ファミレスの姉と妹 視点――篠宮美緖
「ねぇ、ヨシちゃんは何にするんか決まったのう?」
「んー、まだ。ヒデは決まったん?」
メニュー表とにらめっこしていた私に、同じくメニュー表とにらめっこ中のヒデが気怠げに何にしたのかを聞いてくる。
「ねぇ~、
「宅配ピザは高くつくからママに貰った夕飯代じゃ足りないて言ったじゃない。ジョイの方が近いし予算内に抑えられるの。ほら、チーズたっぷりベーコンピザあるからコレでも食べれば?」
「ピザハットのアスパラベーコーンが食べたかったの〜。お小遣い出し合えばよかったんじゃあぁん」
「ヒデさぁ、そう言うけどあんた今月のお小遣いあんの?」
「いやぁ、生活してたら何故か消えてくもんだよねぇお小遣いちゃんたらさぁ。マジふっしぎっだなぁ〜」
「実家暮らしの中学生が生活を語るなって言おうか?」
「今どきのJCにだって色々あるもんじゃあん。それ言ったらヨシちゃんだって実家暮らしJKでしょう? 一緒に親のすねをかじるネズミちゃんですねぇチュ〜チュ〜」
メニュー表に食べたいのが無いと諦めたのか行儀悪くテーブルに顎を乗せてヒデは屁理屈を捏ねながらおふざけに見上げてくる。これが我が妹の姿かとメニュー表の角で頭を小突いてやると「痛いな暴力お姉ちゃんめ〜」と言いながら身体を気怠そうに持ち上げる。
「とりあえず、頼まないと今日の夕ご飯は無いよ」
「ん~~、だったらヨシちゃんオススメのベーコンピザで妥協しようかなぁ……あ、これならわらび餅か珈琲ゼリーのデザートどっちか頼めるくない?」
ようやくメニューを決めてくれそうなヒデに溜め息をひとつ吐きながら、私も早く決めないととメニュー表とにらめっこ再開。
今夜はお父さんとお母さんの帰りが遅いので、妹の
「てかさぁ〜、ヨシちゃんファミレスとは言ってもジャージは無くない。このヒデヨちゃんと一緒にご飯なんだからもうちょっとオシャレしてよぅ〜。こっちはバッチリとコーデキメてんのにぃ〜」
ササッとメニューを決めたのかメニュー表を閉じていきなり姉の服装にクレームを付けてくる。本人は確かにバッチリとオシャレっぽい服を着てるが、正直オシャレ方面には無沈着な私にはヒデのこの肩に穴の開いた白トレーナーの良さがよくわからない。K-POPアイドル系のどうたららしいけど。てか、私のジャージだって学校指定とは違うちゃんとしたやつなんですけど。ヒマラヤで買った優れものなんだよこのジャージ。なんたってアディダスなんだから。
「てか、家族とご飯食べに来るのにオシャレする必要は無いの」
「いやそれは人の目てもんが有るくなあい? せっかくヨシちゃんヒデより身長高いのにさぁ少しはオシャレに気づかった方がいいと思うんだぁ〜。磨けば光りすぎて眩しくなっちゃうよぅ」
「私にはバスケットボールがあるからオシャレはいいの。磨くんならバスケットコートをモップ掛けする方がいい」
「もう〜、すぐそうゆうこと言うしいぃ〜、今日は何かヒデの扱いが雑じゃ〜ん。それはそれで寂しい之助なんですけどぅ〜」
ヒデはブーとリップをひいた唇を子どもっぽく尖らせながら『扱いが雑』だと言う。本人は何の気なしに言った感じで、特に気にはしてないっぽいが、私は『扱いが雑』という言葉にちょっと反省をする。今日のお昼に石川さんの気に障る事を言ってしまって嫌われてしまった事のショックを知らず知らずに妹にブツケてしまっているのかも知れない。自分が悪いのにこれはいけない事だと、私はメニュー表をパタリと閉じて、自分とよく似たヒデの丸い瞳を見つめて笑う。
「よーし、私は期間限定のクリームシチューうどんセット定食に決めた」
「んえぇ〜、クリームシチューにうどんて大丈夫なんそれぇ〜、しかもセット定食てご飯に味噌汁じゃん、炭水化物と汁物の暴力すぎじゃない。スポーツウーマンにはあるまじき小悪魔な組み合わせじゃないのゥ〜」
「美味しいものの組み合わせに悪いもんは無いの。ドリンクバーも付いてるからお得なのも強いッ。ほら、呼び出しボタン押すよ呼び出しボタン」
「あ〜それはヒデが押すんだってぇ〜」
少しはいつもの調子を取り戻したのが分かったのかボタンを押そうとする私の指からボタン押しの権利を慌てて奪って、ヒデは呼び出しボタンを押した。どんなにオシャレ好きな中学生になってもここは絶対に小さい頃から譲れないのは変わらなくて何だかおかしくて笑ってしまいそうになる。
「んじゃ、ドリンクバー取ってくるよ。何がいい?」
ドリンクバーを取りに行こうと席を立ちながらヒデに何がいいかを聞く。ヒデは、丸い瞳を更にまん丸とさせて、首を傾げる。
「え〜、ヨシちゃんの飲むドリンクバーをヒデに聞くって意味わからんのですけど?」
「私のドリンクバーは譲るって意味、よく考えると私はそれほどドリンクバーが欲しいわけでは無かったから飲んでくれると助かるの」
本当はヒデにちょっと冷たくしちゃった事への反省の意味も込めてなんだけどね。ヒデには内緒。
「ふぅ~ん?」
ヒデは何か意味ありげに眼を半分にするけど、すぐに顔をイタズラっぽく笑わせながら片手をあげた。
「それじゃ、ヨシちゃんの手腕に任せたロシアンジュースを一杯」
「あんたそれ好きだよねぇ、あれ色合いが地獄になってあんまり美味しそうじゃないんだけど」
「そこがいいんじゃあぁん?」
ヒデの言うロシアンジュースとはドリンクバーの飲み物をちょっとずつ混ぜてゆくミックスジュースだ。誰しもはやった事はあるだろうけど、ヒデのは度が過ぎている。今のところドリンクバーだけでしかやらないからいいけどね。ま、今回はご所望どおりに作りに行きますか。
「言っとくけど、ゲテモノは作らないからね私は」
✼✼✼
(さてと、とりあえず無難にレモンコーラとメロンソーダを混ぜてみるかなぁ)
私はコップを片手にドリンクバーのマシンとにらめっこしながら、ヒデの好みそうなロシアンジュースとやらのプランを考える。最初は基本となる味を多めにしといた方がいいよねぇ。
「の……さん」
う~む、これって烏龍茶とかも混ぜんのかなぁ、流石にそれは飲み物の冒涜になりそうな……。
「……あの、しの……さん」
「ん?」
私があれこれとジュースプランを考えていると、気のせいか近くで誰かに呼ばれてるような気がしてチラリと横を見ると。
(えッ!?)
「こ、んばんは……」
そこには私と同じようにコップを片手に持った石川さんが立っていた。
私は突然の遭遇に驚いちゃって、声も出なくて空気をゴクリと丸呑みしてしまった。
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