二年A組教室の窓際で 視点――篠山 美緖

 高校二年のクラス分けというものは進路によって決められるのが一般的である。私立飛竜部学園しりつひりゅうべがくえん高等部も御多分に漏れずクラスごとに分けられています。他の高校がどんな分けかたか分からないけど、飛竜部学園高等部ではA組が『普通科一類』B組が『普通科二類』C組が『工業科』となっている。


 私「篠宮美緖しのみやよしお」は普通科二類のB組。一応、進学も視野に入るけれど、半数は就職組が集まっている所謂、就職クラス。工業科のC組は言わんとしなくても工業系の進学や就職進路を目指すクラス。意外なんだけど、凛ちゃん佐々木凛はC組なんだよね、あのユッタリとした表情で作業着を着て鉄板とか切ったりお面被って電気バリバリ火花バンバン飛ばしてるのが全く想像でき無いよ「取りたい資格は危険物乙種第四類きけんぶつおつしゅだいよんるいなんだけど、試験は東京都でやるんだよねぇ」なんてフワフワとした声で言ってたけど、私にとってはナンノコッチャな呪文ですよ。どんな事ができる資格なのかも分かんないよ。

 と、話は逸れたけど六海ちゃんストーンむつみのクラスであるA組普通科一類が進学に向けた進路が固まった子達が集中しているクラス。つまりはすんごい頭のいい子達が集まっているて事だね。つまりは、六海ちゃんは凄く勉強ができるんだよ! 毎回、テスト期間中はお世話になってま――とと、またまた話が逸れちゃいそうだから本題に戻るんですけど、私はいま、昼休み中のA組教室の前に立っています。


 目的は、六海ちゃんが同じクラスだと言っていた「あの子」に会うためなのだ。




「お、Heyらっしゃい」


 教室の前で私が挙動不審にキョロキョロしているのが目についたのか六海ちゃんが寿司屋の大将さんよろしくなHeyが特に印象に残る挨拶でお出迎えしてくれた。相変わらずビシッとスラックスズボンの制服姿が様になるんだよなぁ六海ちゃんは、たぶん飛竜部の女子で一番カッコよくスラックスを履きこなしてるのは六海ちゃんだと思う。背も180Cmもあって完璧で――いやいや、六海ちゃんの話にも逸れて行っちゃったら収集つきませんから心のお口はチャックッ。現実のお口を動かして本題に入りますよ。


「そ、それであの子は?」

「あぁ、いるよ。ほらあそこ、端っこの窓際席に座ってる子がそう。たぶん間違いないと思うよ」


 六海ちゃんが目線を向けて教えてくれた先にいたのは葡萄酒色ワインレッドの上着を椅子に掛けて窓から空を眺めているっぽい小柄なマニッシュヘアの女子。顔は見えないけど、あの子で間違いは無さそうです。教えてくれてありがとね六海ちゃん。


「そ、それじゃ、行ってきますッ」

「はい、いってらっ。なんやかんやヤバそうになったら助け舟を漕いで向かっちゃうよ。ストーンレスキューサービスにおまかせあれってね」


 六海ちゃんなら舟をサーフィンさせながらやってきそうだけど、なるべくそのS・R・SStone・Rescue・Serviceに頼らないようにひとりで頑張ってみますッ。


 よし、行け美緖よしお、一歩二歩三歩――ど、どんどん近づいてきたら緊張してきたなぁ。いやいや日和らない。はい、声を掛けて声を――


「――……ぇ?」


 と思ってたらこっち振り向いてきちゃった。なんか真顔で前髪で隠してるけど視線がめっちゃ見上げてきてるッ。いや落ち着いて落ち着いて、別に気づかれないように近づくつもりじゃあなかったんだから、このまま自然に、ナチュラルに声を掛けて、はいっ。


「あなた『石川いしかわさん』だよね?」

「???……?」


 めっちゃ「何いってんのこの人?」て感じに微動だにしないんですけど。あれえぇっ、石川さんで間違いなかったよね? 六海ちゃん言ってたもんねッ!?


「ん……石川」


 あ、短いけど応えてくれたのかな。これは石川さんて肯定してくれてるて事でオーケー?


「石川で……いい」


 よし、肯定ッ。石川さんで間違っていないっ。えと、次の会話の糸口は――。


「……なんで?」

「ぇ?」

「用事……?」


 幼児?……いや、用事か。私に用事ですか? て、ことだよね。そうです私があなたにご用事です。よし、せっかく掴ませて貰った会話の糸口、無駄にはしないんだからっ。


「私、B組の篠宮美緖しのみやよしおです」


 よし、軽く自己紹介からもっと会話を広げてけ美緖。素直に言葉を伝えていくんだ。そうさ百%の勇気が勝利の鍵なんだからッ。


「私、あなたに興味があるのだよん」

「……ㇵ?」


 ん……――あれ……いま、私はなにを口走った? 明らかに石川さんが困惑な顔してるのが表情が見えなくてもわかるんですけど。ん、噛んだトチった、失敗しちゃった!?


「その私、名前が美緖よしおていうのッ」

「……知ってる」


 うん、そりゃそうだよ私さっき自己紹介したじゃん知ってるよそりゃ。し、仕切り直すんだ美緖ワタシッ。シドロモドロになるな会話を纏めて話すんだっ。

 えーと、伝えかった事のひとつは、コレだッッ。


「そう、凄く男の子っぽい名前なんだけど?」

「……ㇺ」


 あれ、なんだろうか空気がピリッとしたような感じがする……。わ、私なにか凄く気に触ること言っちゃったかな。


「おーい、お話中悪いのだけれどちょっとよろしいかい?」


 後ろから少しハスキーでイケメンよりな女子の声が聞こえてくる。もしかしなくても、私達に声をかけているんだよね。絶対、困ってる石川さんを助けるための声だよね。


「ん……その」

「あ、いいのいいの、ゴメンね変なこと言って」


 石川さんの声が申し訳無さそうに伝えてくる。いや、今回は私の配慮が全然――。


「――その、変……『嫌い』……だから」


 嫌いッ!? 私キラワレチャッタのッ!!?


 放心とする私の肩を気づけば六海ちゃんが叩いていた。


「ごめん、なんか助け舟に行こうにも……」

「いや、いいの、テンパっていろいろ台無しにした。私が悪いんだから……アハ」


 さようなら、石川さん。もう関わらないから、安心して……あれ、なんで私は石川さんと仲良くなりたかったんだっけ、もうなんか涙目で目の前が見えません。


 休み時間が終わる予鈴チャイムの音が今日は随分と遠くに聞こえるよ。






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