第3話 甘美な逃避

第80話

たわいのない話しをしながら、簡単に食事を済ませて。




お楽しみのケーキも味わって。




クリスマスツリーもなければ、飾り付けもしていない部屋の中であっても、私はそれなりにクリスマス気分を堪能した。






彼には、世間一般並みのクリスマスの知識があるらしく、ケーキにローソクを立てて火を灯そうとした時に、『クリスマスソングは歌わないの?』なんて、訊ねてきた。





夕べは浮かれていて、その彼の言葉を深く考えたりはしなかったけれど。




改めて思い返すと、気になって仕方がなくなってしまう。




彼の知識に関しては、クリスマスに限った事ではなく。




日常的な概念や知識に関しても、彼のレベルは現代の日本人のそれに全く劣らない。




こうしてテレビを見ていても、彼の反応はいたって普通。





大概の現代用語や俗語は理解しているようだし、時事問題を批判したり意見する事もしばしばある。





こんなに世の中の事を理解していて……自分のことを全く思い出せないなんて……本当に不思議だ。




……というか、本当に思い出せていないのだろうか?





彼は、彼自身が何者なのかを、既に理解していて……。





何か事情があって、それを話してくれないだけなのかも……?





そんな疑念が一度生まれてしまうと……なかなかそれをぬぐい去れない。

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