第33話

ひと気の無い事務所の通路は不気味なほど静かで、ブーツの踵の音がやけに大きく反響して聞こえる。




その音が、サスペンスドラマで犯人につけられているシーンを髣髴とさせて、つい、歩く速度が速まってしまう。




ここ連日、オカルト現象とも幻覚ともつかないモノを目の当たりにしていて、私って案外神経が図太いのかもって思っていたけれど。




こういうシチュエーションを怖いと思える程度には、私もデリケートだという事か……。




そりゃあ、あの『電気ストーブの怪』だって、それなりに気味が悪いし、不可解だとも思う。




彼が何者なのか……それが彼自身にすら判らないあたりが、なんともミステリーだし。




でも、もしもこの場に彼が現れても、多分、怖いとは思わないし、それどころか、心強いとすら思ってしまうかもしれない。




むしろ、今ここに現れて怖いと感じるのは、生身の人間………。




……といっても。




倉庫の鍵を守衛室に返しに行った時、私が最後だろうと守衛さんに言われたんだもの。




閉会から1時間も経過しているし。




誰かが突然現れるなんてあり得ない。





しかし……。





景山さんが二次会に繰り出していったからといって、ゴミ置き場の分別作業を途中で放り出すわけにもいかず、倉庫の片隅で黙々と分別作業に勤しんでいたのだけれど。





まさかこんなに時間がかかってしまうとは……。





いやいや。





それでも、景山さんの計画している二次会に連行されずに済んだ分、早く家に帰れるんだもの。





誰もやりたがらない、しかも、今日中に終わらせなくてもいいゴミ分別作業を、倉庫の寒さに耐えながら頑張っていた甲斐があったというモノだ。





とにかく、一刻も早くアパートに帰って、電気ストーブの精と戯れよう。





私は、浮上する気持ちに足を速めて、事務所の階段を駆け下りた。

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