第82話

小さな子供の訴えに耳を傾ける大人のような……そんな穏やかで優しい口調が、私の胸を高鳴らせる。





「いや……なんとなく……気になったから」





気まずく答えた私に向かい、彼は笑みを浮かべたまま首を傾げた。




『………相変わらずだよ』




そうあっさり答えられて、やっぱりね……と思いつつも、燻った疑念はそう簡単には晴れなかった。




「……でもさ、不思議だよね。政治家の名前とか、歌手とか、その他の色々な事も知っているのに……自分の事だけ思い出せないなんて」





無理矢理笑顔を作って、言葉を思案しながら食い下がる。





責めていると取られないよう、口調はなるべく明るくしたのだけれど……。





彼は、やはり、責められていると受け取ってしまったのか……『うん』と小さく相づちを打って、視線を伏してしまった。





『………気味が悪い?』





「えっ?……ううんっ」





驚いて首を横に振っても、彼はまるで見えないそぶり。





「ち、違っ、そういうんじゃなくてっ」





焦燥感に強張る口元を動かして、やっと絞り出した声は裏返っていた。

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