第24話  村のマドンナの身の上話

無事に盗賊を撃退した。

生き残った盗賊どもは、トゴーとトゥデラに尋問されていた。


一方、怪我をした村人は、村長の家に集められていた。

「いてててっ」

「大げさに痛がるんじゃないですよ。かすり傷みたいなもんじゃないですか。命があっただけでも、喜びなさいよ」

「何を言いやがる。名誉の負傷だぞ、俺はよ」

「分かったわよ。怪我人なら大人しくしてなさい」と傷の上からピシャリと叩かれた槍衾隊の男は、「ギャー」とさらに大きな悲鳴を上げた。

身体のあちこちに包帯を巻かれた男に悲鳴を上げさせたのは、ナーシャという村一番の美人で、村の男達の憧れの的の女性だった。


村長の家の土間は、大きな木のテーブルが外に運び出されて、臨時の治療所になっていた。幸い、今回の戦闘で村人に死者は出なかった。とはいえ、大小の怪我をした者は少なからずいて、十数人がこの土間に運び込まれて、即席で作られた板と藁のベッドに寝かされて看病されていた。

この臨時の治療所で忙しく立ち回っているのが、治療魔法のスキルを持つナーシャであり、包帯を変えたり、飲み水や食事の面倒を見る村の女達だった。


腹を斬られるような重い傷を負った者が数人いたが、直ぐに手持ちのポーションで治療した。しかし、全員の傷を治すにはポーションが足りないので、その他の怪我人の治療は、村で唯一の治療魔法を使い手であるナーシャに頼ることになった。もっとも、怪我人のほとんどは、ポーションよりもナーシャの魔法で癒してもらうことを選んでおり、その結果、臨時の治療所は怪我人で溢れかえることになった。


ということで、俺達と村長との話し合いは、村の広場の青空の下で行われている。

丸太を輪切りにしたものを椅子の代わりにして座っている。

「この度は、ご苦労じゃった。こうして盗賊を壊滅出来たのは、この村だけでなく、近隣の村の者にも勇気を与える出来事じゃ。お礼を申し上げる」

と村長が礼を言いながら、依頼票にサインをして返してくれた。

「これで、商業ギルドの依頼は達成したということだな」と俺が護衛パーティを代表して確認した。

「今夜は、酒と料理を用意致しまので、是非とも、ゆっくり楽しんでくだされ」

長老たちの勧めもあり、その夜は宴会になった。


「あんた、本当に強いな。あんなに囲まれて、どうやって攻撃を防いでるんだ?」

酒を飲んで上機嫌のドゴーが聞いてくる。スキルに関することを聞くのは、この世界ではタブーなのだが、酔った勢いで聞いてきたのだろう。だが、こればっかりは、教えるわけにはいかない。

「はははっ、秘密だよ」と躱しておいた。

そのとき、ナーシャが俺の隣に来て、

「どうぞ、一献」と言って酒を注いでくれた。そして、そのまま、俺の座っている丸太から俺のお尻を半分押し出して、無理やり同じ席に座ってきた。

そして、「英雄様、お願いがあるんです」と言い出した。

英雄と呼ばれて、驚き過ぎて一瞬反応が出来なかったが、直ぐに、

「俺は英雄じゃないぞ」と言い返すと、

「いえ、私にとっては英雄様です。英雄様、お願いがあります。私を連れて行って下さい」と言って身体を押し付けて来る。

酔っているのかと思って顔を覗き込んだが、真剣な目で見返された。

「どういう意味だ?」と聞くと、

「私を、英雄様のパーティの一員に加えて頂きたいのです。もうこの村での暮らしは嫌なのです。お願いします」と必死の目をして頼み込んで来た。

「何で嫌なんだ?みんなに慕われているようだし、親父さんは村長だし。何不自由なく暮らしているようじゃないか」と言うと、

「私は奴隷なんです。村長の娘なんかじゃありません」と衝撃の告白をされた。

「そ、村長の奴隷なのか?」と聞き返すと、そこへ村長がやって来て、

「リュート殿、ナーシャはこの村で病死した旅の奴隷商が連れていた奴隷でしてな、解放してやる金がないので、持ち主のいない奴隷としてこの村で預かってきましたのじゃ」と説明した。

「持ち主がいないんなら解放してやったらどうなんだ?」

「奴隷には毎年、人頭税が掛かりますのじゃ。持ち主になるにも解放するにも、過去の人頭税を納めなければなりませんのじゃ。ナーシャの人頭税は、年に金貨2枚、もう5年もこの村におりますので、追徴金も合わせて金貨30枚以上を支払わなければ、解放することも、持ち主になることも出来ませんのじゃ」

と更に衝撃的なことを打ち明けられた。

「ナーシャはこの通り美しい娘じゃが、言い寄る男がいないのは、誰もそれだけの金が払えないからじゃ。もしナーシャに手をつけたら、その金は、その男が払わねばならなくなるからのう。しかも、人頭税の徴税官は、地の果てまで追って来て税金を取り立てますのじゃ」

「恐ろしい話だな」

暫く沈黙があって、

「それで、俺にどうしろと?」

「ナーシャを、リュート殿の奴隷にしてもらうのが一番かと。ナーシャもそれを望んでおるようじゃ」

「いや、待て。そんな金、俺にもないぞ」

すると、

「この盗賊のアジトに行けば、金銀財宝を溜め込んでいるかも知れないぞ」とトゥデラが話に割り込んで来た。

「盗賊のアジトか?こいつらの仲間はもういないのか?」

「ああ、ほとんど居ないようだ。どちらにしても、こいつらのアジトは潰す必要があるからな。明日にでも、行かないといけないぞ」とトゥデラ。

「そうか、分かった」

ここで、俺は村長とナーシャに向き直り、

「この話の続きは、明日、盗賊のアジトを潰してからだな」と言って、お開きにした。

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手使 肩ぐるま @razania6

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