第88話

『それと、後、もう1つ、はっきりしている事がある……かな……』




視線を泳がせていた私は、彼の言葉にハッとして視線を引き上げた。





「なっ、何っ?」





まだ何かあるのか?





………いや。





彼の真実を知りたいし、分かっている事があるならどんな事でも打ち明けてもらった方が嬉しいんだけど……。





闇の中にいる、とか、誰かに呼ばれる、とか聞いただけで、私的には頭の中がいっぱいいっぱいで……。





動揺を隠しきれずにいる私の頬に、彼は、自身の手をそっとあてがい、





『闇から解放される度に実感する。君の傍に、と、望んでいたんだ、って……』





そう、少し照れくさそうに視線を伏せた。





みるみるうちに、私の胸の中に、淡くて温かい何かが広がっていく。





たとえそれが、その場凌ぎの優しい嘘でも。





何も思い出せない彼の、一時的な思い込みだとしても。





彼のその一言で、こんなにも気持ちが救われてしまう……。





現実逃避だって解っていても、甘えてしまう……。

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