第3話 遁走

第41話

景山さんに腕を引かれて、私は、彼の行きつけだというお店に連れ込まれた。




この時間帯だからなのか、それとも普段からなのか分からないけれど、店内にはお客さんらしき人の姿はなく、人の姿と言えば、カウンターの中のバーテンダーの男の人2人だけ。




微かに流れているのは、多分、ジャズ…?




落ち着いていて、大人の隠れ家的な雰囲気のお店だ。




そのお店の奥のソファに座らされた私は、コートも脱がずバッグを抱えてじっと身構えていた。




アルコールの所為で、身体は倦怠感に支配されているし、頭もボウッとしているけれど。




こんな時間に景山さんと2人きりじゃ、気を緩めてくつろぐ気分にはなれない。




私は、目の前に置かれたレモネードのグラスから視線を移し、隣に座っている景山さんの様子をチラリと盗み見た。




手にしたグラスの氷を微かに揺らして、琥珀色の液体を口に運んでいる。




「気分はどうだ?」




琥珀色の液体に浮かぶ透明な氷に目を奪われていた私に、彼は機嫌の良さそうな声音で問いかけてきた。




「あ……平気です。それより、あの……景山さん、終電………」




上手く回らないロレツで可能な限り普段通りに喋った……つもりだけど、あまり上手には喋れなかった。




意識以上に、身体がアルコールに侵されている証拠だ。




景山さんは、私の背中に腕をまわし、私の頬に顔を近づけた。

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