第27話

家に帰って待っていたのは、冷たい目をしたお母さんだった。


「最近帰りが遅いと思ったら、あんなもの作っていたのね」

「展示見たの」

「見てないわ。耳に入ってくるのよ、あんなに出来た子だったのにって言われるの」


 怒っている。当然だ。何も相談せずに始めて、結果を出せずにいるなんて、お母さんの言う完璧とは程遠い。

 その目がカバンにしまわれた本に向かう。


「そうだ。それ、その本のせいじゃない?」

「え?」

「そんなのがあるからダメなのよ。不出来なくせに怠けてそのままでいようとしたんじゃないの?」


 傷つけるために用意されたような言葉が突き刺さる。


「その本って貴女そのものみたい」

「……私?」

「捨てる場所用意してあげるね」


 捨てる場所、はすぐに作られた。庭に小さな焚火を作ったお母さんは、私に本を持たせると家の中へ戻っていった。

 

 炎が揺らいでいる。真っ赤な炎が、暗闇でその存在を主張し続ける。パチパチと薪の爆ぜる音がする。

 この炎の中に、本を入れるだけでいい。それだけで、全部無かったことになる。


 震える手で本を近づける。あと10センチ、あと5センチ、あと。あと少しで。

 ――炎が本に触れた瞬間、私の背後から本を追って小犬が飛び出した。


「あ、」


 止める間もなく、声も上げずに小犬は本と共に炎に呑まれた。炎はただ燃え続けている。


「……ごめんなさい。ごめん、もうやめるから……。もう…………」


 口から勝手に謝罪が溢れる。それを聞いてくれる人は、もう誰もいない。

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