第3話 戸惑い

第139話

「ほら、やっぱりケイだったんじゃないっ」





彼のスーツの胸元に頬を寄せて、私は、そう責めていた。





彼は、そんな私を抱きかかえ、ケイと全く同じ微笑みを浮かべている。





スーツなんて着て、ネクタイなんか締めて……全然ケイらしくないけど……。





抱きしめる手に力がこもっているなんて、不思議な感じだけど……。





黙って微笑んでいるという事は、彼がケイだという証。





ああ、良かった……。






ケイと会えて……。









「良か……っ」






呟いた自分の声に意識を引きあげられて、私は両目の瞼を持ち上げた。





つい先ほどまで頬を寄せていたケイの胸元なんて、視界のどこにもなくて……。





見える範囲には、白い天井と、空調機の吹き出し口と思われるものと、ごく普通の灯照明器具があるだけ。





少し痛む膝をゆっくりと曲げると、腰の部分が柔らかいシートに沈み、掛けられていた黄色い毛布がズルリと落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る