第42話

「俺もタクシーで帰るから、心配すんな。」




「いや……でも……」




「別に、俺は……朝まで一緒にいてもいいけど?」




耳を疑いたくなるような言葉を囁いて、彼は、不敵な笑みを浮かべている。




目が少し潤んで見えるのは、多分、彼自身もかなり酔っているから……。




「は……ははは……またまた~……からかわないでくださいよ~」




私は背中に走った悪寒に耐えながら、唇の両端を無理矢理釣り上げた。




景山さんの戯言は、こんな風に笑って流すしかない。




一応職場の先輩だし、露骨に拒絶するような言葉は避けたいところ。




景山さんの方だって、どうせ冗談で言って……



「からかってない」



低く、強く、重く、景山さんの声が耳元に落とされた。



ギクリと肩をすくめ、咄嗟に顔を背けてしまう。




ダメだ。




ここはもう、うやむやのままに、この場を立ち去るしか無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る