第22話 集団戦法という考え方

村までの足として商業ギルドが、格安で馬車を貸してくれることになった。馬車といっても1頭立ての荷馬車に幌を取り付けただけのものだ。荷台は大人の女性が3人並んで寝転べる幅と長さがある。この馬車に、飲水を入れた樽と食料、全員の荷物も積み込んだので、一度に乗るのは3人として、残りは馬車と並んで歩くことにした。

交代で馬車に乗れば疲れも少ないし、夜は、無理をすれば3人が馬車の中で眠ることができ、2人は馬車の外で見張りをするというローテーションが組めた。


3日かけて移動して村に到着した。

途中で何回か魔物に襲われたが、あっさりと撃退している。

「あんたのところの女剣士は、かなり強いな」とドゴー。

「ドゴーの剣とスレイの弓も見事なもんだ」

と、互いの健闘を讃え合う。まっ、社交辞令のようなものだ。

村に近づくと、村の入り口を見張る自警団員が、俺たちの馬車を見つけて知らせたようで、村長達が迎えに出て来た。


村長の案内で村の周囲を見て回った。村は東西に約300メートル、南北に約200メートルほどあり、その中に60軒ほどの家があり、約250人が暮らしているという。

中央に、一際大きな家があり、そこが村長宅となっている。その前は広場になっており、村民の集会などに使われるという。その広場を囲むように家が数軒ずつ固まって並んでいる。

家の正面はいずれも広場に面しており、家の背後には、少しの距離をおいて村の柵がある。

村は、東から南にかけて森に隣接しており、柵も高く隙間が少ない。これに対して北から西にかけては、草原や林に隣接しているせいか、柵は低くて隙間も大きい。

村長や村の主だった者たちと柵に沿ってグルッと周ってみたが、これだけの広さを5人で見張るのは無理だと判断した。

仮に、村の端から反対側の端まで駆け付けなければならない事態が起きたとして、短くても200メートル、距離のある場所だと300メートルも走らないといけない。それだけ離れていると、駆け付ける前に防衛線が破られているだろう。

この村を守るには、俺達が護衛するだけではなく、村民達全員が自衛に立ち上がってもらわないと盗賊を退けることは出来ない。それが現場を見た俺達の結論だった。

村長宅に戻るときに

「作戦会議を開きたい。村の代表達も参加して欲しい」と伝えた。


村長宅の1階の土間には大きな木のテーブルが置かれており、俺達と村の重鎮達が席に着いた。

入口の正面に村長が座り、その左右に長老格の数名が座る。

長老の正面に俺、右側にトゥデラとルージー、左側にドゴーとスレイが座った。

「村を見せてもらったが、俺達がここの護衛を引き受けるには、条件がある」

「条件ですか?」と、村長は不安げに口を開いた。

「まず、防護柵だが、あれでは盗賊は防げない。高さが足りないし、隙間が多すぎる」

「元々はボアを防ぐためのものでして」

「柵は、そちらで補強してもらわないとダメだな」

「私共がするのですか?」長老たちは不服そうな声を漏らす。

「俺達がそんな労働を提供する謂われはないだろう。それから、村の人達にも戦ってもらう」

「私らにも戦えというのですか?」

「それでは護衛を雇う意味がない」

と、長老達は顔を顰める。

「自分達の村だろ?それに、商業ギルドの依頼に誰も応えなかったらどうするつもりだったんだ?」と俺が問い詰めると、長老達は答えに詰まり、暫く互いの顔を見合っていたが、やがて

「私達には戦うすべがありません」というので、

「いや、ある」と俺は断定する。

「この村の男たち全員に槍を持たせろ、それで横一列になれば槍衾やりぶすまと言って、立派な戦力が出来上がる」

「槍はそんなにありません」

「無ければ、作ればいい。木の槍でも十分だ。木の槍ぐらい、いくらでも作れるだろう」

長老達は黙り込んだ。

「俺達は5人いるから、それぞれに20人の村人を付ければ100人の兵隊が出来上がる。それなら50人の盗賊を相手にしても勝ち目が出て来る。それ以外に勝ち目はないが、どうする?」

「儂らは腕利きが来ると思っとりました。儂らに戦えなんちゅう無理難題をふっかけるなら、あんたらは要らねえです」と、髭の長い長老格の一人が答えた。

その一言で、暫く、その場を沈黙が支配した。

俺達が席を立とうしたとき、

「待って下され」

村長の一言で、俺達は座り直した。

「儂等にも手を貸せというのは分からんでもない」

「長老」先程の老人が口を挟みかける。

しかし、村長は、それを手で制して

「話は最後まで聞くのじゃ。そちらの言いたいことは分かった。じゃが、この村から出せるのは50人ということにしてくれんかのぅ」

「ほう、なぜ50人なんだ?」

「子供がいないことじゃ」

「子供がいない?」

「子を持つ者じゃと、死んだり大怪我をすれば、子育てが出来なくなるじゃろ。独り身か、子供を持たぬ者ならば、その憂いがないからの」

「なるほど。少し待ってくれ」

俺は左右に、50人でいいか確認する。全員首を縦に振ったので

「それなら50人でやってみよう」

こうして、村人の戦闘訓練が始まった。

「いいか、素人が役に立つ戦い方は槍衾しかない。これから槍衾の訓練をする」

「あの〜」と一人の村人が声を出す。

「なんだ?」

「槍衾ってなんです?」

「それをこれら説明する。黙って聞け」

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