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第15話

「まずは作戦会議ですかね」

「そうだね。……あぁ、思念体出しておいた方がいいよ」

「なんでわざわざ」

「ヤバいのが近づいてたら教えてくれるし、自由にさせておいた方が意識が安定するから」

「なるほど」


 夕方の図書準備室。私たちがコンテストまで拠点にする場所だ。フェルカに言われた通り思念体を出せば、小犬はトコトコと部屋を物色し始める。

 芸術コンテストに出ようと考えている、と先生に伝えると嬉々としてコンテスト案内と鍵を渡された。何でも頼ってね!とウインク付きで言われたくらいだった。


「で、今回のコンテストのテーマが『恋愛』?」

「恋愛小説なんて私考えたことも、な……い…………」


 自然とノートの山に視線が向く。私、あのノートの中で恋愛に関すること書いた覚えはない。


「この間書いたノートの中身は……」

「全部ボツだね!」


 いい笑顔だ。宝の山だと思っていたものが実はガラクタだったと分かった時ってこんな気持ちなんだろうな。とりあえず、で書き始めた小説はプロットで詰まったまま、白紙を表示している。


「実際にそれっぽいことしてみたら何か変わるんじゃない?とりあえず手をつなぐとか」


 手を握る。


「ハグしてみます?」


 抱き合う。


「キスは?」

「さすがにやめましょう」


 唇、は倫理観的に危ない気がする。


「もっと段階を踏んでやってみよう。えぇと『まずは名前で呼ぼう』だって、メイサ」

「そんな単純な話なんですか、フェルカ」


 呼び合って二人で顔を見合わせる。


「何が変わるんですかコレ」

「緊張と期待と愛情が混ざった感情になるらしいよ。ドキドキするっていうの?」


 恋愛サイトを調べていたフェルカがふと顔を上げたのが見えて、その目線を追う。その先では思念体の小犬と小熊が仲良くへそ天で寝ているのが見える。

 思念体は本人の感情にも反応するって聞いてたんですけど。思わずそう呟くと、フェルカは神妙な顔でそっと首を横に振った。


「『恋愛』がテーマで、ぼっちフェルカ宇宙人で参考になるわけがないんですよ。少し考えたら分かるのに、なぜ私はこんな無意味なことをずっと……?」

「僕も恋愛とかわかんないからなぁ」

「完璧な存在ならモテたりしないんですか?」

「一人で完璧だから番とかないんだよね」

「異星文化だ……」


 ともかくどん詰まりである。二人して頭を悩ませるしかない現状、どうにか参考に出来ないかと調べてみてもめぼしい情報はない。

 集中していたからか、近づいてきた気配に気づくのが遅れた。ギシ、と古い机が軋む音がして、隣を見る。


 ――そんな必要もないほど、彼は近くにいた。


「これだけ近づいてもドキドキしない?」


 机に手をついて私の数センチ先にまで顔を寄せているらしい。フェルカが話すたびに息がかかった。右側に重めに分けられた前髪が私のおでこに落ちてきて、そこから覗いた右目と目が合う。藍色とも黒とも言えそうな複雑な色合いの瞳からは感情が読めない、でもその目がキュウと細められたのは分かった。

 パソコンに置いていた手にフェルカの手がするりと寄り添ってくる。慈しむみたいに、まるで恋人がするみたいに手が絡められて――。


 そんな私たちの間にヌッと何かが割って入った。小犬だ。どうやらそういう遊びだと思っているようで、めちゃくちゃ楽しそうに笑っている。

 一方小熊はというと、遠くで、やれやれ……という様なジェスチャーをしている姿が視界に入った。本人に似てムカつく思念体だ。


「犬、突撃です」


 小犬をけしかけて成敗しておこう。

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