第35話
これはちょっと酷い。
後輩の、しかも、こんな気弱そうな稲川くんを使い走りにしてまで、私を二次会に参加させようとするなんて。
若手社員の良き指導者であるべき立場の人が、有志の飲み会の場とはいえ、それでいいのか?
一体、何様のつもりでいるのだろう、あのヒトは。
「…………景山さん、今、ドコにいるの?」
「駅前のカラオケ屋なんですけど……あのっ、今から一緒に来て貰えますか?」
眉をひそめた私に臆したのか、稲川くんはオドオドと言葉を繋いだ。
「………絶対連れてこいとか、強く言われた?」
「……あ……あの、無理だったらいいんで。……ホント、すいませんでした、突然」
彼は、眉をひそめた私を気にしてか、首を真横に大きく振り、次いで、深々と頭を下げた。
そう言いながらも、稲川くんが困っているのは、一目瞭然。
このまま彼が1人で景山さんのところに戻れば、「使えないヤツ」の烙印を押されてしまう事も考えられる。
たとえ、お酒の席での冗談であっても、それは立派なパワハラだ。
そういう展開が容易に想像できる中で、彼の頼み事を突っぱねてしまう事なんて……。
「待って、稲川くん」
私は憤る気持ちを必死にこらえながら、項垂れて歩き出す稲川くんの後ろ姿を呼び止めた。
断れるハズがない。
こんな馬鹿馬鹿しいコトに利用された不幸な後輩の頼みを、どうして断れるというの……。
私がそう決断するのも、景山さんの計算のうちなのだろうけど。
そう考えると、余計に腹が立つけれど。
私が行けば、稲川くんが非難される展開だけは避けられるはずだから。
「……一緒に行くよ」
「ありがとうございますっ!あのっ、た、助かりますっ」
安堵の笑顔を浮かべて、稲川くんは、何度も深々と頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます