第12話 待ち伏せを撃退したら
今の所持金は金貨1枚と銀貨37枚になった。
真っ先にルージー用の鉄の胴鎧を買った。さらに、普通の旅支度として、予備の着替えやタオル代わりの布と、それらを入れる大きな袋、予備の水を入れる皮袋、非常時用の干し肉や薬草と、それを入れる中型の袋などを買い込んだ。
残った金は僅かになったが、皮袋に入れて首紐で吊って鎧の中に隠している。首元から引き出す以外には、鎧を切り裂かないと取り出せないので、すられる心配はない。ルージーにも銀貨10枚を皮袋に入れて渡しておく。
出発の日、俺は腰に長剣と短剣とナイフ、ルージーは右手にメイス、左手に鉄の盾、腰に短剣とナイフを装備して、ルートヒルト商会へと向かった。
荷馬車3台を連ねた小さな商隊は、朝の早いうちにクライムの街を出発して、国境の砦ヤヌツンクを目指す。
俺たちが乗るルートヒルトの馬車が先頭を走り、露払いの役目を担う。
一番前の席は御者役のライドと護衛の俺が座り、すぐ後ろに、ルートヒルトとルージー、馬車の後尾の後ろ向きの席には商会の若者サリデンと、ルートヒルトの親戚の若者ガレックが座る。
本当に信頼出来る者だけで固めたようだ。
俺は奥の手の盾と大盾、戦斧と弓を出し、周囲を警戒する。
1日目は何事もなく進み、宿場村に入る。宿場村の宿屋は、素泊まりの大部屋しかない。入ってみると、屋根が高いガランとした大きな空間で、商隊でひと塊になって、食事をして寝る。見張りを立てなくていいだけ、野営より楽だ。
2日目も馬車を走らせる。午後になって、気配察知に反応があった。
「敵だ。止まれ」
俺が叫んで、馬車を止めて様子を見ていると矢が飛んできた。
ルートヒルトは座席に備えた大盾を立てて、その後ろに隠れ、ライドは馬車の向きを反対方向に旋回させて馬を守ろうとする。俺はルートヒルトが用意していた鉄の大盾を持って馬車から降りて馬の前に立ち、体の半分を大盾で隠しながら、馬を狙ってくる矢を奥の手の槍や盾で打ち払っていく。
ルージーと残りの護衛は、まだ、馬車の中で待機だ。
ようやく馬車が逆向きになったとき、前方の道の両側の茂みから人影が踊りだしてきて、こちらに駆けて来る。
盗賊達は、予定していたより離れた距離で感付かれて、待ち伏せが失敗したことを怒っている様子だ。
ひっきりなしに矢が飛んでくるが、俺も奥の手の弓で反撃しており、敵の射手は少しずつ数を減らしている。
相手からすれば、大盾から出ている俺の上半身を狙っても、矢が当たる前に空中で弾かれるので、何かあると警戒しているのか、攻撃に躊躇いがある。
俺は、できるだけ盗賊を引きつけつつ、見えない矢を連射する。
他の馬車の護衛にも弓を使うものがいて、頭越しに矢が飛んでいき、その度に敵の射手が減る。相当腕が良いようだ。
とうとう相手が武器の間合いに入って来たので、片っ端から斬り付けていく。
たちまち5~6人の盗賊が血まみれになって倒れる。左右に回り込んできた盗賊は、左側はルージーが、右側はライドが馬車の側面で食い止めており、ルージーはすでに1人倒している。
後ろの馬車も襲われており、それぞれの護衛が応戦しているようだ。
前の敵を相手にしながら、奥の手の弓で、やっかいな敵の射手を減らしていくが、そのために俺はその場所に釘付けになってしまう。
後方からの矢が、最後の射手を倒したので、俺は奥の手全開で、目の前の盗賊達に斬り込んだ。槍で叩き、長剣で斬り倒し、戦斧と短剣で切り裂く。数分で十人以上を制圧した。
しかし、商隊の後方では、激しい戦闘が続いている。
『ルージーは?』と見ると側面の敵を片付け、一つ後ろの馬車の応援に駆けつけている。
ライドも何とか持ちこたえているようだ。若い護衛は、馬車に乗ったまま槍でライドの支援をしている。横着だが、賢い戦い方だ。俺は踵を返してライドに斬りかかっていた奴らを倒し、更に後方の馬車の助太刀に行く。
真ん中の馬車は被害が少なかったが、最後尾の馬車は悲惨だった。護衛の2人が倒され、残りの2人が踏ん張ってはいるがもう持ちこたえられないといったところだ。前の馬車からの弓の援護がなければ、この2人も危なかったようだ。
すぐに、俺と前の馬車の護衛達、反対側はルージー達が到着し、激しい戦闘の末に最後の盗賊を倒した。殿を受け持っていた商人は、馬車の中で震えていた。
生き残った盗賊たちが逃げ出したことで戦闘が終わった。
被害を調べてみると、護衛12人のうち2人が死亡、5人がかなりの負傷をし、最後尾の馬車は何箇所か壊されていた。
盗賊の死体を片付ける前に、今後どうするかについて、ルートヒルトは、他の2人の商人と相談することになったそうだ。
各自、自分が殺した死体を集めながら話し合いの結果を待った。
盗賊の死体は30以上あった。俺が10人以上殺し、弓使いが6~7人、ルージーが4人、他の護衛は、各自1人か2人殺したといったところだろう。
「悔しいですが、昨日泊まった宿場村に引き返すことになりました」
ルートヒルトは憔悴した顔で、話し合いから戻ってきた。
「盗賊を撃退したんだから、今が進むチャンスだと思うんですが」
と、ルートヒルトの親戚のガレックが意見を言う。
「私もそう思うんだが、他の2人から、護衛達がやられたので、このまま進めないと言われましてね」
「護衛が全員無事なのはうちのところだけか」と、ライドが零す。
「そのことで反感をかったようです。他の2人は、私を遠ざけ始めています。しかし、盗賊の死体については討伐した者が成果を取るということは譲りませんでした」
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