第40話

「どこ行くんだよ?……バスの乗り場、こっちじゃないだろ?」




私を捕らえた張本人は、怪訝な物言いで訊ねてきた。




視線を上げなくても、自分が誰に抱きかかえられているのか分かっている。




この人は、さっきまで、私の隣で私の肩に触れ、私の髪の毛先を嬲るように玩んでいた人。




「え……あの、なんで……っ」



駅へと向かう景山さん達を、確かに見送った筈なのに。



どうして、彼は、ここにいるのだろう。




頭は混乱して、気持ちも急いているのに、思考する速度が酷く鈍い。




酔ってさえいなければ、後をつけられている途中で、その気配に気づけたかもしれないのに。




酔ってさえいなければ、私を捕らえるこの腕をはね除けて、警戒態勢に入れるのに。




今の私は、ゼンマイの切れた人形のように、景山さんの身体に寄りかかっている事しかできない。






「バス停まで送ろうと思って追いかけたら、こんなとこ入り込んでフラフラしてるし。……気分、悪いのか?」




呆れたような表情の景山さんに顔をのぞき込まれながら、私は成すすべもなく身体を強張らせる。




「ちょっと休んでいこう。タクシーで送ってやるからさ。……ほら、こっち」




私の手を強引に握る彼の手の熱は、私を温めるどころか、全身の血を凍らせていくような錯覚を起こさせる。




急速に冷えていく心。




今にも手放してしまいそうな意識が必死に求め続けていたのは。




あの光のぬくもりだった。

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