第13話 俺の相場が上がったようだ

『人の心は難しいな。昨日まで、協力し合っていたのに、置かれている状況が変わってしまえば、簡単に敵に回る』

俺は、会話を聞きながら、そんな思いに沈み込んでいた。

考えてみれば12人の護衛で無事だったのは5人だけ。そのうちの4人がルートヒルトの護衛だから、他の2人の商人が不愉快になるのも仕方がないことだろう。

そういえば、無事だったもう一人はあの弓の名手ということだ。飛んでくる矢を、矢で撃ち落とすという離れ業も見せていた。どんな奴なのか興味を惹かれる。

その後、死体から持ち物を剥ぎ取る。盗賊が懐に持っていた金目のものは、いったん雇い主の商人に渡し、その対価として報奨金が支払われる。武器や防具は、欲しいものがあったら言ってくれと言うので、俺の体に合う鎧と篭手と脛当てを貰う。ルージー用には、篭手と脛当ては、サイズが合わなかったが貰っておいた。

待望の戦斧があったので、それはルージー用に貰い、俺用に新しい剣を2本貰った。

その他の武器や防具は、売るためにロープでまとめて馬車の屋根に括りつける。盗賊たちの首は切り落として、幾つかの袋に詰め込んで馬車の横に吊るした。

最後に穴を掘り、自分が殺した盗賊たちを埋める。俺とルージーは合わせて15人も殺したので、大きな穴を掘ることになったが、ルージーの怪力であっと言う間に大きな穴が出来上がった。

死んだ護衛は、宿場村まで運び、そこで弔うことになったという。

お通夜のように沈んだ馬車の列は、ようやく昨日泊まった宿場村まで引き返した。この小さな商隊はここで解散することになっている。

ルートヒルトは改めて俺たちを集めた。意見を聞きたいと言う。

「俺たちだけでヤヌツンクへ行くべきだ」と、ルートヒルトの親戚の若者ガレックの意見は変わらない。

「ヤヌツンクへ行くなら、ここまで戻ったのは無駄足になったな」と、ライド。

「いや、被害の出た商人を見捨てたとなれば、後々の信用に関わる。ここは、無理でも付き合う必要があった」とルートヒルト。

「明日、死んだ護衛の弔いをして、その後、バラバラに行動するんだな?」とライド。

「僕たちは、どうするんだい。単独でヤヌツンクへ向かうのかい?」とガレック。

ルートヒルトは、俺の顔を見て

「リュート殿次第だ」

いきなり話を振られて

「なんで、俺次第なんだ?」

「リュート殿は、まさに一騎当千。貴方が居れば、多くの護衛を雇う必要はない。しかし、だからこそ問題が出てくる」

「・・・」

「???」

俺も含めて3人は、怪訝な顔でルートヒルトを見る。

「あの戦いでリュート殿の評価はとても高くなりました。他の商人たちは、リュート殿の護衛料は、1日に銀貨30枚は払わねばおかしいと、私の契約にケチを付けて来ています。私もその評価には頷きますが、1日銀貨30枚も払うと、儲けが飛んでしまいます。つまり、リュート殿、貴方は、先程示した実力の為に、私が雇えるような護衛ではなくなったのです」


翌朝、商隊を解散した2台の馬車が宿場村から出ていった。

ここは宿泊する為だけの村であり、素泊まりの宿と不味い食堂があるだけで、長居したくない場所なので早々に立ち去りたい気持ちは分かる。

ルートヒルトは、これからどうするかまだ決めかねているようで、俺達は馬車の所で待機している。

すると弓を肩に掛けた長身の女性が近づいてきた。

「昨日の英雄さんはあなたかしら」と俺に話しかけてきた。兜のせいで顔は見えない。

「あんたは?」と聞き返すと

弓を肩から外して手に持ち

「メンデラの護衛だったけど、辞めたわ。ルートヒルトさんに紹介してもらえないかしら」

俺は、

「こっちの護衛のリーダーはあっちだが」と、ライドを顎で示した。

「そちらは専属の護衛の方?」

と、ライドに向かって言いながら兜を脱いだのは、驚くほどの美貌の持ち主だった。

「昨日、後ろから弓を撃っていたのはあんたか?」

「その通りよ、自己紹介が遅れたけど、私はシャングリアールよ。アールと呼んで」

「俺は、ライド。この護衛隊のリーダーをまかされている」

「なら、ルートヒルトさんに会わせてくれない?」

その時、ルートヒルトが馬車から降りてきて、

「どうかしましたか?」

「こちらの御仁が、旦那に紹介してもらいたいと言うんで」とランド。

「あなたは?」

アールはルートヒルトにお辞儀をして、

「メンデラの護衛をしていたシャングリアールよ。アールと呼んで。メンデラの護衛を辞めたので、貴方の護衛に雇ってもらえないかと思って来たんだけど」

「メンデラの護衛を?」

「後ろから弓で盗賊を倒していた御仁のようです」とライド。

「お~、あの弓の名人か。その御仁なら、護衛に雇うのはやぶさかではないが、今は今後の方針を考えている途中だ。暫く待ってもらえませんか」

そう言い置いて、ルートヒルトは、また馬車の中に戻った。

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