第四話 書庫
≪前田 満 視点≫
僕が元の世界に帰るためにやらなければならない事は、情報を集める事だと思う。
幸いにして、この世界の言葉を理解できているみたいだし、文字も読めるようだ。
僕らがこの世界に呼ばれた時に、どうにかしたのだと思う。
せっかく他の世界から連れて来たのに会話が不成立だと、僕達に魔王を倒せと伝える事も苦労するからね。
ルナさんが、この部屋にある物は自由に使っていいと言っていたし、さっき寝室に行った時にノートみたいな物とペンが置いてあった。
あれを使わせてもらおう。
僕はルナさんに確認して、ノートとペンを使わせてもらう事にした。
ノートは大学ノートくらいの大きさだけれど、立派な本の様に製本されていた。
中は真っ白で、自由に書き込む事が出来る。
ペンは万年筆の様な形をしているが、インクが無かった。
「ペンの上の所にある小さな黒い宝石に触るとマナが注がれ、書けるようになります」
どうやらこのペンは、マナと言う不思議な力を使ってインクを出す様だ。
マナと言う物が何か分からないし、僕にマナがあるのか疑問だったが、試しに小さな黒い宝石に触れてノートに試し書きをしてみた。
文字は問題なくかけたので、僕にもマナと言うのがあるのだろう…。
マナと言う言葉が気になるが、今は帰るための情報を集めるのが先だ。
「ルナさん、この世界の事を知りたいので、詳しく書いてある本は無いですか?」
「それなら、書庫へと案内いたします」
書庫があると言う事なので、僕はノートとペンを持ってルナさんの後について行った。
書庫は、僕の部屋がある大きな洋館から五分ほど歩いた場所にあり、ルナさんは重厚感あふれる扉を押し開け、僕を中に入れてくれた。
書庫の中に入ると受付の様な場所があり、ルナさんが受付内にいる男性に話しかけた。
「トバイス様、勇者様がこの世界の事を知りたいそうですので、何冊か出していただけませんでしょうか?」
「分かった、暫く待て」
ルナさんからトバイスと呼ばれた男性は、両手を前に出して何か動かすような仕草をしていた。
暫くして、何処からともなく本が三冊飛んで来て、トバイスの前に音もなく降りた…。
僕がその事にとても驚いていると、トバイスが僕を呼んだ。
「勇者殿、ここの本は持ち出し禁止で、右手にある席で読んでくれ。決して本を汚すなよ!」
「はい、分かりました」
トバイスは、僕に三冊の本を手渡してくれた。
いたって普通の本で、飛んだりしないよな…。
僕が受け取った本を不思議そうに見ていると、ルナさんがクスッと笑いながら声を掛けて来た。
「ミチル様、私は戻っておりますので、お帰りの際はトバイス様に伝えて私を呼んでください」
「分かりました」
ルナさんは、僕にお辞儀をして書庫から去って行き、僕は右手にある席へと移動し、座って本を読むことにした。
「世界イーライリーズの全て」
「職業の種類と魔法」
「勇者の魔王討伐記」
受け取った本のタイトルには、そう書かれていた。
文字は日本語では無いけれど、不思議と読む事が出来る。
一冊ずつ本を読みながら、必要な所はノートにまとめて行く。
………。
……。
…。
驚いた事に、この世界にはゲームの中にある様な、レベルやステータスという概念があるらしい。
スキルや魔法もあり、やっぱり僕は夢を見ているんじゃないかと、再度疑ったほどだ…。
しかし、何度頬をつねっても目が覚める事はなく、これが現実だと突き付けられただけだった。
早く帰るためには、この世界の事を理解し、レベルを上げて強くなるのが近道なのかもしれない…。
「ミチル様、ミチル様」
「…」
僕を呼ぶ声が聞こえたので顔を上げると、いつの間にかルナさんが僕の横に来ていて声を掛けていた。
「ミチル様、そろそろ書庫が閉まりますし、夕飯の準備も出来ております」
「そうですか…」
僕は読みかけの本とノートを閉じ、三冊の本とノートにペンを持って立ち上がり、トバイスに本を返却して僕に与えられた部屋にルナさんと戻って行った。
「ミチル様はとても熱心なのですね。他の勇者様方はお部屋でお休みになっているみたいです」
「あ…う、うん…」
外は薄暗くなっていて、僕はかなりの時間書庫にいたみたいだ。
ルナさんは、僕が魔王を倒すために頑張っているみたいに思っているみたいだけれど、そうじゃないんだ…。
僕は元の世界に帰るために頑張っているのであって、決して魔王を倒すために頑張っているんじゃない。
それをルナさんに伝える必要は無いし、伝えて不味い事になっても困る。
しかし、ルナさんを騙しているようで悪い気がする…。
ルナさんとしては、自分たちの生命や生活を脅かしている魔王と言う存在を、僕達に倒して貰って欲しいと思っているに違いない。
だから、こんな無愛想な僕にも優しくしてくれるのだ。
ルナさんには、心の中で謝るしかない…。
部屋に帰ると、ルナさんが食事の乗ったワゴンを押して戻って来て、テーブルの上に僕の為の夕食を用意してくれた。
部屋で食事が頂けるのは、ボッチの僕としては本当に嬉しい事だ。
美味しい食事だとは言えなかったけれど、日本の食事が美味しいだけだと思うし、食事を頂けるだけで感謝しなくてはならない。
食事を頂いた後は、そのままテーブルの上で書庫で書き込んできたノートを広げ、調べてきた事を復習する事にした。
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