◆6月21日(日)雨

 映画を見ていても、彼女はどこか心あらずの様子だった。手をつないでも、彼女の心が手の届かない場所にあるような気がした。


 夕方の雨はTシャツでは肌寒く、自分も上着を持ってくればよかったと反対のホームに立つ人たちを眺める。

 雨粒がホームの屋根や地面をたたく音に交じって、消え入りそうな「ごめんなさい」が聞こえた。


「別れたいです」

「……理由聞いていい?」

「友だちに、告白されて」


 その友だちが自転車置き場にいた人かどうかなんて、聞いても意味のないことだから。『そのうち』が今日になる予感が当たったところで、なにかを変えられる気がしないから。

 雨がより強くなり、音も大きくなる。擬態しようとしても、いずれぼろが出る。なんだか消えたくなって、その理由も彼女の心が離れたからじゃないのもわかっていて。


「うまく大事にできなくてごめん」

「大事にしてもらいました。告白したときから、ううん、告白する前からずっと優しくて、それが変わらなくて……私がひとりで寂しくなっただけ」


 声を震わせながらも笑顔を作ろうとする。告白現場を見る前からときどき寂しそうな顔をしていたことを知っていた。その理由が俺のせいだということも。何かしたのではなく、何もしないから。


「付き合ってくれてありがとうございました」


 謝るしかしない自分は、ごめんなさいもありがとうも言われる資格はないのに。

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