第21話 護衛パーティーとして成り上がれ

そうこうしているうちに10日ほど経ち、金も少し溜まったので、トュデラに鉄の盾と鉄の胴鎧を買って、装備を整えた。

そして、いよいよ商業ギルドに登録に行くことにした。


この世界にはラノベのような冒険者ギルドというものはないらしい。

そして、その代わりというわけでもないが、商業ギルドが護衛の仕事を斡旋しているということだ。

危険な魔物が跋扈するこの世界では、護衛は大きな産業として成り立っているらしい。一歩町を出れば魔物や盗賊に襲撃されるような世界だから、護衛なしの輸送や移動は考えられないからだ。

そして、この世界でも、輸送、つまり流通は産業の根幹の一つだ。

だから、様々な物資の流通を支配する商業ギルドは、国境を越えた大きなネットワークを背景に、国から独立した大きな力を持ち、その仕事の一つとして護衛の登録制度と、護衛の仕事の斡旋を手掛けているということだ。


「護衛の仕事にリスクはないのか?」と俺が聞くと、

「リスクは、それなりにあるぞ。まず、襲ってきた魔物や盗賊に殺される奴は多い」とトゥデラが答える。

「そりゃそうだよな」

「次に、規模の大きなキャラバンで、全体をまとめる力のある商人が居ない場合、小さな揉め事は尽きない。時には護衛同士の殺し合いが起きることも珍しくないな。しかも、そうなると、商人はその損害の補填を護衛達に求めるので、賠償金が払えずに奴隷に落とされる護衛もいる」

「奴隷に落とされるのは嫌だな」

「運次第ということだな。後は、そうだな、若くて綺麗な女の護衛の場合、奴隷に落とすことを狙って、次から次へとトラブルが仕掛けられることもあるぞ。私には関係ない話だがな」

『商業ギルドの護衛というのも、結構ブラック業界のようだ』


ラズラの商業ギルド会館は、街の有力な商人達の拠点となっている。

地下1階地上3階建てで、1階にはロビーと受付カウンター、商談にも使われる飲食ラウンジとバーカウンター、商談のための幾つもの個室、会館を警護する衛兵の控室。2階には大中の会議室や商談用個室、職員の執務室。3階は、オークション会場、貴族を迎える貴賓室、理事長を始めとする理事のための個室があり、地下1階には大中の倉庫まである。


俺はトゥデラの後に続いて、商業ギルド会館に入った。

入り口には5人の警護が立っていたが、護衛パーティの登録に来たと言うと、ロビーだけという制限をつけられたが、すんなり入ることが出来た。

ロビーの奥にある受付へ行く、

「今日はどのような御用件でしょうか?」と受付嬢。

「護衛パーティの登録をしたいのと、護衛の依頼があれば引き受けたい」

「パーティのお名前は?」

「トリニティだ」

この名前は、昨日の夜に話し合って決めた。俺達は3人のパーティなので、俺が三位一体を意味するトリニティを提案すると、他の2人にすんなりと受け入れられた。

「それでは書類をご用意しますので、お呼びするまでいったんお待ち下さい」

俺達は、カウンターの前に並んでいる長椅子に腰を下ろして待った。

暫くするとカウンター嬢が、

「トリニティ様」と呼んだのでカウンターの所まで行く。

カウンターでは

「ご記入頂いたらお出しください」と言われて、分厚い書類を渡された。

登録書類に登録名「トリニティ」と書き込み、代表者として俺自身、リュートの名前を書き入れた。その他にも、本拠地や構成人数、その他いろいろな項目をトゥデラと相談しながら書き込んで提出した。

「受付が終わりましたら、商業ギルドのギルド証を発行しますので、改めて、もう少しお待ちください」と言われたので、再び長椅子の所に戻って待つ。


「トリニティ様」と呼ばれて、受付に行くと、3人分の金属のギルド証を渡された。

「手続きは以上ですが、商業ギルドに登録したからといって、商業ギルドから何らかの信用を与えるものではありませんので、そこのところをお間違えないようにお願い致します」と受付嬢。


その後、毎朝、商業ギルドに顔を出して、護衛の依頼がないか確かめ、依頼が無ければ森で狩りをして日銭を稼いで過ごしていると、ある日、受付嬢から声が掛かった。

ある村から護衛の依頼が来たが、料金が安くて、いまだに誰も受けない。そんな依頼でもよければ、ということなので話を聞くことにした。

何でも、盗賊がその村を定期的に襲うので、撃退して欲しいという依頼だった。盗賊の数は50人以上いるらしい。

村の様子を聞くと、村の周囲は木の柵で囲んであるだけで、何処からでも簡単に入り込めるらしい。完全に守ろうとするとかなりの人数が必要だという。せめて柵を乗り越えられないように補強出来れば守りようがあるのだろうが。

俺たちのパーティでは人数が少ないので、商業ギルドから何人か紹介してもえないかと頼むことにした。

「料金が安すぎる」

「村の護衛なんて格好悪いことは出来ない」

と言って断る者がほとんどだったらしいが、運良く、他のパーティに所属している2人の護衛が参加してくれることになった。

一人は長身で体格のいい大剣持ちで、もう一人は弓を持った女だった。

「俺はリュートだ。このチームのリーダーをやっている」と自己紹介をすると、

「あんたかい、こんな依頼を引き受けた酔狂な御仁は?商業ギルドのたっての頼みだから話は聞くけど、勝ち目がなさそうなら降りるからね」と腕組みをしながら女が言う。

「まあ、そう言うな。話ぐらいは前向きに聞いてみようぜ。ドゴーだ。よろしくな」と女を宥めながら男が手を差し出して来たので、

「前向きに聞いてもらえるのは有り難い。よろしく頼む」と答えながら、軽く握手する。

続いて、女が「スレイだ」と手を差し出して来たので、

「よろしく頼む」とこちらとも握手する。

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