第86話

黙り込んだ私達の間で、つけっぱなしのテレビから流れるタレント達の賑やかなトークが、空々しく響いている。




いけない。





気持ちが急いてしまった。





記憶喪失の相手に次から次へと質問するなんて………。





「あっ、その、なんか……」





『分かっている事は、今話したことと………それから、闇の中で、時々、誰かに呼びかけられる事』





ごめんね、と続けようとした私の言葉を遮り、彼は私をまっすぐ見つめた。





「えっ、よっ、呼ばれるって………な、なんて?」





いきなり打ち明けられて、背すじが無意識に伸びてしまう。





彼の謎に迫る……その一歩を踏み出してしまうようで、問いかけるのが少し怖かったけれど。




知りたい……彼の事を。





『多分……ケイ……って……』





「ケ……イ?」




K?……圭?……敬?……慶?




咄嗟に、幾つかの文字が頭に浮かんだ。




やっぱり、日本の人の名前なんだろうか……。




下の名前なのか、愛称なのか、判別できないけれど、思いがけず普通の名前でちょっとホッとしてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る