第16話
「あの!」
何の参考にもならない恋愛ごっこを続けて数日、もうすっかり私たちの作業場となった図書準備室に向かっていると声をかけられた。
「文芸科1年、リンと申します。文芸科3年委員長のメイサさんでお間違いないでしょうか……!」
グレーのツインテールが揺れる。短い前髪から露わになっている眉毛はへにゃりと自信なさげに下がっている。
そんな彼女の肩には半透明の体を夕暮れの色に染めた山猫が乗っていた。
「何か御用ですか?」
「えと、その、リンは将来本の出版に携わる職業に就きたく、文芸科の皆様の作品を本という形にしたいと思っているのです」
「はぁ」
「ただ先日の思念派の思念共有装置によって、その夢が遠ざかりつつあるのです。実際リンのクラスメイトも学科移動した方が多くいらっしゃいます」
「3年生も同じですよ。たいして思入れがないから簡単に捨てられるんでしょう」
そこまで言って、マズイと口をつぐんだ。こんな言い方、文芸科を辞めた人たちへのヘイトスピーチみたいなものだ。
「リンは彼ら少しの気持ちも分かります。皆だって捨てたくはなかったはずなのです」
「……それで結局何が言いたいんですか?」
「言葉の力をもう一度思い出せば、どれほど大変なことが起こっているのかわかっていただけるはずです。メイサさんは芸術コンテストに参加されるんですよね」
先生に教えていただきました、と言われて思わず苦い顔をする。口止めしておけばよかった。
リンは俯きがちだった顔をグッと上げて、そのまま一歩私に近づいた。
「リンも協力させてください。リンはメイサさんの言葉には力があると思うのです」
少しの疑いもない言葉を、真っすぐに目を見て告げられる。さすがに居心地が悪くなって目をそらした。
「それは買い被りすぎじゃない……?」
「あ!敬語をやめていただけましたね」
彼女は得意げな顔をして小さく笑う。
「メイサさんは先輩ですし、リンにはそれくらいフランクな方が良いと思います。ぜひメイサさんの野望を実現させるために、リンをうまく使ってやってください」
どうせ私たち二人じゃ解決できないことも多いし、共犯者は多いに越したことはない。
「じゃあ早速聞きたいことがあるんだけどね」
「はい!何でもお聞きください!」
「恋人って何するの?」
「え?」
そう聞くとリンの顔はみるみる赤くなっていく。彼女の肩でくつろいでいた山猫も、私たちの間に割って入ってフシャー!と毛を逆立てて威嚇している。
「え!?」
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