第18話

週が明けて月曜日。フェルカに資料探しを頼んで、二人で作業をしているとノックの音が聞こえた。腰をあげようとして、リンにそっと止められた。


「メイサさんは作業を進めてください。リンが見て参りますね」

「ありがとう」


 少しして扉が開いたと思うと、ひょこりとリンが顔を出した。


「メイサさん、えと、ディレクター科の方が呼んでいらっしゃいますがいかがいたしますか?」

「ディレクター科?」

「どーもッス!ちょっとお話したいことがあるんスけど、今空いてます?」


 リンの後ろから出てきた見知った顔に頭が痛くなる。心配そうなリンを部屋に入れて、うるさい男を連れて廊下に出た。


「何の用事ですかアルハくん」

「そう警戒しないでほしいッス!先輩にとっても悪いことじゃないと思うッスよ」


 明るい茶髪に強気そうなつり目、口元と耳元で光るピアスという何ともチャラそうなこの男はアルハという。ディレクター科2年生で、おばあちゃんの編集者の孫である。

 胡散臭い笑顔がピッタリな、学内でも屈指の性格の悪さが有名だ。


「俺も小説づくりに協力させてほしいんスよー!」

「本当の目的はなんです?」

「えー?俺は本気で先輩の夢を応援したいって気持ちなんスけど……♡」

「本心を言うまで話も聞く気はありませんよ」


 私がそう言うと、アルハはその瞳に愉悦を滲ませながら笑った。


「オワコンって言われてる小説でウケたら、その編集者ってとんでもなく優秀じゃないスか?」


 出た。コイツのこういう利用価値しか見ていないところが、私は本当に大嫌いだ。


「リンと随分仲良さそうじゃないッスか」


 耳元のピアスをスラッとした指先でいじりながら、アルハは唐突にそう言った。彼の真意がわからずに視線で続きを促せば、心得たとばかりに机に身を乗り出し話を続ける。


「先輩は知らないと思うんスけど、アイツ1年の中じゃ浮きまくりなんスよ。言葉もまともに扱えない無能だって。そんな奴の手も借りたいぐらいって事ッスよね」

「リンを悪く言わないでもらえますか」

「言ってんのは俺じゃないッスよ。あー、で、最近の先輩はなんかおかしいんス。今までのアンタならこんな状況になったら、真っ先にまともに就職先が決まりそうな学科に移動してたでしょうに」

「……おかしいって失礼ですね」

「そこまで必死になってるってことはなんかあるんでしょ。俺にも一枚かませてくださいよ♡」


 アルハはにっこり笑って私に手を差し出す。

 コイツに声をかけられたのは初めてじゃない。一番最初は2年の時の学内発表会の時だ。言うだけ言ってどこかに消えたかと思ったら発表会直前での変更。本当に散々だった。


「大賞目指してんでしょ。力になるッスよ」


 ただ、能力があることは嫌というほど分かっているのだ。知らない間に力が入っていた手を、アルハの手に重ねた。その時、後ろからフェルカの声が聞こえた。

 振り向けば、頼んでいた資料を持ってきてくれたところで、本を何冊か抱えてこちらに歩いてきた。


「メイサ、今日は……って誰?」

「これ、アルハです。編集者の代わりになるらしいですよ」

「ふぅんそうなんだ。僕はフェルカ、よろしくね」

「フェルカって、神秘の星の転校生さんじゃないッスか。世間知らず同士で恋愛小説書いてんスか、世も末ッスね!」


 ピシリと空気が凍る。本当にコイツは性格が悪い。

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