第二章 憧れとコンプレックス
シューティングガード 視点――篠宮美緖
「リユ!」
「リユ」と呼ばれた
理想的なゴールをイメージし、全身を後ろへと弾ませ振り放ったボールは私の手を離れ弧を描いてゴールリング中央に向かってゆく。シュートブロックも届かない、高くあがったスリーポイントシュートは。
サク――とした耳に心地の良い音と共にゴールリングに触れる事もなく正確にゴールへと吸いこまれていった。
思い描いたとおりの理想的なスリーポイントシュートが決まったんだ。私は気づいたら小さく拳を握っていた。
ピーと耳に響く
「最後のスリーポイントバッチリだったじゃんかよリユ!」
六海ちゃんが私をコートネームで呼びながら片手を挙げて近づいてくる。
「ありがとシン!」
私もコートネームで六海ちゃんを呼びながらハイタッチを返す。お互いに白い歯を見せながら笑い合っていると凛ちゃんも両手をあげて走り込んできた。
「こっちもこっちもう」
「OKナイスパスだったなラブ!」
「うん、最高だったよラブ!」
私と六海ちゃんは両手に強くハイタッチをすると凛ちゃんは「イタイよぅ」て両手を振りながら笑うので私と六海ちゃんもつられて笑っていると
「おまえら終わりの挨拶集合だろう! 一年にも示しつかねえぞッ!」
山中先輩の怒声が響いてきて私達は「すみません!」と慌て、みんなが集合している江口主将の元へと走った。
✼✼✼
「おつかれリユ」
朝練の片付けが終わろうとする頃に
「スリーポイントの精度が上がってきてるな。
「ありがとうございますッ」
江口主将の冗談を交えた高評価に私は思い切り頭を下げる。下げた頭に江口主将はポンと頭を叩き「下げすぎなんだよアハハ」とオーバーな笑い声が返ってくる。
私は叩かれた頭を擦りながら顔を上げると見上げる
「
「いんや、汗くらいのもんだよ。てか、そんなニコニコかな私の顔。こいつは自慢のポーカーフェイスなつもりなんだがな」
私の冗談に江口主将は肩を竦めて表情豊かな笑みを魅せ、すぐに少しだけ真面目な表情になった。私の背筋も自然と伸びる。
「リユ、あんたのその身長は文字通りの長所だ。
期待の言葉に緊張と嬉しさが同居する不思議な気持ちが胸の中心を熱くさせてくる。本来はいまいる私のポジション
「リユ、あんた最近いい事あった?」
江口主将は潤んでいる眼を見られるのを隠しているのを理解しているのか、急に話を変えてきたので私は顔を戻して首を傾げた。いい事て何だろうか?
「いやさ、最近のあんたは随分とリラックスしてシュート打ててると思ってね、シュートてやつは心の現状が出やすいてのが私の持論だけど、あんたはいま凄い充実してるんじゃないかなってね。無粋だけど、カレシでもできたかなって予想すんだけど」
「か、カレシなんてもんはいませんよッ」
ちょっとヒソヒソな耳打ちジェスチャーで尋ねてくる主将に私は慌てて首を振って否定する。それに対して江口主将はニンマリとした笑顔を見せるのでこれは絶対に勘違いをしているんだろうな。一応の訂正をしなければと言葉を返す。
「その、友達ならひとり増えましたけど」
「なるほど、その友達が今の絶好調リユを作り出したてことか?」
「それは――」
――違うとも言い切れない、実際のとこ滋瑠ちゃんとの誤解も解けて友達になれた頃からバスケの調子はいいように感じる。よくわからないけど心が軽くなったような感じがするのは間違いないんじゃないかな。
「ま、カレシだろうと友達だろうとリユにいい影響を与えてくれるならいいさ。バスケットボールは
まだ若干、誤解しているなと思うけど、いい話もしてくれているので耳を素直に傾ける。私と同じくらいの歳て一個違いで言われるのも何だか不思議な感じだけど、そういえばこのコートネームを江口主将が付けてくれたのも去年の今頃だったような。確かあの時は私の
「あの、いい影響のお友達って、サッカー部の
「――おまえいきなりそうゆう事を言うんじゃないよッ」
急に照れ始めた江口主将を見て図星だなと理解した。そういえば流先輩の渾名は「リュウ」だと西尾先輩が言ってたな。なるほど、私のコートネームてもうひとつ理由あったんだな。「リユ」だけに、なんちゃってね。
「んじゃ、話はココまでだ元気に頑張んなッ」
ここから色々とカレシとの事を掘られると感じたのだろう。江口主将は真っ赤な顔のまま話を切り上げて私の元から去っていった。
(小さくても大きな背中てのが江口主将を表す私のイメージだけど、今は可愛い背中も追加しようかな?)
早足な江口主将の背を見つめながら私はひとり頷いていた。
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