5-9 扇子
「これ、報告書ォ」
シャルルがアルヴィスに投げた一枚に書かれた文字は
『理解不能』
「ふざけているのか」
国王として、12騎士1位として、その言葉は許せなかった。全てを統べる者のハズが、たったひとりの弟すら御せぬこの状況はアルヴィスのプライドを逆なでしている。
「だってェ〜分からないものは分からない、そうでしょうゥ、それともお気に入りの“神”に聞いたらどうゥ〜。今は“賢者タイム”でしたわねェ〜」
シャルルは黒の扇子を閉じたり、開いたりしながら、ワザと音を立てていた。規則正しい音は、時計の秒針を思い出す。
彼の扇子が一瞬止まり、その僅かな間だけ本気の愉悦が瞳に宿った。
あれからディオニシウスシステムは沈黙を続けていた。
「復旧は7割進んでいる」
アルヴィスは苦虫を噛み潰したような顔をして、報告書をちぎり始めた。
「国のシステムは復旧しているわねェ〜。電気、水道、ガス、交通網、そしてこの国の意識決定ィ。人間が作った新しい“神”は人の手で復旧されるゥ〜。それはもはや神と言えるゥ〜?」
シャルルは口元を扇子で隠しながら、笑いが止まらなかった。自分を虐げてきた存在を徐々にいたぶる。苦しみが長引かせることができるように。
「……忌々しい。他の騎士たちの情報は」
アルヴィスは踵を上げ下げしながら、苛立ちを隠さなかった。
「ここにあるわよゥ〜」
彼はワザと高い位置から手を離すと、1枚にまとめられた、現状が分かりやすく書いてあった。
【2位 カイエン・クローム 外傷なし。セリスを斬ったことの罪悪感に悩まされている。
3位 アレクサンドル・カーディナル。魔力侵食症候群により、一時危険域に達するが、回復。現在、シュテルン側で療養中
4位 セリス・フォン・リンデンバウム。両腕の再建成功。現在、第一病院に入院中。未だ意識回復せず。
…】
「レインも魔力使いすぎてダウン、ヴィーチェはディオニシウスの復旧に駆り出され、まともに動けるのは、下位ナンバーの者だけよゥ〜」
シャルルは扇子をたたむと、アルヴィスに向け、挑発するように小さく動かす。その様は餌に飛びつく魚を誘う行動のように見えた。
「12騎士の戦力は半分。この状況、どう切り抜けますゥ〜?」
彼の目は三日月のように細くなる。
「お前らが戦えばよいではないか」
アルヴィスのその答えを待っていたかのように、彼は高笑いをしてトドメを刺しに来た。
「自分の手は決して汚さない。ワタクシたちの手は血塗れにする。さあ、罪人はどちら?」
その言葉は一度も戦闘に選ばれた事のないアルヴィスの怒りを買った。
「ワタクシ、本当の事を言っただけェ〜。こんな些細な事で恫喝なんて、陳腐なことなさらないわよね。オーギュスト(権威者)の名が泣いてしまいますわァ〜。それでは報告終わりィ〜」
ようやくシャルルの扇の音が止まり、辺りの沈黙が耳に痛い。彼の音は実の兄の罪の執行の時を刻んでいた。
「行いの報いは必ずくる」
意味ありげな笑みを浮かべると、妖艶な香りだけを残して、シャルルは漆黒の魔法陣を描く。そこから生えてきたいばらのツルに包まれると何処かへ消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます