第75話

「ふぅ……」




立ち止まって白い息を吐き、ずっと上がりっぱなしだった両肩の力をゆっくりと解く。





軽い痛みを伴いながらほぐれていく肩と背中に、無駄な力が入っていたのだなと、改めて驚かされた。





楽しんで来いよとか、頑張れよ、とか言われて………ついつい張り切りモードのスイッチが入ってしまっていたけれど。





所詮は虚聞。激励されたところで、当初の目的である『ケーキを買う事』ぐらいしか頑張りようもなく……。





それでも、『彼氏無しだった安原にやっと彼氏が出来た』と、喜んでくれている人もいるかと思うと、激励の言葉に応えずにはいられなかった。





素直に……嬉しかったんだ。





職場の人達にとって、私に彼氏がいようがいなかろうが、そんなのどうでもいいことのはずなのに……。





冷やかし半分かもしれなくても、笑顔で私の聖夜の幸福を祈ってくれて……。





本来なら、そんな風に激励されれば尚更、罪悪感に苛まれそうなものだけれど、不思議とそうはならなかった。





それは……きっと、家で私の帰りを待っていてくれている彼のおかげなのだと思う。





職場の人達が想像しているような『彼氏』じゃないけれど。





彼と、クリスマスイブを一緒に過ごせるのは本当だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る