第三話 ボッチとメイド

≪前田 満 視点≫

「こ、国王陛下…わ、私はここにいる子供達に勉学を教える立場にありまして、子供達を両親から預かっている身でもあります。

 つ、つきましては、私達を速やかに開放してもらえないでしょうか?」

「それは出来ぬ相談だ」

「そ、それはどうしてでしょうか?」

「今回行った勇者召喚魔法を再度行うには、百年の準備期間が必要となる。

 しかし、我が王国を滅ぼそうとしておる魔王を倒せば、魔王の持つ秘宝アニムエルが手に入り、秘宝アニムエルを用いる事で勇者達を元の世界に帰してやることが可能である」

「つ、つまり…私達に魔王とか言うのを倒せと…」

「理解が早くて助かる」

「む、無理です!私は先ほど申し上げました通り、子供達に勉学を教える事が仕事ですので、魔王を倒すとかできません!

 子供達も同様です!」

「案ずるでない、そなた達勇者には魔王を倒せる力を秘めておる。

 アルロレーネ王国では今から三百年前、そなた達と同様に異世界より勇者達を呼び寄て鍛え上げ、魔王を倒したと言う実績がある」

「で、ですが…」

「突然の事であるから、信じられぬのも無理はない。今日は部屋を与えるので、ゆっくり休んでみなと話し合うがよい」


 呆けている北条先生に、クラス委員長の那須さんが声を掛けて正気を取り戻させ、王様に質問させてくれた。

 しかし、王様の答えは酷い物だった…。

 突然こんな場所に呼び出されて魔王を倒せとか言われても、誰だっていやに決まっている!

 いいや、クラスメイトの一部は大盛り上がりしているが、自身の置かれている状況を理解していないだけだと思う。

 王様は話が終わると、すぐさま退出していったし、鎧姿の人達も説明してはくれないだろう。


 僕は、一刻も早く元の世界に戻りたい。

 これが夢ではないのであれば、帰る方法は王様の言った通りなのかもしれない。

 いいや、この世界に連れてこられたのが本当だとしたら、他に帰る方法がきっとあるはずだ。

 僕は何としても帰る方法を探し出し、両親の待つ日本に絶対帰る覚悟を決めた。


 王様が退出して行ってから暫くすると、メイド服姿の女性達が広間に入って来た。

 どうやら僕達のお世話をしてくれるらしく、メイド服姿の女性達はクラスメイト達に声を掛けて、広間から連れ出して行っている。

 僕は王様に協力する気は一切ないけれど、何処とも分からない場所で放置されても生きてはいけないだろう。

 僕の持ち物は、ポケットに入っているハンカチと財布のみ。

 今日は食事の材料を買いに行く予定だったから、いつもより多くお金が入っている。

 だけど、ここが本当に異世界だと言うのであれば、持っているお金は使えないだろう。

 仮に使えたとしても、直ぐに尽きてしまうのは間違いない。

 運良く仕事を見つけられれば生活費には困らなくなるかもしれないが、仕事に時間を取られれば帰る方法を見つける余裕がなくなってしまう。

 ここから逃げ出す利点は今の所ないと思うので、詳しい状況が分かるまではお世話になるしかない。


 僕は残っているメイド服姿の女性の中から大人しそうな女性を選び、後ろから肩をトントンと軽くたたいて僕に気付かせた。


「あっ、選んでくれてありがとうございます。私の名前はルナと言います」

みちるです」

「ミチル様ですね、お部屋にご案内しますので、私について来てください」

 ルナさんに連れられて、僕は他のクラスメイトと同じく円形の広間から出て行く事が出来た。

 廊下を少し歩くと、直ぐに建物の外へと出られた。

 天気は非常によく、気温も穏やかだ。

 日本は夏で暑かったけれど、この地は過ごしやすそうだな。

 左手の少し離れた場所に西洋風のお城が見え、右手には洋館風の建物が建ち並んでいた。

 道の両側にある花壇に咲いている花も、今までに見たことが無い花ばかりで、本当に違う世界に連れてこられたのだと実感した…。


「ミチル様が私を選んでくれて本当に良かったです。選ばれていなかったらお給料が減らされるところでした」

 道すがら、ルナさんは僕に色々話しかけてきていて、僕はそれに頷くだけにしている。

 ずっとボッチだったから、家族以外の人と話すのは苦手なんだよな…。

 だけど、少しでも帰るための情報は欲しいので、ルナさんの他愛もない話を聞きながら道を歩き続けて行った。

 十分ほど歩いた所で、大きの洋館へと案内されて行った。

 他のクラスメイトも同様にこの洋館内に入って行ったので、一応安心して良いのかも知れない。


「ミチル様の部屋はこちらになります」

 ルナさんが案内してくれた部屋は三階にあり、僕はルナさんと一緒に部屋の中に入って行った。

 十二畳ある広さのリビングにはソファーや机が置かれていて、ここでくつろげるようになっている。

 隣の部屋には六畳くらいの寝室があり、トイレもその隣にあった。

 僕一人の部屋としては、広すぎるくらいだ…。


「この部屋の中にある物は全てミチル様の為に用意されていますので、ご自由にお使いください。

 私はこの扉の先にある部屋にいますので、用事がある際にはこのベルを鳴らして呼んでください」

「はい」

 リビングに扉があって、その先にルナさんの部屋があるようだ。

 ルナさんは一度部屋に戻り、暫くしてワゴンを押して戻って来た。


「どうぞ、お茶です」

「ありがとう」

 ルナさんは僕をソファーに座らせ、お茶を出してくれた。

 確かに喉が渇いていたし、お茶を飲んで落ち着き、これからやるべき事を整理する事にした。

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