第5話 映画鑑賞
1組の教室前で立ち止まった女子に視線を持っていかれた。
「勇人、もう帰っちゃったかな」
彼女の背中に沿う艶やかな長い黒髪が揺れる。
俺と変わらない身長で、スタイルの良い綺麗な子。
こんな子が同学年にいたなんて、知らなかった。
「バスタに寄るって言ってたよー」
「そうなの? ありがとう」
「ねぇねぇ青原さん、ちょっと聞いてー」
さきほどの有坂と同様の現象が起き始めた。
女子たちが青原さんという子を囲み、次から次へ話題を投げかけていく。
囲まれていても頭ひとつ背が高いおかげか、首から上は見える。
第一印象は女神様。
優しく慈しむ眼差しで相手と目を合わせて丁寧に答え、相槌もタイミングよく打つ。
外見に劣らず完璧な所作を魅せている。
「…………いてっ」
右手にギュッと鋭い痛みが走り、何かと思って隣を見下ろすと眞奈がいた。
俺の手の甲を抓ったあと、さっさと通り過ぎてしまう。
いきなり抓らなくてもいいじゃないか——。
眞奈と並んで登下校の道を歩く。
「そういや、3組はホームルーム長かったの?」
「すぐ終わったけど」
「けど?」
「クラスの子に、大河とどういう関係か聞かれた」
まぁバイト先が喫茶店だと帰り道一緒だし、噂にもなるのか。
「家族みたいなもんって言えばいいのに」
「あんまり深掘りされたくない。大河は聞かれないの?」
友達が少ないうえ、校内で声をかけられること自体稀だ。
「一度もないなぁ、友達も少ないし」
そう言った途端、今の自分が物悲しく思えてきた。
「学校の外にはいるくせにね」
「いや、それはまた別で……」
ハッキリ言われたわけじゃないが、つい周りをキョロキョロ見てしまう。
髪を掻きながら口ごもっていると、眞奈は大きく息を吐き出した。
「ばか大河」
変わらない拗ねた罵り方を受け流しつつ、家に帰った。
隣にある喫茶店に顔を出すと、店内は常連さん2人だけ。
父さんは厨房でのんきにスマホをいじっている。
時々思うが、どうやって店を続けているのか不思議でしょうがない。
「ただいまぁ」
「ただいま、店長」
声をかけると、父さんはニコッと爽やかな笑顔で厨房から顔を出す。
「おかえり2人とも。夕飯冷蔵庫に入ってるから、チンして食べてくれ」
「うん分かった。ありがとう」
帰りを伝えたし、さっさと部屋に行こう――。
喫茶店の裏口から家に入って、2階にある俺の部屋へ。
眞奈のほどよく丸みのある童顔な顔立ち。やや華奢で、小柄な印象がある。
俺と一緒にいる時はほとんど笑わない。今もベッドで俺を軽蔑に近い目で見上げている。
「映画を観たいって言ったんだけど……」
ブラウスのボタンを外すそうと伸ばした指先を止めた。
「え、あれ、したいのかなって」
「映画観てもいいか聞いたじゃん――ばか大河!」
眞奈の手がグイっと俺の顎を押し退けた。
「ぐぇっ」
一瞬の苦しさに、後ろへ倒れてしまう。
眞奈はベッドを壁にして床に座り、不機嫌そうに唸ってリモコンを握り締める。
「いやだって、映画観たいって、そういうことだと思うじゃん」
よく眞奈が言う『映画が観たい』は合図だ。
眞奈はジッとテレビに顔を向けている。
これは、下手なことを言えば部屋を荒らされそう。
俺が隣に並んで「ごめん」と呟くと、今度は横目で睨まれてしまう。
「ねぇ、どうして女遊びなんか始めたわけ?」
リモコンを操作しながら聞いてくる。
語弊があるものの、否定はできない。
「うーん、どうしてだろう、なんとなく……かなぁ。相手がいない人と会ってるだけだよ、途中で彼氏ができたらちゃんと終わりにしてる。もちろん他校の女子とか年上の人とかで――うぁっ!」
リモコンが飛んできた!
反射的にキャッチできた右手を見て、我ながらドヤッてしまう。
というかリモコンはさすがに危ないだろう。
「すぐ物投げるなって、危ないっての」
「ほんとに、ばか大河」
リモコンを返すと、眞奈はムッとしたまま再生ボタンを押して映画を流す。
タキシード姿のスパイが敵国の情報を探っている。
ライバル女スパイと裸で弄り合うシーンが流れてきた。
胸毛すごいな、この俳優……海外映画ってなんでこうベッドシーンが多いんだろう。
眞奈も淡々と映画を観ている。
ぽかんと口が開き、
「胸毛すご」
スパイ映画を観て同じ感想とは——。
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