この窓は景色を変える物だったか。一瞬本当に海だと見えたのは主の見せた幻覚だったのだろうか。窓を閉じても風景は外の街並みだ。

この部屋には何か仕掛けが無いかと見回る。が、特にそのようなものは見当たらなかった。レイが「何だあれ?」と天上を見上げて言っていたので見てみると何かある。

いいや、何かが浮き出てきているみたいだ。文字だ。それはやがて「この部屋を出て、右、右、手を上に」と現した。


このとうりに行ってみるべきか?


しかしこの家を闇雲に探索をしても疲弊をするばかりだと思う。

俺達はこの文字のとうりに行く事にした。

この部屋を出て右の廊下を進み、更に廊下が分かれていたので右に進んだ。

すると何やら椅子やら机などがあるスペースのような場所に着いた。ここで、手を上に……


………


すると上に部屋があるのを発見した。

壁横にスイッチがあったのでそれを押してみるとその上から台が降りてきた。皆で乗り、少ししたら上へ上った。

小部屋の中はキッチンだった。

調理をする部屋の為か、少し明るめにライトが付いている。

様々な調理器具がある。少し向こうの鍋のような物が気になった。開けてみると


赤くて生臭い液体が煮えていた。熱は消えているがまだ暖かい。


まさかこれは、血か?


レイが見に来て「これってまさか最近社会裏で開発されているザクロじゃないか…!凄まじい臭いだな…」

ザクロ。そのようなものがあるとは。

このように真っ赤な赤色をしており、このような臭いを発するらしい。

政治界の裏ではこの果実の研究が盛んに行われていると聞いた事がある。何でも、摂取をする事で一週間程何を食べても痩せて行くのだとか。余りにも危険なので表社会では販売や保持する事を禁止としていた筈だ。


このようなものを保持している主とは一体……


中を掬ってみると何かあるようだ

鍵だ。

昔に使われていた手で持ち、開け閉めが施されていた手摺かその下に差し込み少し傾けると扉が開くというものだ。

これで、何処かの扉を開けという事か…?

キッチンの向こうに更に扉がある。行こうとするとマアサが吃った。「ねえフリーくん。あのザクロ、私少し食べてもいいかなあ…?」「……貴方は肥えていない。大丈夫だ。」「そ、そう?」この先待ち受ける事に気を引き締めた方がいい。扉を開けて出ると更に廊下がある。進むと更に部屋への扉があった。その部屋は鍵穴があった。先程見つけた鍵を差し込み回すと開いた。

中に入ると外に出た。

いいや、外では無い。外に似せかけた風景映像だ。主の干渉かと思いたくなるほどよく出来ている。周りを見渡す限り、自然だ。それ以外には……何処を見ても自然だ…。すると床が動き出した。どうも横に動いているようだ。暫く動き止まる。すると壁横がスライドをして扉が現れた。開ける。


水が降っている。雨のように。

この水は危険かもしれない。

マアサが懐から何かを取り出し、部屋の中に軽く投げ込んだ。

紙のようだ。「LOVE YOU MAASA」と書かれてある。それが溶けて行き、原型を留めなくなった。


これは酸性だ


入るのは危険過ぎる

手段が浮かばなく、後ろへ引き返すと壁だった。何処を見渡しても元の部屋へ引き返すようなスイッチも無い。完全に道は塞がれている。行くしか無い、のか……?


しかしそれ以外に行き道は無い


これまでの主観から主の性格を考えるにはそこまで残虐な人間では無いと思うのだが…


取り敢えず俺が一人で行ってみる事にした。

皆からは止められたが、これ以外では立ち止まるしか無い。それでは何も進まない。何か手掛かりがあったら教える。成る可く溶ける前に戻る。

そう伝えて中に入る。

体感としてはただの雨だ。が、少し痛んでくる。

……部屋はどうも、少し広めの四方の部屋のようだ。暗闇なのでよく見えない。何か手掛かりは無いか……?

