◇6月2日(火)曇

「美化委員の6月と7月の水やり当番、代わりにやってください!」


 太一が突然私の部屋にやってきて、短く刈りそろえた坊主頭を床に擦りつけるように土下座した。前にも見たことがある光景だ。おもしろいからスマホで写真を撮っておく。


「理由は?」

「月と水の放課後に当たってるけど、練習も追い込みだし、部長が遅刻できないんだよぉ」


 運動部の3年生は全国大会に出場する部活以外ほとんど引退したけれど、野球部はこれからの夏の大会に向けて猛練習している。

 私たちの高校は野球の強豪校で、去年は全国大会に出場、今年も地方大会の優勝候補だ。最後の大会にかける思いも、部長としての責任感も、私だって部長をしたからわかる。


「わかった。いいよ」

「ありがとう!」


 太陽みたいな明るい笑顔は昔から変わらない。


「やり方とかはしまと決めて」

「嶋って、嶋佑弦?」

「美帆でも知ってるか」

「私でもってなに」

「イケメンに興味ないだろ。てかバレー部の先輩と別れてから彼氏いないよな。まだ先輩のこと引きずってんの?」

「引きずってない」

「一応教えておくと、嶋は彼女いる」

「それこそ興味ない」


 よけいなお世話だ。特に、太一からは。


「私に頭下げなくても、喜んで代わる子はいるんじゃない?」

「よけいな争いを生んで嶋を困らせたくない」

「私が恨みを買うことについては?」

「美帆なら負けないだろ」


 家は真向まむかい。家族ぐるみの付き合いで、きっと友だちや親戚以上にお互いを知っている。楽観的な発言も、私の性格をよく知っているから。それでも少しイラっとしたので、やっぱり断ってやろうかと思った。

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