見回すと扉があった。そこに近付き入ろうとした。それは鉄製のドアノブという物だった。これは捻って開ける。直感で何かしらの反応が仕掛けられているような気がする。しかし物怖じをしていられない。捻ろうとノブを掴んだ瞬間、身体に鋭い痛みが走る。強力な静電気だ。思わず手を引きそうになる。が、ここで引いている暇は無い。

捻って開けた。


鍵が掛けられていなかった。

主はやはり人の命を弄ぶような人間性では無いという事だ


中に入ると普通に家の廊下だ。

身体中が痛むので気を振り絞る。すると多少は痛みが引いた。廊下の先は一本道だが遠くて先が見えない。


おかしい。外から見た時はこれまでも広くは無くて一軒家だった。この家はどうも主の力で建っているようだ。足を早めて行くと窓から外を眺められたのだが、地表がかなり下にあった。ここは地上からどれだけ離れたのだろう。それともこれも主の力で見せている幻想だとしたら、これは相当悪質だ。内を掻き乱してくる。

俺はあまり問題は無いが人からしたら洒落だと赦されない程の事をしている。

進む程廊下が広がってきた。そしてやがてはホール状になった。見渡すと丸状で道具棚や絵画や椅子や物置箱など色々ある。棚の物置場に光るものを発見した。見に行くとパネルが付いている。触れると反応だったらしく上から床が降りてきた。乗ってみると上がった。着くと斜め上に道が登られていた。その先に扉があり「The Last Loom」とあった。ここが最後の……?


この家の主だろうか。意を決して開けてみる


すると何者かが居た。


あの取り憑かれた警官だ。


部屋の中は少し広めのホールだった。この者以外に特に何も無く、彼がただ一人で立っている。


この者がこの家の主なのだろうか?


「こんにちは。フリーさん。今はすっかりお昼ですよ。実は……僕がこの家の者なのです。数々の悪事を申し訳ございませんでした。僕は最近物作りに凝っていて…」

「物作り?それでこのように絡繰を仕掛けたり、人型の動く者を創造したり、酸性の水を雨のように流したり、ここまで家に仕掛けを凝るとは…」

「昔からの趣味でやっていたんだ。この家を手に入れた時に自分の暮らしを楽しくしようとしたんだ。今回はフリーさん達がここに来るのを分かっていたから予め飛空で回って待っていたんだ。ごめんな。変な事して…」

「少し生命の危機を感じたがな」

「フリーさん達ならやれるかなと思って…」

「頭を少し冷やすといい。俺は問題にはならない場合が多いが皆は命の危機に瀕していた。彼らにとっては洒落にならない。」

「ごめんなさい…。」

「…何かの恨みが俺達にあるか?」

「ううん。君達はよくやる有能な子達だよ。スバルさんは待遇もご飯も美味しかったし。」

「俺が鬱陶しくなったか?俺に誰かが尾けているのが原因で始まった事だ。元の仕事や私生活に戻りたくても出来なかった等で俺が鬱陶しくなったのではないか?」

「ううん。そうじゃない。単に、趣味だよ。人からしたらこういう家は歩けない。が、君達ならやれるんじゃないかと思って…」

「……今度は俺一人だけでいい。」

「うん。スバルさん達にも来て貰ったのは一度試してみたかったからだよ。彼らも賢いからね。」

「俺にはまだ油断出来ない何かがあるというのに」

「それなら大丈夫だよ。僕がその犯人だから。」

「そう言うと思っていた。」


この者は確実にあの警官では無い。

よく似せた偽物だ。ユウマのように。

会話で分かる。


「この家の主は貴方か?」

「うん。そうだよ。君をそもそも家から出られないように幾つもの事柄を起こさせていたのは僕。」

「ユウマは何故殺人を犯したのか?」

「僕の念だよ。被害者は元々僕達の仕事仲間だったんだけどね…。不祥事ばかりするから出て行かせたら恨みを持たれて署に悪戯ばかりするからユウマ君を使って殺害をしたよ。」

「それが本当なら貴方は殺人犯だし、貴方にそのような事が出来るとは今までの貴方を見てきた限りの推測からすると無理だと思う。」

「だが本当の事だよ?」

「それなら今から言う質問に答えてくれ。貴方はマダラという生命を狩る者を知っているか?」

「…?……? ……」

「やはりか。彼は力のある者にしか近付かないようだ。自分より上の者にも近付かないようだが、このような手の込んだ事をこのような事にし、多少の時間を用する貴方にはそのような者には見えないのだ。」

「それが、どうしたの?」

「彼を知らない時点で貴方はマアサの務める署の人間では無い。」

「僕は力が無いから知らないなあ。」

「そのようなものでは無いぞ。」

「? ?」

「貴方は本当は知っているのではないか?」

「いいや、知らないよ。あんな人。」


「あんな人?」


素が出たようだ。

この者はあの警官では無い。


「しまった…」

「この家の主は何処に居る?」

「……ちょっと待ってて」


すると警官は何かを考え込んだ。

身体から色が消えて白色になり、蝋状になり溶けていった。そして部屋には俺一人だけになった……。やはりこの者も作り物だったのだ。俺達の意識や記憶を基に作られた物だったのだ。

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